シェルパ・アンド・カンパニー、10億円調達の背景──ESG開示AIで業務効率化

シェルパ・アンド・カンパニー、10億円調達の背景──ESG開示AIで業務効率化

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シェルパ・アンド・カンパニー株式会社は、企業のサステナビリティ情報開示を支援するSaaS「SmartESG」を展開するスタートアップだ。同社は8月28日、WiLをリード投資家としてシリーズBラウンドのファーストクローズで10億円の資金調達を実施したと発表した。

今回のラウンドには既存投資家のグローバル・ブレイン、新規投資家としてANAホールディングス、キヤノンマーケティングジャパンのCVCファンドが参加。累計調達額は約15億円となった。

2019年に創業した同社は、企業の情報開示一元化と戦略的サステナビリティ経営をサポートするプラットフォームを提供している。「SmartESG」は2022年11月の提供開始以来、導入社数70社以上、時価総額累計200兆円を突破。時価総額5000億円以上の企業におけるシェアが約15%を占めるまでに成長し、トヨタをはじめとしたプライム上場企業への導入が進んでいる。

今回の調達資金は、AI機能の高度化とプロダクト拡張、さらに評価者側(投資家・金融機関)への事業展開に充てる予定だ。現在はファイナルクローズに向けて調達を継続している。代表取締役の杉本 淳氏に、事業の進展と今後の戦略について話を聞いた。

データプラットフォームで実現する業務変革

――御社の取り組む事業について教えてください。

杉本氏:私たちは「SmartESG」というSaaSのデータプラットフォーム事業を展開しております。企業の情報開示の一元化と戦略的なサステナビリティ経営のサポートが目的です。

サステナビリティの開示対応は企業にとって負荷が非常に高く、年々その傾向が加速しています。従来、サステナビリティ情報は有価証券報告書やホームページなど様々な場所に散在しており、「どこに何が開示されているか分からない」という課題がありました。

私たちが提供するのは、ワークフロー、データベース、マトリクス、ベンチマークといった4つの基盤機能です。これにより、企業は社内の情報整備からAIによる分析まで一気通貫で対応できるようになります。

画面イメージ
社内のサステナビリティ情報、評価機関の調査票、報道機関・投資家・サプライヤーからのアンケート情報など、あらゆるサステナビリティ情報を一元管理

3年前(前回取材時)と比較したときの最も大きな変化は、AI技術の活用によるプロダクトの高度化です。AIやNLP(自然言語処理)技術を組み合わせることで、投資家や企業など様々なステークホルダーから求められている情報の自動集約を実現し、データベースに自動蓄積した後、その情報を抽出・分析しています。

それに伴い、3つの新機能も追加しました。

1つ目は「SmartESG KPIコンソリデーション」で、国内のSSBJ(サステナビリティ基準委員会)による開示基準や、欧州のCSRD(企業サステナビリティ報告指令)といったサステナビリティ開示基準に対応した連結データを作成する機能です。

2つ目は「SmartESG Answer Ease」で、AIが評価機関からのアンケート情報に自動回答を生成する機能です。先行利用企業からは「助手を一人雇ったようだ」という声をいただいており、アンケート対応工数が概ね半減しました。

3つ目は「SmartESG Assessment」で、評価を受ける側だけでなく評価をする側も繋ぐプラットフォーム機能です。

――導入企業の業種や活用ニーズに傾向はありますか。

業種による偏りはそれほどありません。一番相関があるのは時価総額ですね。ESGの評価は海外の機関投資家や大口の機関投資家が注視しており、そうした投資家がカバーしている企業は時価総額1000億円以上になってきます。投資家からのプレッシャーもあり、サステナビリティの取り組みを加速する必要があるためです。

一方で、AssessmentやAnswer Easeといった新機能については製造業での需要が高まっています。サプライチェーンが長い業界では、取引先のESG対応状況を調査するニーズが増加しているからです。例えば「SmartESG Assessment」については東京メトロに導入いただいており、サプライヤー各社への調査に活用されています。

ESGスコア向上のための分析機能で経営意思決定を支援

――非財務情報の制度開示と任意開示について、企業はどう使い分けているのでしょうか。

どちらもやるという会社が増えてきています。今まで任意開示がメインで、CDPやCSA(Corporate Sustainability Assessment)といったESG評価機関への開示が中心でした。しかしここ数年で制度開示もルール化され、有価証券報告書等に出さなければならない情報となっています。

制度開示は来年度から時価総額の大きい企業から順に適用され、3兆円、1兆円、5000億円というバーが設定されています。そのバーに該当する企業は、任意開示に加えて制度開示にも対応しなければならない状況です。

――現在、経営の意思決定にどのように寄与していますか。

ここ数年でSmartESGが浸透してきたことで、様々な非財務情報がプラットフォームに蓄積されてきました。その情報をAIで分析し、レポート化を行っています。

特に重要なのが、ESGスコアが役員報酬に連動しているケースの増加です。企業は自社のスコア向上に真剣に取り組む必要があります。私たちのシステムでは、スコア向上にどのような要因が効いているかを特定する機能を提供している状況です。

具体的には、レポーティング機能により企業がダッシュボード的に「ここを改善すればESGスコアが上がる」ということをシステム上で把握可能になっています。その後の改善についてはコンサルティングも組み合わせた支援を行っており、一連の分析プロセスを通じて企業の意思決定に貢献させていただいています。

事業会社出資による双方向の価値創出

――事業会社からの出資の狙いについて教えてください。

今回はANAホールディングスとキヤノンマーケティングジャパンのCVCファンドに参加いただきました。ANAに関してはSmartESGのユーザーとして2年以上使っていただいており、様々な方面で支援させていただいています。サステナビリティに非常に力を入れている会社でもあるので、今後様々なサプライチェーンのESG対応などでSmartESGをより活用していけると考え、さらなる業務提携を前提に投資していただきました。

代表の杉本氏
ビジョンである「利益とサステナビリティが融合する世界を実現する。」に確実に近づけていると話す代表の杉本氏

キヤノンマーケティングジャパンはユーザーというよりは業務提携の文脈ですね。同社はスキャン電子化・文書管理コンサルティングを得意としている一方で、私たちはサステナビリティ・ESG関連文書の構造化・分析技術に強みがあります。

お互いの技術を掛け合わせることで、非財務情報の収集から電子化、検索性向上、そして最終的なレポーティング支援まで、一連のプロセスを一貫してサポートできると考えています。いわばBPOとテクノロジーを融合した高付加価値サービスの共創を目指している形です。

――今後連携していきたい業界はありますか。

幅広く連携を進めています。特に力を入れているのがESG評価機関とのシステム連携です。S&PのCSAパートナー認定を受けたほか、9月にはCDPのソリューションパートナー認定も発表しました。こうした実績を積み重ねながら、ESG評価機関や金融機関とのパートナーシップを拡大していく方針です。

一方で、アウトプット側の連携も重要視しています。大日本印刷や宝印刷など、最終的に情報を集約してレポーティングする企業との協業も積極的に展開中です。今後はこうした連携先がさらに増える見込みですね。

そして将来的に最も重要になってくるのが財務系プレイヤーとの連携です。財務と非財務の融合や相関関係の分析がますます求められる中、データ連携や高度な分析機能を提供できる体制づくりに力を注いでいるところです。

AI強化とグローバル展開で新フェーズへ

――今後の具体的な注力領域があれば教えてください。

大きく2つあります。1つはAIの部分です。これまでかなり組み入れてきましたが、直近のAIエージェントやLLM技術の高度化がグローバルで進んでいます。そうした最新技術をサステナビリティ領域にも実装していく予定です。そのためにも、AIのソフトウェアエンジニア人材の採用を加速させていくことが重要になります。

もう1つは金融側への展開です。評価する投資家サイドや金融機関側への展開を標榜しています。今まで評価を受ける大企業側の開示負担を下げる目的でやってきましたが、今後は評価者側への事業展開も進めることで、本格的なプラットフォームを作っていきます。

SmartESGが目指すプラットフォーム構造
SmartESGが目指すプラットフォーム構造

――海外展開についてどのように考えていますか。

私たちは唯一、APACでS&P Globalの「Accredited CSA Taxonomy Partner」に認定されており、これはアジアで初の認定です。グローバルで活動するにあたって、評価機関との連携や金融市場との連携をうまく活かせると考えています。国内における実績をアジアに広げていくことは、現在の状況でも十分可能だと思います。

欧州に関しても良い状況があります。日本企業が海外に子会社を持っているケースが多く、CSRD対応が必要になった際に、日本市場を理解していて海外も支援できるというのは大きな差別化ポイントになります。

次のラウンドでは、こうした海外での事業展開も具体的に見えてきている状況にしたいですね。

――今後の意気込みをお聞かせください。

新しいフェーズに入ったと感じています。サステナビリティ領域はブーム的な盛り上がりから始まり、一時期はバズワード化していた面もありました。しかし今では企業での社会実装が本格化し、制度開示の義務化によって「本当にやらなければならない」という認識が浸透してきた状況です。

こうした転換点において、私たちはテクノロジーの力であるべき姿を定義し、市場にプロダクトを投入してきました。この市場をなくてはならないものにしていく——それこそ、まさに私たちの使命だと考えています。最終的には、テクノロジーを駆使して利益とサステナビリティが真に融合する世界を実現したいですね。

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