化学業界の研究・提案業務を効率化──Cataris、用途探索AIエージェント基盤で5000万円を調達

化学業界の研究・提案業務を効率化──Cataris、用途探索AIエージェント基盤で5000万円を調達

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化学・素材産業向けのAIエージェントを開発するCataris株式会社が、サイバーエージェント・キャピタルおよびANOBAKAを引受先とした第三者割当増資により、5000万円のシード資金調達を実施した。

化学業界では専門的かつ属人的な研究・用途探索業務の効率化が課題となっており、今回の資金調達は、特化型AIプロダクトの実用化が進むなかでの動きとなる。

Catarisは2025年4月に創業。主力となる「Cataris」は、化学・素材メーカー向けに開発されたAIエージェントである。研究成果や特許、論文、営業日報、素材カタログなどの非構造化データに加え、公開データベースを横断的に解析し、新規用途の発見や顧客ニーズを反映した改良案の提案を行う。従来数カ月から半年を要していた業務を、AIエージェント活用により期間を約半分に短縮できることを特徴とする。レポート形式での出力や、企業ごとに最適化されるワークフローも備えている。

特許出願中の「マテリアル・プロファイリングAI基盤」は、素材特性の分析や物性予測、論文・特許情報の検索、類似材料データの整理、オントロジー技術の応用までを含む。AIは素材データだけでなく、営業日報に記載された現場の声や市場動向も参照し、短期間で用途仮説や改良案を提示する。これにより、従来は経験や勘に依存していた用途探索・改良業務の知見を形式知化し、組織内の他部門や若手メンバーの業務参画を容易にするとしている。

代表取締役CEOの松本悟志氏は、生物化学工学の研究を経て、IT製品の拡販や外資SaaS企業での業務効率化基盤構築を経験した後、AIスタートアップのCOOを務めた経歴を持つ。2025年にCatarisを創業し、化学とITの現場経験を活かしてAIによる業務自動化を推進している。

化学業界では、グローバル競争の激化や原材料価格の高騰、サステナビリティ要請による開発スピードの加速といった構造変化が続いている。特に研究開発や営業部門においては、知見の属人化や意思決定の遅さ、部門間の連携不足が事業拡大の障壁となっている。マッキンゼー・アンド・カンパニーの2024年の業界レポートでは、化学プロセスの最適化や新規化学物質の創出、特殊化学品の新用途探索が今後の成長領域と示唆されており、AIやデジタル技術の活用が重要性を増している。

これまで同分野におけるIT・AI活用は、主に生産工程の最適化やSDS(安全データシート)管理など工程効率化が中心だったが、近年は生成AIやAIエージェントによる用途探索や市場提案の自動化へと関心が高まっている。海外ではCitrine Informatics(米)、MaterialsZone(イスラエル)、Atomwise(米)などが類似領域で事業を展開し、構造化しきれないデータや仮説検証型ワークフローへのAI活用が拡大している。

今回調達した資金は、AI基盤の高精度化やVPoE(Vice President of Engineering)を含む開発メンバーの増員、関連プロダクト展開に充てられる。すでに複数の大手・準大手化学メーカーとの共同検証を進めており、10件を超える検証素材で新規用途発見や事業開発のスピード向上事例が生まれているという。

化学業界におけるAIエージェント導入には、企業固有データの活用範囲や安全性、現場業務とITシステムの統合など多くの論点がある。AI活用による競争優位性を獲得するためには、データ管理体制や既存業務フローの変革、中長期的な投資判断が求められる。今後は現場実装の進展や国内外の競合プロダクトとの比較検証、知識循環型AIの社会的インパクトが注目される動向となる。

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