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化学業界の研究・提案業務を効率化──Cataris、用途探索AIエージェント基盤で5000万円を調達


化学・素材産業向けにAIエージェントを開発するCataris株式会社は、第三者割当増資により総額5000万円の資金調達を実施した。調達した資金は、同社が展開する「マテリアル・プロファイリングAI基盤」の開発強化やVPoE(Vice President of Engineering)の採用を含む開発チームの拡充に充てられる。
Catarisは、素材の新規用途探索や改良提案を自動化するAIエージェント「Cataris」を提供している。従来、化学メーカーでは研究者や営業担当者の属人的な知見やアナログな営業手法に頼って用途提案を行っていたが、同社はこれらの工程をAIにより効率化することで、「探索スピード」と「提案の再現性」の両立を図る。

独自開発の「マテリアル・プロファイリングAI基盤」は、特許・論文・素材データなどを横断的に解析するだけでなく、物性予測ツールやオントロジー技術を組み合わせ、研究・開発・営業現場での迅速な意思決定を支援する。このAIは、機能性化学品メーカーなど、いわゆる“川中”に位置する素材メーカーが抱える開発や提案の課題、特に用途展開における「ラストワンマイル」の非効率性を解消するものだ。
「これまでの用途探索は、属人化された会議や試行錯誤の繰り返しだった。そこをAIエージェントによって構造化・自動化することで、素材ビジネスの拡張性を飛躍的に高めたい」と代表取締役CEO松本悟志氏は語る。
ビジネスモデルは「1素材ごとの探索レポート提供」による定額課金型で、顧客から提供された素材情報をもとにAIエージェントがレポートを作成・納品する。活用部門は研究者に限らず、営業企画や開発担当者に広がっているという。現在までに約10種類の素材で検証が行われており、大手から中堅まで複数社と協業が進む。

松本氏は「研究成果を社会実装するには、開発の“出口”を担うプロセスがもっと効率化されるべきだと感じていた」と述べる。自身のバックグラウンドには、筑波大学大学院での生物化学工学の研究経験に加え、IT・SaaS・AIスタートアップでの事業開発経験がある。創業後は、業界アドバイザーとともに10回以上のピボットを繰り返しながら、業界特化型のAIエージェントという現在のモデルにたどり着いた。
今回のラウンドには、サイバーエージェント・キャピタルおよびANOBAKAが参加。「経営戦略やファイナンス面での支援はもちろん、次のラウンドを見据えた成長戦略の客観視という意味でも非常に心強い」と松本氏は期待を寄せる。

今後Catarisは、用途探索や改良提案といった“部分最適”を超え、素材メーカーと消費財メーカーを直接つなぐ「マテリアル・トゥ・マーケット」の実現を見据えている。「AIエージェントが素材とニーズを結びつけるハブとなるプラットフォーム構想を中長期的に進めていきたい」と松本氏。その先には、ASEANや北米市場への展開も視野に入れる。
「科学業界は、人手不足や属人化、開発工数の増大といった課題を抱えており、そこにテクノロジーを持ち込む必然性がある。日本の素材が世界の製品開発に活かされる、その流れを支える存在でありたい」と松本氏は強調。Catarisの挑戦は単なる業務効率化にとどまらず、業界全体の構造進化を見据えている。

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