「AIエージェント市場のトップランナーとして加速」JAPAN AI、シリーズBで19億円調達の背景と成長戦略

「AIエージェント市場のトップランナーとして加速」JAPAN AI、シリーズBで19億円調達の背景と成長戦略

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JAPAN AI株式会社が2025年8月、ジャフコグループ、ニッセイ・キャピタル、FCE、りそなキャピタルを引受先とする第三者割当増資により、シリーズBラウンドで総額19億円の資金調達を完了した。同社は企業のAIトランスフォーメーションを伴走する「JAPAN AI 」を提供するスタートアップで、2023年4月の設立から約2年で単月売上1億円を突破している。

主要プロダクトの「JAPAN AI AGENT」は従来の一問一答型AIとは異なり、複数の業務プロセスを自動実行する点が特徴で、大企業を中心に導入が拡大中だ。

代表取締役社長の工藤智昭氏は、グループ会社の株式会社ジーニーでマーケティングSaaS事業も手がけている。2022年の生成AIブームを受け、日本の生産性改善を目指してJAPAN AIを設立した。

今回は工藤氏に、急成長の背景と今後の戦略について話を聞いた。

業務フロー全体を自動実行するAIエージェント

――提供するサービスの特徴について教えてください。

工藤氏:中核となるサービスは、自律型AIエージェント「JAPAN AI AGENT」です。ChatGPT登場当初のAIは一問一答形式でしたが、現在は企業の業務プロセスや業務フローをAIに学習させることで、より複雑な業務の自動化が可能となりました。

例えば、名刺を読み込んで会社情報や役職者情報を抽出し、そこからメールを送信したり、ドキュメントを作成するという一連の流れを自動実行する仕組みです。履歴書のチェック、面接記録、営業資料作成、マーケティングレポート作成や分析作業、クリエイティブ制作など、AIの能力をフル活用してあらゆる職種の人が使えるAIエージェントのプラットフォームを提供しています。

イメージ図
特定のタスクを自律的に実行する『AI社員』をノーコードで作成できるプラットフォーム(画像は公式HPより)

一方で、AIプラットフォームを提供するだけでは社内で浸透しない場合もございます。また、企業がAI変革をどう進めればいいか分からないという声を経営者からよくいただきます。そのため、プラットフォームサービスだけでなく、コンサルティングサービスも提供しており、企業のAI活用推進や業務のAIエージェント化を含めて総合的にサービス提供を行っています。

――グループ会社のジーニーさんとの連携はありますか。

現在も連携を進めています。ジーニーが保有するGENIEE SFA/CRM(営業支援・顧客管理システム)と、当社のセールスエージェントは非常に高い親和性を持ちます。

セールスエージェントでは、営業担当者の資料作成支援、SFA/CRMへのデータ入力支援、商談情報の分析やアドバイス提供などを行うAIを提供しており、これらをジーニーのシステムとセットで販売しています。

また、ジーニーが手がけるマーケティングSaaS事業で蓄積された顧客データやマーケティングノウハウを活用し、より精度の高いマーケティングエージェントを開発中です。営業支援システムと連携したセールス業務の自動化も実現するなど、グループシナジーを活かした事業展開を進めています。

エンタープライズ中心に毎月40〜50社が新規契約

――現在の導入企業の特徴について教えてください。

現在は100名以上の企業からの取引が増えており、特に1000名を超えるエンタープライズ顧客との取引が非常に増加中です。毎月40~50社のペースで新規契約が決まっており、事業も加速している状況となります。

業界としてはホリゾンタルに展開しており、地方創生系企業や人材・運輸系の企業、広告会社などの上場企業にも導入いただいています。コンサルティング会社と連携した業務やコンサル資料作成のプロセスエージェント開発なども行っており、様々な業界との関わりを深めている状況です。

JAPAN AI CONSULTING イメージ
今年の8月には「JAPAN AI CONSULTING」を発表、企業固有の課題のための包括的なAX(AIトランスフォーメーション)サービス(画像はプレスリリースより)

導入の進め方としては、まず部分導入から始まるケースが多いですね。企業の一部の部署や部門で試験的に導入し、そこから全社導入に発展させるパターンが主流です。最近では「生成AIでこれを実現したい」「当社独自の業務は対応可能か」といった具体的な相談が急増しており、当社がその実現可能性を判断して、カスタマイズしたAIエージェントを提供するケースも増加中です。

KPIとしては2つを重視しています。1つはMRR(月次経常収益)で、前年比10倍以上、直近では14倍程度の成長を記録しており、最も重要な指標として位置づけています。

もう1つは、顧客にどの程度活用されて、それが顧客の生産性や売上改善につながったかという効果測定の指標です。プロダクトマネージャーや企画担当は、日々良いプロダクト作りを心がけ、各社の生産性や業績改善に貢献できる企画立案を行っています。

――競合が増えている市場で選ばれている理由はどこにありますか。

選ばれている理由は大きく3つです。1つ目は先行優位性となります。昨年11月にAIエージェント機能を早期リリースできたことで、多様な企業での成功事例を蓄積し、様々な業務ノウハウを獲得できました。お客様からすると、実績のある信頼できるソリューションとして評価いただいています。

2つ目は技術力の高さです。海外でCTO経験を持つ人材や中国・台湾の有名テクノロジー企業出身のエンジニアが参画しており、生成AIの精度向上に集中的にリソースを投下中です。企業データを提供した際に適切に動作する技術基盤が評価されています。

3つ目は明確な費用対効果です。投資額に見合う分だけ確実に顧客の業績や生産性改善につなげることを重視しており、企業もそこを評価基準にしてきています。

プロダクト面では、汎用的なユースケースから職種特化型にシフトしており、より実用的なソリューションを提供できることも選ばれる要因になっています。

「日本を代表するAI会社に」という覚悟を社名に込めて

――創業の経緯について詳しく教えてください。

私はもともとエンジニア出身で、学生時代からAI領域に強い関心を持っていました。2022年にアメリカで生成AIのイノベーションが起こったのを見て、「これは本物だ」と確信したのが転機です。

代表の工藤氏 写真
「AIで持続可能な未来の社会を創る」と語る代表の工藤氏

以前から教授や研究室で語られていた未来のAI技術が現実のものとなりました。これを活用すればAIエージェントを開発でき、日本の生産性向上や人手不足といった課題を解決できると考えたのです。そこでJAPAN AIの立ち上げを決意しました。

グループ会社のジーニーは主にマーケティングやセールスの支援事業を展開しています。しかしAI技術なら、それを超えた幅広い領域であらゆる企業に価値を提供できるはずです。社名についても非常に悩みました。通常であればGENIEE AIとなるところを、日本を代表するAI企業になるという強い覚悟を込めて、JAPAN AIという名前を選んでいます。

――順調な伸び方の背景について教えてください。

創業初年度は順調に伸びるか不安でしたが、年末に強い開発チームが加わり、1年間の努力でプロダクトマーケットフィット(PMF)を達成できました。これにより翌年から急速な成長を開始しています。この手応えを感じてから資金調達の交渉を始め、今回が実は2回目の調達です。

PMF達成後は資金調達を実行し、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスの責任者を迎えて一気にスケール体制を構築しました。日本全体でも生成AIブームが継続する中、当社への需要も2年目後半から大きく増加しています。

企業のニーズも劇的に変化しています。創業当初は生成AIの性能が低く、半信半疑の顧客が大半でした。現在は生成AI3年目に入り、各企業にDX担当者が配置され、数千万円から数億円の予算で本格的に取り組む時代になりました。

当社では生成AIの成功体験や成功事例を一つ一つ積み重ねることを重視しています。この結果、業界内での評判により、様々な業界のAI知見を持つ企業として新しい顧客を呼び込む好循環が生まれています。公開情報としては、単月売上は1億円を超える月も多く、創業2年目にしては順調な成長を実現できています。

19億円調達で体制を2〜3倍に拡大へ

――今回シリーズBで19億円を調達した背景について教えてください。

日本のAIエージェント市場のプラットフォーマーとして、日本ナンバーワンを目指すことを掲げています。現在JAPAN AIで130名程度、ジーニーグループ全体では1200名程度の体制ですが、調達資金をもとに体制を2〜3倍に拡大していく計画です。

特化型のエージェントを順次立ち上げるほか、新たな事業構想もあり、リソースが不足していることが資金調達の背景にあります。

親子兼任という独特のリスクがある案件でしたが、投資家の皆様にご理解いただき、様々な契約やリスクもヘッジしながらご出資いただくことができました。日本のベンチャーキャピタルでも、親子を兼任している社長はほとんど例がないと言われており、実績や数値を上げていても、その時点で投資対象外となるケースも少なくありません。今回ご参加いただいた投資家の皆様には深く感謝しています。

――投資家の皆様との今後の連携についても教えてください。

今回の調達における投資家の皆様とは、単なる資金提供にとどまらず、各社が持つ業界ネットワークや顧客基盤との連携も期待しています。

ジャフコグループ様はスタートアップエコシステムの豊富な知見を、ニッセイ・キャピタル様は保険・金融業界での深いつながりを、FCE様は生成AI事業での協業実績を、りそなキャピタル様はりそなグループのリソースを活用した支援をいただいており、それぞれの強みを活かした事業拡大を進めています。

また、今後、業界特化型のエージェント開発では、多様なインダストリーの方々と組んでいきたいと考えています。例えば保険業界であれば、保険業界専用のAIエージェントの開発も進めています。それぞれの業界ごとの独特な業務プロセスに合わせて、AI活用のポテンシャルが高い業界の方々との連携を深めていく方針です。

「3年で大手SaaS企業超えを目指す」地方企業への貢献も視野に

――今後の海外展開やM&Aについてはいかがでしょうか。

海外展開もしてみたいと思っています。ジーニーでも海外展開しており、東南アジア、インド、アメリカにビジネスを持っているので、我々のプロダクトが通用する国、生産性向上やAI効率化が必要な国には我々のプロダクトを積極的に提供していきたいと思っています。

M&Aについてはまだわからないのですが、こういった僕らの野心的なビジョンや企業カルチャーに賛同いただけるような会社があったら、ぜひご一緒させていただきたいと思っています。

――今後の意気込みをお聞かせください。

多くのエンタープライズ企業や各業界の顧客との取引を通じて蓄積した実績やノウハウにより、市場ニーズの理解が大幅に深まりました。この知見を反映したプロダクトを9月頃にリリース予定で、ここからさらに成長が加速すると考えています。

長期的な目標として、3年で日本一の非上場SaaS企業を目指し、大手企業を超える規模の達成を掲げています。将来的には親子上場も視野に入れており、独立した事業として上場を検討しています。

AIで持続可能な未来の社会を創ることが私たちの使命です。現在は主にエンタープライズ向けにサービスを提供していますが、将来的には中小企業や地方企業にも使いやすいAIを届けたいと考えています。

日本の地方には、AI活用のノウハウや人材が不足している優良企業が多くあります。そうした地域の企業も成長できるようなAIソリューションを提供し、地方創生にも貢献していきたいと思っています。

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