AIがつくる“その瞬間の一杯”──NOMU ENTERPRISE、シードで4.5億円を調達


ドリンクの未来を再定義しようとしているスタートアップ、NOMU ENTERPRISE合同会社(以下、NOMU)が、シードラウンドにおいて4.5億円の資金調達を実施した。リード投資家はジェネシア・ベンチャーズで、他にJoyance AsiaやKendall Square Ventures、8名の個人投資家が参加している。これにより、累計調達額は7.5億円に達した。
同社は、独自開発の「リユースカップ式ドリンクマシン」を軸としたパーソナライズド飲料エコシステムを構築しており、ユーザーの嗜好や状態に合わせてカスタマイズされた「その人だけの一杯」を提供する。AI搭載のアプリや、サステナブルなリユースボトル、100万通り以上のメニューが組み合わさり、まったく新しい飲料体験を可能にしている。

この構想の背景には、代表・森國麦氏の環境課題への強い問題意識がある。「日本は資源が限られている国にも関わらず、過剰なプラスチック消費が続いています。自動販売機でボトルを開けるだけで、ナノプラスチックが放出されているという事実に、多くの人がまだ無関心なままです」と語る。
2025年9月には横浜市との連携で、庁舎内に第1号機を設置。利用データの取得と検証を目的とした実証実験を開始しており、設置初日から連日売り切れが続くほどの高い関心を集めている。利用者層は20〜30代を中心に、50〜60代のリピーターも増加中だ。「自分好みに甘さを調整できる。毎回、新しいドリンクを試すのが楽しい」といった声が寄せられている。
森國氏はベルリン出身。ロンドン大学で経営学博士号を取得後、欧州でのスタートアップ創業・売却、ソニーでの新規事業・M&Aなどを経て、2023年にNOMUを立ち上げた。「当初はソニー社内でこのプロジェクトを進めようとしていましたが、飲料領域は対象外。外部で挑戦する道を選びました」と経緯を明かす。
サービスの最大の特徴は“体験の自由度”にある。「集中したいときはコーヒー系、リラックスしたいときはティー系。気分や体調に応じて味の好みは変わる。音楽のプレイリストのように、飲み物もパーソナルであっていいはずです」と森國氏。アプリ上のAIバーテンダー「NOMUちゃん」が好みや気分に応じてレコメンドを行うなど、“味覚のSpotify”とも呼べる体験設計を目指している。

ビジネスモデルもユニークだ。マシンは設置先に無償提供され、ドリンク販売で収益を得る。1杯あたりの価格は149円〜390円/300ml。「飲料メーカーとして原点回帰しただけです。我々が売っているのは“機械”ではなく“体験”と“味”です」と森國氏は語る。
機器はすべて日本国内で製造されており、静岡の工場が主な製造拠点となっている。東京都大田区には技術・オペレーションセンターも構え、ハードウェアと体験の一体設計に取り組む。森國氏は「ハードウェアと飲料は“現場”が命。だからこそチーム全員が東京に拠点を持ち、開発と改善を日々繰り返しています」と述べた。
また、アプリとマシンを通じて取得されるユーザーデータは、味覚傾向・感情状態・使用頻度など多岐にわたる。「“甘いものを選ぶ人は疲れているかもしれない”といった推定ができるようになる。この味覚データを元に、将来的にはフード領域にも展開したい」とビジョンを語った。
将来的には、「NOMU STORE」と呼ばれる体験型店舗や、マシンがなくても楽しめる「NOMU GO」など、体験の多様化を図る構想もある。2025年内には渋谷・青山エリアで直営店のオープンが予定されている。
今後は日本国内で数千台規模の展開を目指しつつ、アジアや北米市場への進出も見据える。直近では東京・関東圏を皮切りに、関西エリアへの拡大と海外への輸出体制の構築が進められている。コンシューマー向けのブランド確立とエコシステムの完成を目指し、今後の動向が注目される。
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