菅政権が日本の目標として掲げた「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、政府は2021年6月にグリーン成長戦略を発表した。本レポートでは、グリーン成長戦略で成長が期待される14の重点分野から、輸送・製造関連産業に分類される7分野で事業を展開する企業をスタートアップ中心に紹介する。
日本の部門別CO2排出量(電気・熱配分前)は産業部門が24%、運輸部門が17%、あわせて約40%とエネルギー転換部門の比率に匹敵する。そのため、輸送・製造産業でのCO2削減がカーボンニュートラルの達成に向け重要となってくる。
①自動車・蓄電池産業
グリーン成長戦略の中では、日本の目標である「2035年までに、乗用車の新車販売で電動車100%を実現」が挙げられている。欧米と異なるのは、電動車のなかにHV(ハイブリッド自動車)を含めている点である。
日本車メーカーがHV生産に強いこともあり、HVが日本の電動化を推進する強力な材料になると日本政府が考えている一方、欧米はHVが走行時にCO2が排出する点を懸念していると考えられる。各国で電動車の定義に違いこそあるものの、自動車の電動化を強力に推進する考えに立っている点では共通する。
ただし、直近では、イギリス政府がガソリン車とディーゼル車の新車販売の禁止時期を2030年から2035年に延期すると発表するなど、産業界や家計の負担を考慮しながらEV目標を達成する必要性が顕在化した。
EVが最も普及している国の一つがノルウェーである。普及に特に効果的だったのが税制優遇だ。エンジン車に重い税金を課したことで、エンジン車よりEVの方が安くなった。また、寒さの厳しい地域特有のインフラ設備もEV普及を後押しした。昔からエンジン車のエンジンの凍結を防ぐためのヒーターを給電するコンセントが街中や一般家庭に備わっていたため、そのコンセントがEV充電にそのまま使用されている。
経済大国の中では、中国のEV普及率の高さが目立つ。背景には、主に二つの要因が考えられる。一つ目として、自動車メーカーに対する「ダブルクレジット」と呼ばれる独自の評価制度がある。ダブルクレジットとは、自動車メーカーに対してガソリン車の燃費向上の到達指標と新エネルギー車の生産台数指標の2つの指標を与えて、達成度合いに応じてクレジットを付与・剥奪する制度である。クレジットが貯められない企業は、他企業の余剰クレジットを購入して補う必要がある。二つ目として、大気汚染により健康被害が顕著化し、消費者意識としてもEV普及の必要性を感じる機会が日本より多いと思われる。
フォームより情報を登録いただくことで、レポート全文をPDFでご覧いただけます。
フォームはこちら
米国は、地域によってEV普及率の差がみられる。BEVの新車販売に占めるシェア(2022年第1四半期)を見ると、カリフォルニア州は15.7%、米国全体では4.9%となり、米国全土の3倍強の比率である※1。カリフォルニア州は、2035年にガソリンのみで駆動する新車の販売を全面禁止する方針を打ち出すなど※2、州ごとの政策がEV普及に大きく関わっている。
多国間主義であるEUは、一枚岩になれるかが今後のEV普及にあたっての課題だ。当初、「ガソリンなどで走るエンジン車の新車販売を2035年にすべて禁止する」としてきた方針を2023年3月に変更し、e-Fuelを使うエンジン車は2035年以降も認めるとした。ドイツが承認手続きの最終局面で反対したことが影響した。ドイツでは、自動車製造業の直接雇用者数が約88万人とEUで最も多く、雇用への影響について強い懸念があったと考えられる。
乗用車EV
乗用車EVには、国内3社、海外12社(内9社上場企業)を分類した。
米国のEV市場では、Teslaが36%のシェア(BEV販売台数)を獲得している※3。米国政府による税優遇の対象が、Tesla、General Motors、Ford Motorの11車種に限られていることから、Teslaは他の新興メーカーより圧倒的優位に立っている。
StellantisやVolkswagen、トヨタなどのエンジン自動車メーカーも健闘している。新興EVメーカーのなかでTeslaの次にシェアを獲得しているのがFiskerであり、高級路線に特化することで過当競争を避ける※4。