本記事では、株式会社ケップルのアナリストが作成したレポート「【独自調査】エネルギー分野でグリーン成長戦略を後押しする脱炭素スタートアップ」の内容を基に、グリーン成長戦略で成長が期待される14の重点分野から、エネルギー関連産業に分類される4分野(次世代再生可能エネルギー、水素・燃料アンモニア、次世代熱エネルギー、原子力)に触れる。
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・アナリストによるエネルギー関連産業の詳細な解説
・国内外のスタートアップ151社を分類したカオスマップ
・国内外のスタートアップ151社の詳細な情報
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エネルギー市場の動向
日本のCO2排出量の約4割は、エネルギー転換部門(電気・熱配分前)と部門別で最も大きい※1。そのため、火力発電を代替する、CO2を排出しないエネルギーの普及が求められている。
一方で、日本の再生可能エネルギーの利用割合は未だに十分ではない。2022年時点で、再生可能エネルギーの電源構成比は、水力や風力などの資源が豊富なブラジル、デンマーク、カナダが70-90%である一方で、日本は22%に留まっている※2。日本では、再生可能エネルギーの電源構成比を2020年度の19.8%から2030年度は36-38%へ引き上げることを目標として掲げている※3。
EUが2020年に「2050年カーボンニュートラル」の実現を掲げたことに倣って、菅政権も2021年6月にグリーン成長戦略を発表した。
①次世代再生可能エネルギー
グリーン戦略の中では、洋上風力、太陽光、地熱の3種類の再生可能エネルギーの普及目標が明示されている。
まず、風力発電は主に陸上と洋上の2タイプが存在するが、一定以上の風速がある広い陸地が限られた日本では洋上風力が主流だ。洋上風力では海上に発電機を設置することで、陸上よりも安定して強い風が吹くため、効率的な発電ができる。また、洋上風力発電は、発電機を洋上に浮かべる浮体式洋上風力発電と、海底に固定する着床式風力発電の2タイプに分けられる。
それぞれの方法で発電機を開発・運用する企業が存在するが、特に浮体式洋上風力発電は未だに発展途上の段階であり、ヨーロッパを中心としてスタートアップが多数存在する。また、場所の制約が少なく一定の発電が可能な垂直軸型風力発電など他の手法を用いた発電機を扱う企業も存在する。
次に、太陽光発電は、日本で最も普及している再生可能エネルギーだ。国内外で太陽発電所の建設・運用を行う企業が存在し、大企業だけではなくスタートアップも目立つ。太陽光パネルの開発、発電所建設、発電売買、発電管理ツール、VPP(仮想発電所)といった非常に多岐にわたる事業が展開されている。
そして、地熱発電は、地熱資源を豊富に蓄える日本にとって大きなポテンシャルがあるといえ、実際米国とインドネシアに次いで世界第3位だと試算されている※4。しかし、開発コストが高く、資源を正確に掘り当てることが困難で、また資源の8割が国立・国定公園内にあり開発が難航しているという理由から、日本での地熱発電の導入が滞っている。研究機関や政府主導による投資や法整備が求められる。
②水素・燃料アンモニア
グリーン成長戦略の中で、水素供給コストを2050年までにガス火力以下にすること、水電解装置の導入拡大を目標することが明記されている。また、燃料アンモニアでは、石炭火力への混焼の普及、東南アジアへの輸出拡大などが目標に掲げられている。
水素発電は、水素と酸素の化学反応から直接電力を取り出す発電方法である。水素は、貯蔵や輸送がしやすく燃焼時にCO2を排出しないというメリットがあるものの、水素を生成する設備や環境に大きなコストがかかるため、実用化はあまり進んでいない。しかし、研究開発段階として水素発電所を運用する企業や、水素供給を行う装置として水を電気分解して高純度の水素ガスを発生させる水電解装置の開発を行う企業が誕生し始めた。
アンモニア発電も燃焼時にCO2を排出しないものの、合成時にCO2が発生したり、十分な量のアンモニア燃料を獲得しづらかったりするため、実用化が滞っている。日本ではスタートアップを含めてアンモニア発電を主事業とする企業はほとんど存在しないが、海外ではいくつか存在する。
太陽光エネルギーを用いて、水とCO2を合成し水素やプラスチック製品を生み出す人工光合成という技術も存在する。人工光合成では取り出したエネルギーを水素として長期間、大量に貯蔵することができる。現在はエネルギー効率性が悪いものの、この技術が進歩すればカーボンニュートラルの達成に大きく貢献できる。人工光合成を活用したスタートアップは、海外では数社存在する。
③次世代熱エネルギー
グリーン成長戦略の中で、2050年に都市ガスのカーボンニュートラル化、合成メタンの安価な供給が目標とされている。
合成メタンは、排出されたCO2と水素を合成することで生成される。コストの高さやインフラ設備に課題があり、研究段階に留まる。国内スタートアップはほとんどないものの、合成メタンの量産に成功し、商用化に踏み切ろうとする海外企業が見られるようになった。
ガスコージェネレーションシステムは、電気を使用する場所で発電する分散型システムで、発電時に発生する排熱を施設内で有効利用できる。しかし、現状では導入の初期費用の高さやメンテナンスが高額である。国内では家庭用のものが開発されているが、コストの高さからあまり普及していない。海外では上場企業がシェアを獲得し、スタートアップがほぼ見られない。
④原子力
グリーン成長戦略では、2030年までにSMR(小型モジュール炉)技術の実証、高温ガス炉のカーボンフリー水素製造技術を確立することなどが目標にされている。
SMRは、小型で熱を逃がしやすくメンテナンスが容易であり、事故時に自然に冷却できるため、従来の大型原子炉より安全性が高いとされる。また、工場で大量生産できるため、建設コストを削減できる他、小型であるため設置できる場所が多い。世界で80以上のSMRの開発が進んでいるとされ※5、多くのスタートアップを含めた企業が研究開発を行っている。
核融合炉は、重水素と三重水素の原子核を融合させてエネルギーを生成させる装置である。核融合発電では、ウランのような希少な資源を使わずに水素を利用し、発生する放射性廃棄物が低レベルで短期間で減衰し、核融合反応が少しの条件で消失するため暴走しないといった特性を持つため、安全なエネルギー源として注目されている技術だ。
核融合反応が起きる条件を維持し、エネルギー回収効率を向上させる必要があり、早ければ2030年、遅ければ2050年以降に実現されるとの予測がされている※6。実用化に向けて研究機関やスタートアップ企業の登場、投資が行われてきており、今後の成長に期待できる。
おわりに
世界的な脱炭素の動きを受けて、日本の政府、企業共に力を入れている。特に、日本のCO2排出量の大部分はエネルギー転換部門によるものであり、クリーンエネルギーの活用が求められている。
KEPPLE REPORTでは、今回触れた4分野について、国内外151社のスタートアップを調査してカオスマップとしてまとめている。より詳細なスタートアップ情報に関心のある読者はぜひご覧いただきたい。
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参考:
※1 環境省 「2020年度温室効果ガス排出量(確報値)概要」
※2 公益財団法人 自然エネルギー財団 「統計|国際エネルギー」
※3 資源エネルギー庁 「国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案」
※4 NTTファシリティーズ「世界有数の火山国・日本で期待される地熱発電のポテンシャル」
※5 原子力産業新聞「SMRって何?米国で進むSMR開発の最新状況」
※6 日経クロステック「第3の核融合発電、2024年にも発電開始へ」