九州発「超小型人工衛星開発のハブ」──Kick Space Technologies、実証打ち上げへ一歩

九州発「超小型人工衛星開発のハブ」──Kick Space Technologies、実証打ち上げへ一歩

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Kick Space Technologies(キックスペーステクノロジーズ株式会社、以下KST)は、超小型人工衛星を開発するスタートアップだ。同社は2025年7月に、九州工業大学からスピンアウトする形で創業した。

九州工業大学は累計約30機の小型・超小型人工衛星を開発してきた実績を有し、2015年から2024年までの学術機関による同打ち上げ数では世界トップの座を誇る。

同社は今回、HERO Impact Capital、East Ventures、NYCのほか、中村貴裕氏(Midtown 代表取締役CEO/ ispace創業株主&元取締役COO)、尾崎典明氏(S-factory 代表)、小島要氏(アドニクス 代表取締役)、西岡大穂氏(ONESTRUCTION 代表取締役CEO)を引受先としたJ-KISS型新株予約権の発行により、約6000万円の資金調達を実施した。

KSTはすでに次世代気象インフラ構築事業者や研究機関に衛星の開発・運用サービスを提供しており、2030年以降には顧客企業とともに12〜15機規模の衛星コンステレーションを構築する計画だ。また、北九州市内を中心とした町工場や中小企業と連携し、衛星部品の内製化による垂直統合を目指す。部品の海外依存を脱し、国内でサプライチェーンを構築することで開発のリードタイムやコストを削減したい考えだ。

代表取締役CEOの佐藤凜氏は25歳。若きCEOに、創業背景や技術的な強み、今後の展望について聞いた。

“早く、広く観測する” 超小型衛星の設計から運用まで

──御社の取り組む事業について教えてください。

私たちは、いわゆるCubeSat(キューブサット)と呼ばれる超小型人工衛星の開発を行っています。開発している衛星は6U※(約10cm x 20cm x 30cm)と、ビジネスバッグに収まるほどのサイズで、重量は約10kgです。

私たちはその超小型人工衛星が動くための、制御・電源・通信系等の衛星バスシステムを開発しています。いわば、衛星が気象観測等を行うためのセンサ機器以外のすべてを開発している形です。

KSTが顧客企業とともに開発予定の気象観測衛星。羽のような形状の展開型太陽電池パドル(太陽光パネル)を折りたたんだ状態の大きさが6U。
同社が顧客企業とともに開発予定の気象観測衛星。羽のような形状の展開型太陽電池パドル(太陽光パネル)を折りたたんだ状態の大きさが6U。

小型・超小型人工衛星は、従来の大型衛星と比較して開発期間が1〜3年と短く、重量も100kg未満、コストも大幅に抑えられます。大型衛星を1機打ち上げる重量枠があれば、小型衛星を数十機以上打ち上げることも可能です。

大型衛星は1点を精密に観測できますが、小型衛星は広域を観測できるという強みがあります。また、データが必要になったタイミングで迅速に打ち上げ、観測を行うことができるという機動性も小型衛星の利点です。多数の衛星を同時に運用するコンステレーションの構築にも適しています。

現在は主に次世代気象インフラ構築事業者と研究機関向けに、衛星のミッション策定、設計製造、試験、打ち上げ後の運用までを担うEnd-to-Endサービスを提供しています。

次世代気象インフラの構築に向け、お客様とともに気象予測精度を高める大気中の水蒸気および温度の三次元構造データを取得する小型気象衛星を開発しています。弊社が衛星を製作し、お客様が開発する気象観測機器を搭載します。当社では主に衛星を動かすための衛星バスシステムを構築し、インテグレーションから打ち上げまで一貫して担います。顧客が衛星のオーナーとなり、私たちは開発・運用を担う仕組みです。

2030年以降に、同領域で12〜15機規模の衛星コンステレーションを構築するプロジェクトも進行中です。同じ軌道に複数の衛星を配置することで、同じ地点を1日に5回、6回と観測できるようにし、高頻度かつ信頼性の高い気象観測を実現します。

研究機関向けには、天文衛星の開発・運用を行っています。天文学者が開発したセンサや望遠鏡を搭載する天文衛星を開発予定です。

※U:超小型衛星のサイズを示す単位で、1U=10cm角の立方体

──御社の強みは。

1つは超小型人工衛星開発の技術力です。

九州工業大学は超小型人工衛星の開発数では8年連続で世界トップの実績を持ち、累計30機近くの豊富な開発実績とノウハウがあります。私たちはこの実績を基盤に創業しており、他社に引けを取らない技術力を持っています。

もう1つの大きな強みは、「一社だけで戦わない」という戦略です。私たちは “超小型人工衛星開発のハブ”として、拠点を置く北九州市の町工場をはじめとした様々なメーカーや企業を巻き込んでサービスや製品を作っていきます。非宇宙産業で培われたものづくりの力を生かした事業展開ができるのが大きな強みです。そして、現状海外への依存度が高い部品から衛星システム全体まで垂直統合を進めている点も重要なポイントです。

──超小型人工衛星のサプライチェーンは、現在どの程度海外に依存しているのでしょうか。

現在、コストベースで部品の約50〜60%を国内から調達していますが、残りの40〜50%は海外に依存しています。ただし、海外調達している部品についても、九州の企業と共同で研究開発を進めており、順次国産化を進めている状況です。

例えば、展開型太陽電池パドルという部品の内製化を進めています。これは太陽光による発電面積を増やすための機構で、海外から調達すると数千万円かかります。

現在設計がほぼ完了している段階ですが、内製化が実現すれば価格を3分の1〜4分の1に削減できる見込みです。

リードタイムの面でも大きな変化を見込んでいます。海外メーカーであれば物理的距離によるコミュニケーションのハードルが高く、仕様調整だけで2〜3年かかることもありますが、私たちは1年以内の納期を目指しています。

なお、この製品は自社の衛星に組み込むだけでなく、単体でも販売する計画です。

──地元企業との連携についても詳しく教えてください。

これまで、北九州市宇宙産業推進室にご協力いただきながら、精密加工や基板製造で高い技術力を持つ町工場や中小企業を一社一社訪問して連携先を開拓し、電子基板の設計製造や機械加工、機構設計などでお力添えいただいています。

町工場や中小企業の方々に最初にお話を持っていったとき、皆さんが「やってみよう」と前向きに応じて下さったのが印象的で。私たちはいわば設計専門で、当初は製造を前提とした設計の “お作法” を十分に理解していませんでした。協力会社の方々からフィードバックをいただきながら、製造しやすい設計について教えていただいています。対等なパートナーとして、一緒にものづくりを進めている実感があります。

また、創業前から九州・沖縄の大学発スタートアップ創出プラットフォーム「PARKS」のGAPファンドの支援を受け、創業後は北九州市「企業変革・スタートアップ・グロースサポート事業」とふくおかフィナンシャルグループ企業育成財団「令和7年度研究開発助成金」に採択され、地域に根ざした技術開発体制の強化を進めています。

九州という地元に立脚して、産・学・官連携による衛星製造のエコシステムを構築している企業は他にないと自負しています。

──衛星関連の「技術継承」にも取り組まれているそうですが。

今回のラウンドに参加してくださった小島さんが代表取締役を務めるアドニクスに、1〜2週間単位でエンジニアを派遣し、技術を学ばせていただいています。

アドニクスは、小型衛星用の無線通信機を製造する企業で、国内の大学やスタートアップ等に製品を供給しています。その競争力の源泉は高周波回路などの高度でニッチな専門技術にありますが、同時に、技能継承と次世代の専門人材育成が重要テーマとなっています。

私は学生時代からアドニクスの製品を活用していたこともあり、1週間ほど八王子の本社に通ってインターンをさせていただきました。そこで小島社長から「君たちがこの技術を継いで事業化すればいい」とお声がけいただき、共同開発を始めることになりました。

このような技術継承が必要な企業やコンポーネントは国内に散在しており、私たちはこうした技術を製品化し、次世代に引き継いでいきたいと考えています。

KSTがアドニクスと共同開発した小型衛星用UHF帯通信機
アドニクスと共同開発した小型衛星用UHF帯通信機

24歳、運用数世界トップの九州工業大学の天文衛星技術を武器に起業

──創業に至った経緯を教えてください。

私はもともと九州工業大学工学部宇宙システム工学科の2期生として、超小型人工衛星の開発に携わっていました。在学中は東北大学発スタートアップElevationSpaceに創業メンバーとして参画したほか、独立系ベンチャーキャピタルEast Venturesで約2年半、10社近くの投資に携わったりと、技術だけではなく経営やファイナンスについても学んできました。

創業のきっかけは、学生時代に「VERTECS(バーテックス)」※という超小型天文衛星の開発プロジェクトに関わったことです。このプロジェクトは、JAXAの産学官による輸送・超小型衛星ミッション拡充プログラム「JAXA-SMASH Program」に採択されており、超小型天文衛星で宇宙観測を行い天体形成史を解明することを目指しています。順調にいけば今年度打ち上げが実現する見込みです。

大きさは開発中の衛星と同じ6U(画像は九州工業大学から提供)
大きさは開発中の衛星と同じ6U(画像は九州工業大学から提供)

当時からVERTECSのプロジェクトマネージャーを務めているのが、九州工業大学大学院工学研究院宇宙システム工学研究系の佐野圭助教です。先生と事業化について検討を続けたところ、プロジェクトで培われた高精度な姿勢制御機能を有する超小型衛星の開発技術を事業化し、2025年7月に会社を立ち上げることになりました。佐野先生には今年1月から弊社の技術顧問を務めていただいています。

※VERTECS(Visible Extragalactic background RadiaTion Exploration by CubeSat):九州工業大学、JAXA、ほか複数の研究機関、企業が共同で開発を進めている超小型人工衛星。

2027年に実証衛星打ち上げ、町工場や中小企業とともに国内サプライチェーン構築へ

──今回の資金調達と今後のスケール戦略について教えてください。

今回の調達資金は主に自社開発コンポーネントの研究開発能力の増強に充てています。様々なメーカーと協業しながら製品開発を進めるとともに、人員体制の強化も図っています。

採用では、衛星システムの開発経験があるエンジニアを中心に、機械設計、電気設計、組み込みソフトウェア開発の3つの領域で人材を募集しています。

世界全体の小型衛星市場は現在約140億ドルで、2030年にかけて1.5倍程度の成長が見込まれています。低軌道小型衛星を中心としたコンステレーションによる通信、測位、観測などのサービスが当たり前になる世界が迫っています。点で取れていた情報が線や面になるパラダイムシフトが起きており、非宇宙プレイヤーの参画も加速していくでしょう。

私たちは小型衛星領域にフォーカスすることで、スピードと資本効率を両立しながらスケールアップを目指しています。

──今後の事業展開について教えてください。

来年、自社開発したコンポーネントを搭載した実証衛星を打ち上げる計画です。これは私たちが開発している通信機、電源モジュール、コンピュータモジュールなどを宇宙空間で実証するためのものです。この実証衛星には、協力会社の皆様が製造した部品も搭載する予定です。

今後5年間で、日本のものづくりサプライチェーンを活用した完全国産の人工衛星を、九州発で作り上げることが目標です。まだ道のりは遠いですが、必ず実現したいと考えています。

5年後の目標は年間生産100機です。海外の上場宇宙スタートアップPlanet Labs社など先行企業の現地部門長とも直接話をし、いかに内製比率を上げるか、部品から衛星システム全体まで垂直統合できるかが重要であると学びました。この知見を現在の事業モデルに活かしています。

私自身、小惑星探査機「はやぶさ」に刺激され、漫画「宇宙兄弟」に憧れて宇宙業界に入りました。将来的には、子どもたちに夢を与えるような、小惑星探査機をはじめとした宇宙機を様々な方々と一緒に開発し打ち上げたいと考えています。

地方だからこそ、自ら産業を創り上げていく手触り感や、挑戦者としての実感を得られる環境があります。九州から宇宙産業で闘い、超小型人工衛星を活用して研究成果を宇宙に届けたいと考える方々と、一緒に新しい宇宙産業モデルを創り出していきたいです。

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