グルタチオンで農業を変える──WAKUが挑むバイオスティミュラントという新領域

グルタチオンで農業を変える──WAKUが挑むバイオスティミュラントという新領域

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グルタチオンは、ヒトや植物など多くの生物の体内で生成される抗酸化物質で、医薬品や健康サプリメント、化粧品などの原料として注目されている。

そんなグルタチオンで農業課題の解決を目指す株式会社WAKUは、液状肥料「WAKUFUL(ワクフル)」を2026年3月より正式に販売開始した。近年の猛暑や水不足、気候変動により、従来の施肥設計や管理手法では対応が難しくなっている農業現場に向けて、植物そのものの生理機能を改善する「バイオスティミュラント」という新たなアプローチを提案する。

代表取締役CEOの姫野亮佑氏に、WAKUFULの特徴や技術的な強み、今後の展望について聞いた。

肥料・農薬に続く新領域──バイオスティミュラントとは何か

──WAKUFULの概要について教えてください。

「WAKUFUL」は、グルタチオンを主成分として配合したバイオスティミュラント製品です。バイオスティミュラントは農業資材のカテゴリーの一つで、肥料や農薬とは異なる新しい分類になります。

肥料は、植物にとっての栄養素、いわば食べ物のようなものです。農薬は、雑草や害虫の防除、つまりお薬的なもの。それに対して、バイオスティミュラントは、植物そのものの生理機能を改善する機能を持ちます。

WAKUFULに含まれるグルタチオンもバイオスティミュラントの一種であり、強い抗酸化作用を持ち、猛暑や乾燥といったストレスへの耐性を獲得したり、光合成機能を改善したりする特徴を持っています。

バイオスティミュラントはヨーロッパでは一般的に使用されていますが、日本では法整備や普及がまだの状態です。日本の農業資材の登録制度としては、農薬と肥料の2種類しかありません。そのため、「WAKUFUL」は法律上は「液状肥料」として登録しているかたちです。

植物の潜在能力を引き出すメカニズム

──国内外の他のバイオスティミュラントと比較した時の強みは何でしょうか。

バイオスティミュラントは比較的新しいマーケットであり、国内では規制枠組みも未整備である中、流通しているバイオスティミュラントは玉石混交な傾向があります。肥料成分など、植物に「なんとなく良さそう」な成分を組み合わせたものをバイオスティミュラントとして販売しているケースも多いんですね。

一方でWAKUFULは、グルタチオンのみの成分構成です。そのため、効果の分析がしやすいというのがまず一つの強みです。

もう一つの強みは、グルタチオン自体の機能の汎用性です。

従来のバイオスティミュラントは、「製品Aは猛暑ストレスに効く」「製品Bは光合成の改善に効果がある」というように用途ごとに設計されているものが多い。一方、グルタチオンは、動植物の体内でも生成され、生命の細胞の維持に重要な役割を果たしている成分で、植物に対しても、光合成の機能改善や、様々なストレス耐性の獲得に効果を発揮することが分かっています。作物が環境に適応し健康に育つための幅広い機能が期待できる点がポイントですね。

キャベツの苗に対するグルタチオンの効果
キャベツの苗の根張りの違い:左は何も与えていない苗、右がグルタチオンを与えた苗

──グルタチオンは、植物の中で具体的にどのような働きをするのでしょう。

グルタチオンは、植物が自然の中で自ら生産している物質で、さまざまな役割を担っています。ここではその中でも、光合成とストレス応答という二つの観点に絞ってご説明しますね。

まず光合成についてです。植物は光合成によって、太陽光と水、二酸化炭素を原料に糖などの有機物を作り出しています。このプロセスの中心となるのが、「カルビン回路」と呼ばれる仕組みです。

カルビン回路が効率よく機能するためには、いくつかの酵素が重要な役割を果たしています。その一つが「アルドラーゼ」という酵素です。アルドラーゼの働きが弱いと、糖の合成が滞り、結果として植物の成長が制限されてしまう場合があります。

グルタチオンには、このアルドラーゼを活性化する働きがあります。その結果、光合成による糖の生産が改善され、植物の生育や収量の改善につながります。つまり、グルタチオンは、植物が本来持つ光合成の力を引き出し、成長を後押しする役割を果たしているのです。

次に、ストレス応答についてですが、植物はなんらかのストレス環境に晒されると、体内で活性酸素を発生させ、これが組織内で悪さをします。例えば猛暑でストレスを受けると、植物体内で発生した活性酸素が、ミトコンドリアや葉緑体といった呼吸や光合成に不可欠な構造を攻撃してしまいます。そこで、活性酸素をキャッチしてくれるのがグルタチオンなのです。

具体的に言えば、活性酸素を直接処理するのは、「還元型グルタチオン」です。還元型グルタチオンは、活性酸素を還元する代わりに、自身が酸化されます。この性質から「還元型」と呼ばれています。

還元型グルタチオンが活性酸素を次々に処理していくと、その一部は「酸化型グルタチオン」へと変換されます。その結果、植物体内では還元型グルタチオンの割合が低下し、相対的に酸化型グルタチオンが増えていきます。

この還元型と酸化型のバランスの変化が、植物にとって重要なシグナルになります。「体内で強いストレスが起きている」というサインとして認識されるのです。

このシグナルを受け取ると、植物は猛暑などのストレスに対抗するため、ヒートショックタンパク質を発現させたり、還元型グルタチオンを新たに合成するよう指令を出したりします。つまり植物はもともと、グルタチオンの酸化還元バランスを手がかりに防御反応を立ち上げる仕組みを持っているのです。

そこで私たちは、この仕組みを利用するために、最初から酸化型グルタチオンを与えるという方法を取っています。これにより、植物は早い段階でストレス応答を開始し、防御力を高めることができるのです。

光合成の改善とストレス応答という代表的なものを2つ挙げましたが、他にも根の張りへの効果や肥料の吸収率改善など、さまざまな機能があります。

──一度与えると、どのくらい効果が持続するのでしょうか。

作物の種類にもよりますし、検証段階の部分もありますが、例えばキャベツやネギといった露地野菜だと、育苗の段階で1回与えて、畑に植え付けた後で2回、合計約3回ほどの施用を推奨しています。

トマトなど施設園芸の実証ですと、2週間に1回与えて非常に効果が良かったものがあります。

用量で言うと、作付面積10アール(1000平米)あたり、約150ミリリットル使用します。水で1000倍希釈して与えるという感じですね。

ネギでの実証では、グルタチオン施用区でサイズ・収量ともに改善が見られたという
ネギでの実証では、グルタチオン施用区でサイズ・収量ともに改善が見られたという

──費用対効果については。

作物によりますが、例えばトマトでの実証結果では、2週間に1回グルタチオンを施用したことで収穫量が15%増加し、10アールあたりの売上が100万円増加しました。そのうち、グルタチオン費用は8万円程です。

農業から環境再生──技術応用の次なるステージへ

──今後、どのように製造体制や事業を展開されていきますか。

まず製造拠点を岩手県花巻市に設け、2月よりパイロットプラントを稼働させる予定です。これにより、安定した供給体制を構築し、今後の需要拡大に対応していきます。

また、すでにバイオスティミュラントに関する法規制が整備されているヨーロッパ市場への進出準備も進めています。2027年のヨーロッパでのバイオスティミュラント登録を目標に調整を進めており、登録の前後には現地での実証試験も実施する計画です。

同時に、今後は重金属に汚染された土壌における農業再生にも取り組んでいこうと考えています。実は近年、「グルタチオンが植物による重金属の吸収を阻害する」という研究結果が報告されているのです。私たちは2025年より、国際連合工業開発機関(UNIDO)のプロジェクトの一環として、東京農業大学と共同研究を開始しました。本研究では、ウクライナの重金属汚染土壌において、グルタチオンを活用して農業を再開することを目指し、植物の浄化メカニズムの解明などを進めています。

ウクライナでは、戦争による砲撃などの影響で土壌が鉛に汚染されている地域が数多く存在します。鉛汚染された土壌を再び農業に利用できる状態に戻すには、通常、長い年月を要します。「欧州の穀倉地帯」とも称されるウクライナで、再び農業を営める環境を取り戻したいという思いがあります。

このような土壌汚染の問題は、紛争地に限らず工業地帯でも発生しています。日本においても、かつてイタイイタイ病を引き起こしたカドミウム汚染の事例がありましたね。世界各地にそのような汚染された土地が存在しています。そうした地域においても、グルタチオンが活用できるようになればと考えています。

──グルタチオンは、土壌汚染に対してどのようにアプローチできるのでしょうか。

土壌汚染に関しては、グルタチオンを持っている植物はカドミウムなどの重金属類を根から上部に移動させないということが分かっているんです。

通常、植物は土壌中の重金属類を吸い上げてしまい、その重金属が蓄積された作物を食べることで人間にも影響が出てしまいます。しかし、植物が重金属を上まで吸い上げないようにすれば、重金属汚染されている地域でも問題なく農業ができるようになるのです。グルタチオンを活用し、そういった形で土壌が汚染されている場所でも農業ができるようにお力添えしたいと思っています。

WAKUは、グルタチオンのコア技術を活用し、土壌浄化や汚染水浄化に取り組んでいく
WAKUは、グルタチオンのコア技術を活用し、土壌浄化や汚染水浄化に取り組んでいく

市場規模で言うと、土壌浄化市場は2034年で13兆円、排水浄化市場は2034年で19兆円と言われています。それぞれ年間成長率(CAGR)で約7%と6.5%という成長が見込まれています。こうした環境浄化の領域にも、グルタチオンの技術を展開していきたいと考えています。

──最後に、WAKUFUL活用を検討されている方にメッセージをいただけますか。

最近の気候変動、特に猛暑の影響で、「昔のように作物が育たなくなっている」という声は、どの生産者さんに聞いても共通した課題です。だからこそ、ぜひ一度WAKUFULを試していただきたいと思っています。

植物は、ストレスに晒されるとうまく育ちません。それは動物も同じですが、植物は自身で動くことができない分、さまざまなストレスに対応できるような遺伝子をもともと備えています。

グルタチオンは、植物が本来持つストレス応答のメカニズムに関わる成分です。あらかじめグルタチオンを与えておくことで、植物がストレスに対応する力を引き出すことが、とても重要だと考えています。

これまでの肥料や農薬だけに頼るのではなく、こうしたバイオ技術も一度取り入れて、今の時代の課題に対応していこう、ということを伝えたいです。

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