国内脱炭素スタートアップの現在地──2025上期に見る投資減速と次世代エネルギーへの挑戦

国内脱炭素スタートアップの現在地──2025上期に見る投資減速と次世代エネルギーへの挑戦

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2025年上期、日本の脱炭素スタートアップ市場は一時的な調整局面に入った。

資金調達総額は前年同期比55%減の248.9億円にとどまったが、核融合や量子水素エネルギーといったディープテック領域では技術開発が進み、商業化への期待はむしろ高まっている。

世界市場では、米Helion Energy、Commonwealth Fusion Systems(MIT発)、英Tokamak Energy(オックスフォード大学関連)による大型調達が続き、実用性とスケーラビリティを備えた技術が投資の焦点となっている。

国内企業の存在感──大学発ディープテックが躍進

資金調達ランキングの上位には、株式会社クリーンエナジーコネクト、CHITOSE BIO EVOLUTION、株式会社パワーエックスが並んだ。これらの企業はいずれも、再生可能エネルギーの導入支援、藻類バイオマスの活用、蓄電池技術の開発など、社会実装に直結する技術を有している。

一方で、特に注目すべきは核融合分野に挑むスタートアップである。株式会社EX-Fusion(大阪大学発)や株式会社LINEAイノベーション(筑波大学発)は、商用核融合炉の開発を目指し、大学研究で培った先端レーザー技術やプラズマ制御技術を基盤としている。

核融合は技術的ハードルが高く、長期的な研究開発を必要とする領域であり、国内外の主要プレイヤーは大学発スタートアップが中心だ。こうした大学発スタートアップは、高度な研究基盤と人材ネットワークを活用し、長期的視点で技術開発を進めることで、国内脱炭素市場の成長を牽引する重要な存在となっている。

資金調達ランキング 上位16社
資金調達ランキング 上位16社(2025年1月~6月)

「分野別注目スタートアップ」に見る強み

同レポートでは、雇用拡大や時価総額ランキングの分析を通じて、国内脱炭素スタートアップの強みが浮き彫りとなった。

排出量削減アスエネ株式会社株式会社ゼロボードは、企業のGHG(温室効果ガス)排出量を可視化・管理するクラウドサービスを提供し、ESG経営やサプライチェーン全体でのカーボンニュートラル対応に貢献している。

アスエネは2024年に大型調達を実施し、2025年上期には従業員数を100名以上増やした。ゼロボードも20名以上の増員を行い、Scope3排出量管理や再エネ導入支援などソリューションを拡張している。

エネルギー貯蔵株式会社スリーダムアライアンス株式会社パワーエックスといった企業が、大容量蓄電池や電気運搬船の開発を通じて、再生可能エネルギーの安定供給とモビリティの電動化に貢献している。

スリーダムアライアンスはEV用電池の高性能化に加え、電動船事業にも進出し、時価総額1400億円を超える規模に成長した。パワーエックスは、コンテナ型蓄電池とクラウドサービス「PowerOS」により、国内外の電力インフラに新たな価値を提供している。

核融合・量子水素京都フュージョニアリング株式会社は、核融合炉のプラントエンジニアリングを専門とし、国内で最も高い評価を得ている。クリーンプラネットは量子水素エネルギーという革新的な技術で、従来の水素燃焼に比べて約1万倍のエネルギーを生み出せるとされる。

2025年6月時点で脱炭素スタートアップの総従業員数は11030人に達し、前年同期比で8%増加した。特に排出量削減やエネルギー貯蔵分野での人材需要が高まり、国内スタートアップが雇用面でも成長を続けていることが確認された。

グリーンファイナンスと投資家動向

2025年上期の投資家別ランキングでは、環境エネルギー投資が6件でトップとなり、三菱UFJキャピタルが5件、SMBCベンチャーキャピタルが4件で続いた。4位にはスパークス・グループ、インキュベイトファンドがそれぞれ3件の投資を実行している。

環境エネルギー投資は、再生可能エネルギー導入支援やカーボンクレジット創出、電動モビリティといった幅広いセクターに対して、シードからシリーズB以降まで継続的にフォローオン投資を行っている。

2025年上半期上位
金融系VCが上位を占めている。4位はスパークス・グループ、インキュベイトファンドがそれぞれ3件の投資を実行

一方、三菱UFJキャピタルやSMBCベンチャーキャピタルなど金融系VCは、金融グループ全体の産業ネットワークと政策連携を活用し、資本集約的で長期的な研究開発が必要な領域への投資に注力している。EX-FusionやLINEAイノベーションといった大学発ディープテック企業は、こうした金融系VCの長期資金提供により、研究開発から商業化までの長い時間軸をカバーできている。

また、グリーンファイナンスはスタートアップ単体の支援にとどまらず、分散型エネルギーインフラやカーボン会計・取引プラットフォームの構築など、脱炭素エコシステム全体の拡大を後押ししている。海外ではBreakthrough Energy VenturesやEnergy Impact Partnersといったグローバルファンドが数百億円規模の投資を行っており、日本市場でも同様の動きが強まっている。

求められるのは「実需」と「スケール」

資金調達額の減少は一時的な調整であり、脱炭素市場の成長ポテンシャルは依然として大きい。今後の成長ドライバーとして、以下の要素が重要となる:

  • 次世代クリーンエネルギーの商業化:核融合や量子水素エネルギーは、持続可能で安定したエネルギー供給を可能にする技術として期待される。米国や欧州では数百億円規模の投資が進み、2030年代の実用化を視野に競争が激化している。国内企業も事業化フェーズへの移行が鍵となる。
  • カーボンマネジメントツールの普及拡大:国際的な気候関連財務情報開示(TCFD)やScope3排出量管理の義務化が進む中、企業のGHG管理は経営課題として不可欠となっている。アスエネやゼロボードはこうしたニーズに応えており、今後さらに需要が拡大する見込みだ。
  • 再エネと蓄電技術の統合:再生可能エネルギーの安定利用には、大容量蓄電池やエネルギーマネジメントシステムが不可欠である。パワーエックスやスリーダムアライアンスは、蓄電システムの開発や電動船事業で着実に成果を上げており、分散型電源と組み合わせることでエネルギーの地産地消を可能にする。

  • 大学発ディープテックの事業化:国内の核融合や新素材開発は、大学の研究基盤を持つスタートアップが中心である。研究成果を商業化し、国際市場に展開できる体制を整えることで、日本発の技術がグローバル競争をリードする可能性がある。

世界市場では、技術の革新性だけでなく、商業化スピードとスケーラビリティが企業評価を大きく左右する。実需に基づくビジネス構築や海外パートナーとの連携を通じて、国内スタートアップが世界のエコシステムにおいて存在感を高めることが求められる。

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本記事のもととなった「脱炭素スタートアップの動向(2025年上期)」は、国内515社を対象に、資金調達額、雇用動向、時価総額、投資家別動向を多角的に分析したレポートです。分野別の注目企業や投資動向の詳細、業界マップも網羅しており、脱炭素市場の成長性と課題を体系的に理解できる内容となっています。

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Writer

高 実那美

高 実那美

株式会社ケップル / Data Analysis Group / Database Division / アナリスト

新卒で全日本空輸株式会社に入社し、主にマーケティング&セールスや国際線の収入策定に従事。INSEADにてMBA取得後、シンガポールのコンサルティング会社にて、航空業界を対象に戦略策定やデューディリジェンスを行ったのち、2023年ケップルに参画。主に海外スタートアップと日本企業の提携促進や新規事業立ち上げに携わるほか、KEPPLEメディアやKEPPLE DBへの独自コンテンツの企画、発信も行う。

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