EF Polymer株式会社

干ばつや水不足が世界で深刻化する中、EF Polymer株式会社の技術は持続可能な農業を支える新たな選択肢として注目を集めている。
同社は、オレンジやバナナの皮などの作物残渣(ざんさ)から、完全生分解性の超吸水性ポリマーを開発するディープテックスタートアップだ。
創業者は、インド出身のナラヤン・ラル・ガルジャール氏。自身がインド・ラージャスターン州の農村で育ち「水不足を解決したい」という思いから研究開発を続け、同社を創業した。
超吸水性ポリマーとは、自重の数十倍以上の水分を吸収・保持できる素材のこと。土壌中の水分保持を目的として農作物栽培で使用されているほか、紙オムツや生理用品、化粧品など、私たちの身近な製品にも幅広く使われている。一方で、従来品の多くは石油由来で、環境負荷の高さが課題とされてきた。
沖縄に本社を置き、インドに生産拠点、アメリカに現地法人を構えるEF Polymerは、農業分野での節水・省肥料ソリューションを軸に、保冷剤や化粧品向け増粘剤など非農業分野への展開も進めている。これまでに日本、フランス、インド、アメリカなど6カ国で約500トンを販売し、現在世界20カ国以上で商談や実証試験に取り組んでいる。
大規模農家と地道に導入実験を重ねながらアメリカ事業を統括するDirector, Sales and Business Development, USAの澤大地氏に、事業の現状や技術の強み、今後の展望について話を聞いた。
100%生分解性素材で、農業生産コストと環境負荷の低減を目指す
──EF Polymerの事業について教えてください。
澤氏:私たちは、「EFポリマー」という、100%自然由来で完全生分解性の超吸水性ポリマーを開発しています。この素材を活用して世界中の生産者を支援することで、持続可能な農業の実現を目指しています。
このポリマーは主に農業分野で使用でき、土に混ぜ込んで使用すると、自重の約50倍の水や肥料を吸収し、緩やかに放出します。吸収と放出を約6カ月間繰り返した後、約12カ月で完全に土に還ります。この性質により、少ない水や肥料でも、作物の収穫量を安定させることができるのです。

原材料は、オレンジやバナナの皮で、本来は廃棄されてしまう作物残渣をアップサイクルして製造しています。植物に含まれる「ペクチン」という食物繊維の一種を活用しているので、オレンジやバナナの他にも、りんごや桃など、この物質が含まれるさまざまな残渣を活用できる可能性があります。

また最近は、農業分野以外への展開を広げています。
例えば、EFポリマーを使用した保冷剤を岩谷産業と共同開発し、2023年に発表しました。現在、この保冷剤は国内の流通大手で配布されています。
従来の保冷材の多くは、石油系ポリマーをゲル剤に使用しています。実はこういった保冷材は、廃棄の際の環境負荷が高いのです。保冷材には多くの水分が含まれ、重油をかけて高温で焼却する必要があるからです。年間15億個もの保冷剤が消費されており、焼却時には大量のエネルギーを必要とするだけでなく、有害なガスが発生し環境汚染や気候変動の原因となっています。その点、私たちのポリマーは完全生分解性であるため、使用後は観葉植物の土などに蒔いて土の保水性向上に活用することができます。処理による環境負荷が低いのが特徴です。

また、2024年10月には化粧品向けの増粘剤を発表し、化粧品メーカーとの協業を進めています。自然由来ならではの肌へのやさしさに加え、石油系ポリマーを使用した増粘剤がマイクロプラスチックとして流出して海洋汚染につながることを防ぎます。
さらに2025年4月には吸水シートを発表し、農業用品や化粧品のフェイスパック、衛生用品などへの活用を進めています。
農家と密に連携し、アメリカの広大な乾燥地域に挑む
──今グローバルではどのような体制で事業展開されていますか?
日本、アメリカ、インドの3拠点を有しています。沖縄本社には研究開発と事業開発機能があり、約30名が在籍しています。その他にも、20カ国以上で実証試験を行っているところです。

沖縄本社では、原材料の多様化に向けて、オレンジやバナナ以外のあらゆる作物の残渣からポリマーを試作したり、従来のポリマーの吸水性能を高めたりなど、研究開発を推進しています。
創業者の出身地である、インド北西部ラージャスターン州には約70名が在籍する子会社があり、1か月あたり約100トンのポリマーを製造しています。
材料となるオレンジやバナナの皮は、すべてインド国内のサプライヤーから調達しています。例えばジュース工場を持っている会社から、使用しない皮部分を調達して、そこから加工しています。
──アメリカ事業の取り組み状況について教えてください。
アメリカでは、カリフォルニアとテキサスに拠点を置きながら、同地域とネブラスカ、ジョージア等の大学や研究機関と試験を実施しています。共同試験の結果が出た場所では、実際に農家での試験導入を進めており、試験導入を実施している圃場は数百エーカー規模に拡大中です。
この試験の結果次第で、来年、本格導入が進めば、何千エーカー規模にEFポリマーの使用が拡大する見込みです。
──顧客はどのような農家が多いですか。
規模としては、数万、数千ヘクタールという土地を保有している農家ばかりです。日本では超大規模農園に分類される規模ですね。作物は、加工トマトや綿、レタスなどです。
例えば、加工トマトと呼ばれる、ケチャップやトマトペーストに使用されるトマトは、アメリカ産の95%、全世界の約30%がカリフォルニアで生産されています。トマト農園はとんでもない大きさで、車を何キロ走らせてもずっとトマトが植えられているような肌感です。
日本とは全く規模が異なる農園で、農家さんによる生産システムやペインポイントも異なります。その部分を深く理解し、そこに対しアプローチしていくことが大事だと考えています。
アメリカの農家は自分たちのやり方にものすごくプライドを持っていますし、効率的な生産システムを確立させているので、彼らはいわば職人なんです。その職人に新しい技術を紹介するというのは難しいことだと思います。
大学の実証実験結果やロジックの部分をしっかりと伝え、アーリーアダプターと呼ばれる、新技術の導入に意欲的な農家さんから導入を進められたらいいなと思っています。
──なぜカリフォルニアやテキサスなのでしょうか。
カリフォルニアやテキサスなどの地域では、干ばつや乾燥が激しく、そのような地域でこそEFポリマーが効果を発揮するからです。
現地では、すでに地中灌漑など有限な水資源を有効活用するための対策が行われていますが、依然として水の価格が安定せず高価なので、農家への負担が大きいのです。さらに、近年では肥料の値段が高騰し、生産コストをさらに圧迫しています。
そこでEFポリマーを活用すると、節水と肥料の節約をすることができ、生産コストを抑えることにつながります。例えばカリフォルニアの特定地域では、水を15%削減するだけで1エーカーに対して約500ドルの収益向上が見込まれます。
導入試験では、EFポリマーを散布した圃場で水と肥料※を減らしながら作物の生育度合を観察し、ROIが最適になるポリマーの散布量を計算し、顧客と密にコミュニケ―ションをとりながら成功例を出していっています。水を15%減らして収量が10%上がった、12%上がったというデータが出てきていますので、農家さんからの喜びの声も上がっています。
※NPK。肥料の三大栄養素である窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)のこと。

“水不足に悩む農家を助けたい”という原点から、地産地消モデル、他領域展開GXへ
──今後の展開について教えてください。
まず、EFポリマーの農業分野での導入を拡大しつつ、製造体制の拡充も進めます。
創業者の思いとしては、「水不足に悩む農家を何とか助けたい」というのが一番なのです。
我々はそこからスタートしているので、「EFポリマーを活用して、農家さんの生活をより豊かにしていく。そのうえで、持続可能な農業を実現していきたい」というのが一つの軸としてあります。まずは農業分野でのEFポリマーの活用を進めていきます。
現在はすべての製造をインドで行っていますが、今後、インド以外にも生産拠点を設置し、地産地消モデルの構築を目指します。

今年は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催している「ディープテック・スタートアップ支援事業」に採択いただき、その取り組みの一環として今後3年間で原材料の多様化や工場の多拠点化に向けた研究と検証を行う予定です。
基本的には需要が高い場所に、レイバーコスト・物流コストも考慮したうえで、コストの優位性を見極めながら進出していこうと考えています。
地産地消に向けて、原料については現地で発生する作物残渣を使用することになるので、効率性や量産のしやすさといった観点で、最適な残渣を見極めていきます。日本ではすでに、企業や自治体の方々から「この残渣を使ってもらえないか」という問い合わせをいただくケースが増えてきており、先日は関西の自治体の方々から「桃を使ってもらえないか」というお話をいただきました。そういった残渣のサンプルをいただきながら、ラボベースで研究を進めているところです。
そして、農業以外の領域での活用も推進すべく、開発を進めていきます。
石油系の超吸水性ポリマーが多くの業界で活用されている中で、我々のポリマーを少しでも普及させることで、世の中のものづくりをより環境配慮型にしていくことを目指します。
たとえば、紙オムツや生理用ナプキン、防災用の簡易トイレ、建築資材への活用を考えています。
──今後展開していく領域の市場規模についてはどのように見られていますか。
特に、紙オムツや生理ナプキンといった衛生用品の市場がかなり大きいです。製品1個あたりのポリマーの使用量が多いこともあり、中長期的に見るとかなり大きなマーケットであると認識しています。
ただ、衛生用品に求められる機能性がかなり高いという課題はあります。
例えばオムツでいうとやはり吸水性能、その中でも吸水のスピードと吸水量がかなり求められます。私たちのポリマーは農業用の製品ですと自重の50倍を吸うのですが、石油由来のポリマーですと千倍近く吸うようなものもあります。
石油由来のポリマーは60年程の歴史があり、長年の研究開発で得られた機能性の高さとコストの優位性があるので、今すぐ置き換えられるようなものではありません。
現在、自重の数百倍吸水できるレベルまで開発は進んでいるのですが、純粋に石油由来とスペックを比較した場合に、補いきれない機能性が今のところはあります。一方で現在、複数の企業と具体的な協業検討が進んでおり、用途や役割を切り分けながら、EFポリマーの特性を活かした製品開発を進めています。既存素材の単純な置き換えではなく、企業のGX(グリーントランスフォーメーション)戦略に資する形で、実装可能な領域から段階的に事業化を図っていきたいと考えています。
──最後に、アメリカ事業の意気込みを教えてください。
まず、アメリカの農家が我々のプロダクトを活用して、水や肥料の使用量を減らしながら美味しい作物を育てていただけるようにしていきたいです。
そして、作物残渣をアップサイクルしてポリマーを製造し、それを活用して栽培した作物の残渣をポリマー製造に使用するという、サーキュラーモデルを作っていきたいと考えています。そのために、まずは販売に力を入れていきます。
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