スタートアップの成長戦略は自由になる、セオリーなき時代へ──ANRI 中路氏

スタートアップの成長戦略は自由になる、セオリーなき時代へ──ANRI 中路氏

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2025年は、日本のスタートアップを取り巻く環境において、これまでの前提が静かに揺さぶられ、再確認される場面が増えた一年だった。こうした状況を経て迎えた2026年。投資家は今、どのような視点でスタートアップエコシステムを捉えているのか。KEPPLEでは、2025年の振り返りと2026年の展望について、スタートアップ投資家複数名への調査を実施。

今回は、ANRI6号ファンドでGeneral Partnerに就任した中路 隼輔氏に話を聞いた。

型に縛られない意思決定が、次のスタンダードに

――2025年を振り返って、最も印象的だった出来事を教えてください。 (例:注目されたビジネスモデル、政策・規制など)

2025年においては個人的に、UPSIDERがみずほグループへジョインしたことが最も印象深かったです。スタートアップと大企業の連携が増えそうなアクションが多かった年であった気がしており、一つのスタートアップの成長の方法として重要な一手だと捉えております。

それを後押しするように、2025年はM&Aの議論も多かった年でした。2010年代から様々なVCが勃興してきた中で、そのファンド期限が迫っていることも関係しているようにも思えます。同時に、ゴール / ExitとしてのM&Aではなく、飲食業界向けVertical SaaS「Camel」を開発・提供をするtacomsでは、事業をスケールさせていくためにスタートアップ同士で経営統合するような攻めのM&Aも見られました。

また2025年においては、高市政権が発足したことも印象深く、今後より一層ブロック化していく経済環境の中で、国という主体が果たす役割が強くなっていると感じます。そうした中で、投資サイドもこの動きをより意識する必要性を強く感じています。ディフェンステック関連の資金調達リリースが目立ったのも2025年でした。自由経済の世界から政策や安全保障といった観点がより重要性を増す中で、必要な産業にお金が徐々に集まってくることが予想されます。実際に、ディープテックを含め、政府の補助金の方針へのアラインを意識する企業が多くなってきている印象があります。

そして、国の方針や公的資金をどう活用するかという議論が出てくるのは、当然だと思います。VCだけのお金では、アメリカほどの資金調達規模を実現するのは難しいのが現状です。アンドリーセン・ホロウィッツが近年実施している数兆円規模のファンドレイズと同水準の規模は、日本ではまだ一般的ではありません。GDPは大きい国ですが、VCの市場規模としてはまだアメリカや中国に比べて大きくないので、大企業や政府の資金をどう引っ張ってくるかという議論が重要になります。

――2025年の調達環境の変化をどのように捉えていますか?課題や気づきがあれば教えてください。

劇的に変わった点はなく、ここ数年の投資自体の厳選化というトレンドが続いているような気がします。良い結果を出しているスタートアップにとって日本の調達環境は良好である一方で、伸び悩むスタートアップには資金が集まらないという二極化がより一層鮮明になっていくでしょう。

調達環境の変化により、より一層戦略的に調達をしなければいけない時代になりました。

昔は「ユニットエコノミクスを証明できたらシリーズA」というような型がありましたが、そういう話がなくなってきています。資金調達が本来的な意義に戻ってきたという印象です。

私が投資担当しているAnotherBallは、元「ママリ」創業者の大湯俊介氏が立ち上げた会社で、技術の力でアニメ関連コンテンツを世界中に届ける、グローバルエンタメスタートアップです。まだシード期ですが、複数の事業を展開しています。はじめはワンプロダクトに集中するのが定石ですが、エンターテインメント領域のワンプロダクトで1兆円規模を目指すのは難しい。あえて最初から大きな調達を行い、複数プロダクトを作っていくという攻め方は面白いと思います。

やりたいことを起点に、バックキャスティングしながらファイナンスを設計する動きが今後も増えていくのではないかと思います。

――2026年に注目するセクターとその理由を教えてください。(海外トレンドや国内の動向なども含めて)

一つの世界的なテーマは、ブロック化していく経済です。バリューチェーン・サプライチェーン上で、経済安全保障上重要な領域がまだ余っています。例えば造船、サイバーセキュリティなど、政府の方針にアラインしているが新興産業がまだ十分ではない領域です。

もう一つの主要テーマはAIシフトだと思っています。

2010年代がスマートフォンシフトだったとするなら、2020年代はAIシフトの時期であり、これはまだ始まったばかりです。例えばゲームの領域では、2010年代にスマホのフリック操作を活かしたパズドラやモンストが出てきました。今後、AIがゲームに組み込まれていったときに、未発明の新しいゲームが2026年に爆発する可能性はあると思います。

バーティカルAI、つまりAIを産業領域に特化して使う領域も台頭してくるでしょう。

個人的には、それに逆行するトレンドとして「場所」や「コミュニティ」という価値への回帰について考えたいです。私たちはAIの台頭により「人間とは何か」という問いに直面しています。AIで効率化を進めるほど、人間は実はそれを嫌う傾向にあると思います。人間性は複雑で、ロジックではアプローチできない部分があり、だからこそ私はコンシューマーテックの周辺領域が好きですね。

私たちはNOTHING NEWという映画制作会社に投資しています。同社は手書きの長編アニメ映画を制作していて、「TikTokでショートドラマを作る」というプラットフォームシフトに適応したトレンドとは逆行していますが、温かみや人間らしさも人々が重視する面もあるのではないかと思っています。

家庭料理のテイクアウトステーションを運営するマチルダも、インターネットやDtoCの文脈で考えると、一番大事なのは人との関わりだと思って投資しました。人と人が会話できる場所を増やしたほうが、結果としてチャーンレートが下がるんじゃないかと。「テックで効率化して人との関係性を重要視することでチャーンを下げられる」という投資仮説です。

マチルダは、時代に適応したような”健康に良いものだけ”を作っているわけではなく、油物もちゃんとあるし、子どもが好きそうなものを提供していて、ファミリー層のニーズに応えています。そういった点に温かみがあると思っています。

このように数字で評価がしにくい価値を持つものに対して注目が集まる予感があり、そういった「場所・複雑性・人間性」に注目したセクターについて個人的には着目しております。

――2026年の資金調達環境について、どのような見通しを持っていますか?また、スタートアップが備えておくべきポイントは何だと思いますか?

2025年と同じトレンドが続くと考えております。良い結果を積み上げているスタートアップにはより一層資金が集中していくと見ています。

スタートアップにとって重要なのは、今回の資金調達でどの仮説を検証し、次のラウンドにつなげるのかを既存・新規VCと明確に議論することです。仮説検証が不十分なまま、あるいは資金が尽きたタイミングでの資金調達はなかなか難しい可能性が高いです。

VCは手段なので、どのタイミングでVCを使うべきかも、きちんと考えるべきだと思います。例えば20年間事業をやってきて、これから急成長していく局面でVCを使うという選択肢もあり得ます。

成長戦略をより自由に捉えたスタートアップほど、資金調達に成功していくのではないかと思います。

また、今後会社という概念がプロジェクトのようになっていき、企業と組んだほうが早いという判断をする起業家も増えていくでしょう。

以前は「スタートアップ vs. 大企業」という対立構造でしたが、今は「事業を一緒に作っていこう」という考え方が定着しつつあります。これは起業家の世代の変化かもしれません。個人的な意見では20代〜30代の自分と近しい年代の起業家は、ミッションドリブンで、「企業のミッションをより早く実現できるなら自社だけの成長に拘らず、どこと組んでもいい」と考えている人が多い印象です。

――「スタートアップ育成5か年計画」発表からの3年を振り返り、2027年度に国内で10兆円規模の投資額を実現するうえでの課題や、必要なピースは何だと思いますか?

このままですと、なかなか10兆円の規模が見えてくるのは難しいのが現状かと思います。

ありきたりな話ですが、突き抜ける会社がこの数年で何社でてくるかということが分水嶺になっていくでしょう。日本のIPOが数百億円が成功事例となるのか、数千億円が成功事例といえるのかという問いが現実化していくと思います。

こういった中で、日本の市場だけではなく海外の市場をとらないと大きな規模の会社がでてこないということは至極当たり前の話で、この数年もそのチャレンジをしてきました。

とりわけWeb3というテーマはグローバル展開への心理的な敷居を下げてくれた気がします。私がANRIにジョインした8年前も、もちろん海外を目指す動きはありましたが、実際に海外進出している起業家は多くはいませんでした。現在は米国をはじめとした海外市場を創業当初から開拓する企業がいたり進出したり、NOTHING NEWのような映画・アニメ制作会社が海外の映画祭に出展したりして、グローバルに挑戦する企業が増えてきました。

そういった企業の成長により、どのように挑戦のエコシステムが進化していくのかが重要だと認識しています。

今後も変化が激しい世の中においてスタートアップが果たす役割は多種多様にあると考えていますので、変化させるところは変化させつつ淡々と起業家に向きあい仕事を続けることが長期的にはこのエコシステムが進化していくことになるのではないかと思い、今日も仕事に向かいます。

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