株式会社FormX

企業の情報開示業務を支援する株式会社FormXは、2025年9月、シードラウンドにおいて総額1.3億円の資金調達を実施。リード投資家としてジェネシア・ベンチャーズが参画し、千葉道場ファンドおよび複数のCFO経験者によるエンジェル投資家も参加した。
今回の資金調達により、同社はディスクロージャー・プラットフォームの開発を加速させるとともに、エンジニア採用やセキュリティ体制強化を図る。
FormXは2023年に設立され、経理・IR担当者向けに企業の情報開示プロセスを支援するSaaSおよびプロフェッショナルサービスを展開する。具体的には、有価証券報告書や決算短信の作成・提出を効率化するため、AIとXBRL対応を組み込んだ専用エディターを開発中であり、2025年10月に正式リリースを予定している。代表の時田知典氏は「現場で感じた非効率を解消し、専門家が本来注力すべき業務に集中できる世界を実現したい」と語る。
エディターはゼロベースから開発されており、ブロック構造で構築されたノーションライクなUIに加え、数値や表にタグを付けて構造的に理解するXBRL対応が可能。これは、従来の提出形式では不可能だったデータの再利用性・検索性を高めるものだ。
加えて、開示文書のドラフト生成・英文翻訳機能も搭載されており、「AIによる文書生成をエディター内に組み込むことで、コピー&ペーストの手間すら不要になる設計を目指している」と時田氏は述べている。

創業の背景には、時田氏自身の業務経験がある。上場企業での経理・開示業務、監査法人での監査業務、スタートアップでの経営企画・IPO準備業務を通じて、開示領域の非効率さに一貫して課題を感じていたという。特に、SmartHR在籍時に再び触れた従来型ソフトウェアに「なぜこの領域にはSaaSが進化していないのか」と強く違和感を抱き、起業に至った。
競合は主に宝印刷とプロネクサスの2社で、全国の上場企業に対して大きなシェアを持つが、FormXはそれらに次ぐ“第3の選択肢”として市場に挑む。「POCでの反応からも、業界が新たなプレーヤーを求めていることが伝わってきた」と時田氏は振り返る。
マネタイズはプロフェッショナルサービスを起点とし、将来的にはSaaSの収益比率を高める構想だ。「海外のエンタープライズ向けSaaSのように、初期はコンサル比率が高くても、徐々にソフトウェア主体へと移行していく。開示プロセス全体をプロダクトでカバーできるようにすることでスケールさせたい」としている。
今回の資金調達で得た資金は、開示文書エディターの完成度向上や、提出後の数値更新・文書ドラフティングの自動化といった機能拡張に充てられる予定だ。また、CFO陣の出資について時田氏は「現場視点でのプロダクト評価と、将来のデータ活用を見据えた期待の表れだ」と述べた。
さらに、これらのCFO投資家とは、現場の知見を共有しながらプロダクト改善を進めることに加え、今後の事業展開における戦略パートナーとしての連携も想定されている。「現場に精通するCFOの方々の目線で、プロダクトへのフィードバックをもらえるのは大きな強み。経理・IR領域のBPO支援も含め、より実務に根差した価値提供を行っていきたい」と時田氏は語る。
今後は、CVCとの連携にも関心を示しており、「東証上場企業などとのネットワークを通じた販路開拓や業務改革支援にも発展させていければ」と話す。CVCからの出資を受けることで、投資元企業のディスクロージャー改革に直接関わる機会や、新たなパートナー関係の構築を目指す考えだ。
中長期では、招集通知など他の開示書類への対応拡張、日本企業だけでなくアジア地域の上場支援、さらには東京証券取引所がアジアのハブ市場として成長する中での“架け橋”としての役割も構想に含まれる。出口戦略については「自社上場を見据えつつ、選択肢を柔軟に検討している」と語った。
「ディスクロージャーに新たなギアを」というミッションに込めた思いについて、時田氏は次のように語る。「日本のディスクロージャーは、形式的な作業や制度対応に追われがち。その中で、本当に人が注力すべき業務に集中できるような環境をテクノロジーで支えたい」。
同社の今後の動向は、今なお手作業が多く残る開示領域において、新たな変革の兆しとなるか注目される。
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