持続可能な移動を支える挑戦ーー交通スタートアップの最新動向

持続可能な移動を支える挑戦ーー交通スタートアップの最新動向

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2024年のスタートアップによる資金調達総額は8097億円(※プレスリリース情報に基づく速報値)で前年比15.5%増となった。対前年で落ち込んだ2023年から回復し、2022年比でも増加するなど、堅調な一年だったといえる。

(株)ケップルは、スタートアップの動向を把握するうえで、資金調達と同様に重要な指標として「従業員数」に注目。2023年12月~2024年12月の国内スタートアップの従業員数を集計し、スタートアップ動向レポート「従業員数から読み解く国内スタートアップの現在地2024」としてまとめた。今回は、レポートの中から交通セクターの従業員数推移や市場動向に関する解説を紹介する。

本記事で触れるセクター別レポートの全文は、ケップルが提供するスタートアップデータベース「KEPPLE DB」のスタータープラン(初期費用・月額無料)に登録することで閲覧できる。

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移動の未来に挑む交通系スタートアップが台頭

2010年代半ばから、交通分野では技術革新や政策支援、投資環境の改善、社会的ニーズの高まりなどを背景に、スタートアップ企業の設立が増加した。EVや自動運転技術の進展、交通手段の多様化、政府のスマートモビリティ推進政策が新たなビジネスチャンスを生み出し、スタートアップの参入が見られた。

グラフ~~2015年以降設立ラッシュ、最多は2019年の52社~~
~~2015年以降設立ラッシュ、最多は2019年の52社~~

注:上場したスタートアップや閉鎖企業などを含む


例えば、株式会社ティアフォー株式会社Luup株式会社SkyDriveジオテクノロジーズ株式会社株式会社EVモーターズ・ジャパンを始め、100億円を超える評価額を達成した企業が多数ある。2020年以降は新型コロナウイルス感染症の影響による移動需要の低下や投資環境の悪化、経済情勢の先行き不透明感も重なり、設立ペースは鈍化した。直近では、AIを活用したオンデマンド交通や自動運転技術、電動モビリティ、駐車場のDX化、ドローン輸送などのビジネスが登場している。

グラフ ~~2024年は緩やかに上昇、雇用拡大が進行中~~
~~2024年は緩やかに上昇、雇用拡大が進行中~~

注:2024年1月時点=100として指数化(セクター全企業の従業員数が対象)

都市課題に挑む世界の交通DX、北欧では環境配慮との両立進む

交通分野は、鉄道やバス、自動車といった移動手段を中心に発展し、道路網や公共交通インフラが20世紀の社会基盤を支えてきた。しかし、都市化の進展や人口増加に伴う渋滞、環境問題への対応が迫られる中、移動手段やインフラには、さらなる変革が求められている。

こうした課題を契機に、AIやIoT、ビッグデータ、5G通信といった先端技術を活用した交通DXが加速し、安全性や効率性、利便性を備えた移動サービスが各地で展開されつつある。例えば、AIによる交通渋滞の予測やIoTを活用した自動運転技術は、交通インフラの効率化を進めるだけでなく、移動手段の安全性向上にも寄与し始めている。

また、MaaS(Mobility as a Service)の普及により、複数の交通手段の検索・予約・決済を一体化した便利なサービスの提供が可能となった。さらに、新たな選択肢として電気自動車(EV)やライドシェア、マイクロモビリティの利用も増加している。これにより、移動の快適性を高めるだけでなく、都市や地方の交通環境の改善や持続可能な社会の実現にもつながっている。

スマートモビリティは、技術革新を活用して交通手段の効率化や環境負荷の軽減を目指す分野として急速に成長している。2024年には802億ドル規模に達し、2031年までにCAGR21%で約3044億ドルに拡大すると予測されており、世界各国で先進的な取り組みが進行中だ1。特に北欧諸国では、環境意識の高さと政策の一貫性を背景に持続可能な交通手段の導入が進んでいる。例えば、ノルウェーでは環境政策とインフラ整備の相乗効果により、EVの普及が急速に進み、新車販売台数の9割以上をEVが占めるまでになった。保有台数でもガソリン車を上回っている。

また、フィンランドの首都ヘルシンキでは、MaaSの一例として『Whim』というアプリが普及している。このアプリは、公共交通やタクシー、自転車レンタルなどをシームレスに統合し、1つのアプリで目的地まで移動する利便性を提供している。これにより、車の所有に依存しない新しい移動の形が広がりつつある。一方、アメリカのカリフォルニア州では自動運転車の試験運用および商業運用に関する法規制が他州に先駆けて整備された。その結果、Alphabet傘下のWaymoは、特定の条件下で完全自律走行が可能なレベル4のロボタクシーサービス『Waymo One』を提供している。

さらに、シンガポールでは、スマートシティ構想の一環として、交通インフラの効率化が進められている。陸上交通庁(LTA)が提供する『MyTransport.SG』アプリを通じて、バスや列車の運行状況、渋滞情報、駐車場の空き状況をリアルタイムで提供し、交通の効率化と環境負荷の軽減に寄与している。限られた都市空間を最大限に活用しながら、住民の利便性と持続可能な社会の両立を目指すモデルケースとして注目されている。

日本のモビリティ戦略、環境配慮と交通格差是正を軸に

※プレスリリース情報に基づく

日本では、交通政策基本計画の下で、少子高齢化や地方過疎化といった課題に対応し、持続可能で効率的な交通システムの構築を目指している。政府はスマートモビリティを活用した新たな交通モデルの創出を目標に掲げ、特にEVや自動運転技術の普及促進を通じて環境負荷の低減を重視している。また、地域特有の課題を解決するための取り組みとして、地方創生や都市部と地方の交通格差是正を推進している。こうした国のビジョンを背景に、地方ではスマートモビリティの導入が進行中だ。

近年、公共交通の維持や移動手段の確保は地方自治体にとって大きな課題であり、特に高齢者や交通弱者の移動支援が求められている。例えば、自動運転バスの実証実験は地方を中心に進められており、地元住民の移動手段の維持に貢献することが期待されている。また、過疎地域では、AIを活用したオンデマンド交通サービスの導入が進んでおり、効率的なルート設定によってコスト削減と利便性向上が図られている状況だ。

一方で、首都圏などの都市部では、渋滞緩和や環境負荷軽減を目的としたマイクロモビリティの利用が拡大傾向にある。電動キックボードや自転車シェアリングの導入が進む中、規制の整備も実態に即した方向へと進みつつある。これにより、住民や観光客の短距離移動における新たな選択肢として注目が高まっている。国内におけるマイクロモビリティの新車販売台数は、2030年までに最大約49,500台に達すると予測されており、関連技術やサービスの市場拡大が期待されている2

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本セクターの、2024年従業員数ランキング(2023年12月から2024年12月までの期間を集計)と主要なカテゴリーに属する国内外のスタートアップの動向、掲載企業の一覧は KEPPLE DB でご覧いただけます。

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※1Verified Market Research Smart Mobility Market Valuation – 2024-2031
※2矢野経済研究所 次世代モビリティ市場に関する調査を実施(2023年)

Writer

高 実那美

高 実那美

株式会社ケップル / Data Analysis Group / Database Division / アナリスト

新卒で全日本空輸株式会社に入社し、主にマーケティング&セールスや国際線の収入策定に従事。INSEADにてMBA取得後、シンガポールのコンサルティング会社にて、航空業界を対象に戦略策定やデューディリジェンスを行ったのち、2023年ケップルに参画。主に海外スタートアップと日本企業の提携促進や新規事業立ち上げに携わるほか、KEPPLEメディアやKEPPLE DBへの独自コンテンツの企画、発信も行う。

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