Telexistence株式会社

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政府(経済産業省)が主催する「日本スタートアップ大賞」は、革新的な技術やビジネスモデルを通じて、社会課題の解決や新市場の創出に挑むスタートアップを表彰する制度だ。
2025年の今回は、230件の応募から10社が選出され、新設された「防衛大臣賞」も含め、分野横断的なイノベーションが高く評価された。
日本を代表する注目スタートアップ4社に独自取材
本記事では、2025年の受賞企業の中でも特に注目を集めた4社、Telexistence株式会社(日本スタートアップ大賞)、WHILL株式会社(日本スタートアップ優秀賞)、株式会社Synspective(防衛大臣賞)、SHE株式会社(審査委員会特別賞)に直接話を聞いた。
日本発スタートアップが挑む、深刻化する社会課題への具体的なアプローチと、今後の展望を紹介する。
Telexistence株式会社(内閣総理大臣賞/日本スタートアップ大賞)
Telexistence株式会社は、人手不足という構造的な社会課題に対し、AIとロボティクスを融合した実用的なロボット技術を通じて解決を図るスタートアップだ。
同社が開発した自律型ロボット「Ghost」は、コンビニエンスストアの飲料陳列などに導入されており、1日あたり1000本以上の商品を24時間稼働で補充可能。実際にファミリーマートをはじめとする複数店舗で稼働しており、その業務代替効果が実証されている。

取材に応じたCTOの佐野元紀氏は、「日本としてもこの社会課題に本気で取り組もうという意思表示だと感じています。非常に光栄です」と、今回の受賞に対する想いを語る。
また、同社は物流領域にも進出しており、大手物流企業の倉庫におけるケースのデパレタイジング(荷下ろし)ロボットも提供。「製造業以外の現場」にロボットを社会実装するという視点で、小売・物流双方の労働現場をターゲットとしている。
創業のきっかけは、東京大学および慶應義塾大学の先端研究に端を発する。もともとは汎用型の人型ロボットの実用化を目指していたが、技術的なハードルの高さや社会実装の難易度を踏まえ、用途を「陳列」などの特定業務に絞る戦略へと転換。これにより、現場導入可能な商用ロボットの実現に成功した。
佐野氏は「生成AIと連携し、“こうしてほしい”という言葉を理解して動けるロボットへ進化させたい」と展望を語る。将来的には小売業や物流現場にも展開し、ロボットと人が自然に協働できる社会の実現を目指している。
WHILL株式会社(経済産業大臣賞/日本スタートアップ優秀賞)
高齢化の進展に伴い、歩行困難や移動制限に直面する人々が増える中、WHILL株式会社は“すべての人の移動を楽しくスマートに”を掲げ、近距離移動に特化した次世代モビリティを開発・提供しているスタートアップだ。

同社の代表を務める杉江理氏は今回の受賞について、「うれしい気持ちと同時に、世界のリーディングカンパニーとしての責任を感じています」と語る。
空港や病院では自動運転型、商業施設ではレンタル型など、用途に応じた展開を進めており、欧米では「1台で4人分の業務を代替できる」という導入効果も実証されている。売上の約8割は海外市場が占める。
今後はIoTとの連携を進め、たとえばJRの改札連動など、生活全体を最適化するモビリティインフラ構築を視野に入れている。「どんな人も、どこへでも自由に移動できる社会を世界中に届けたい」と、さらなる挑戦を続けている。
株式会社Synspective(防衛大臣賞)
レーダー衛星(SAR衛星)の開発・運用で注目を集めるSynspectiveは、災害や有事の即時対応、平時の社会インフラ管理まで、幅広い応用を見据える宇宙スタートアップ。

取材に応じた防衛情報事業室 室長の秋山郁氏は、「防衛産業の中でもスタートアップの力を求める流れが生まれていると感じます。(受賞について)その第1回に選ばれたのは非常に光栄です」と語る。
内閣府の研究開発プログラムを起点に創業し、夜間・悪天候でも観測可能なSAR衛星を社会実装してきた。今後は衛星の基数を増やし、データの即時性と国際連携の強化を図る。
「衛星データを“使える”インフラへと進化させ、持続可能な社会に貢献していきたい」と意欲を示した。
SHE株式会社(審査委員会特別賞)
キャリア支援とスキル教育を通じて20万人以上の女性を支援してきたSHEは、“自分らしい働き方を諦めない社会”の実現を掲げるスタートアップだ。

創業者であり代表取締役CEOを務める福田恵里氏は、「このビジョンが社会にとって必要とされていることを、今回の受賞を通じて実感できました」と振り返る。
近年は、AIスキルを活用した育成プログラムと企業マッチングを組み合わせた“出口支援”を強化。都市部に偏っていた受講者層に向けては、福岡を皮切りとした地方拠点展開も再始動している。
「今後は、47都道府県すべてに学びを届けたい。将来的には女性に限らず、多様な人が“自分らしく働ける”社会の基盤になりたい」と語る福田氏。日本のキャリア支援のスタンダードをつくるべく、挑戦を続けている。
その他の受賞企業も、社会課題に挑む有力スタートアップが集結
今回の受賞企業には、以下のような注目スタートアップも含まれている。
ファストドクター株式会社(厚生労働大臣賞)
医療アクセス格差を解消する救急往診・オンライン診療プラットフォーム
リージョナルフィッシュ株式会社(農林水産大臣賞)
ゲノム編集による水産物の品種改良で地域産業を活性化
株式会社アクセルスペースホールディングス(文部科学大臣賞)
小型衛星による地球観測で農業や環境保全に貢献
Terra Drone株式会社(国土交通大臣賞)
インフラ点検・測量分野におけるドローン×運航管理の展開
株式会社RevComm(総務大臣賞)
音声解析AI「MiiTel」で営業・コール業務の改善
ユニファ株式会社(審査委員会特別賞)
保育園向け業務支援システム「ルクミー」で保育の質と効率を両立
スタートアップが切り拓く、日本の未来
今回の日本スタートアップ大賞を通じて明らかになったのは、単なる技術革新ではなく、「社会実装」まで踏み込んだスタートアップの実力だ。
ロボティクス、モビリティ、宇宙、防災、教育、医療――いずれも日本が直面する本質的な課題に対し、スタートアップはスピード感と柔軟性を武器に解決策を提示し始めている。
これからの10年、スタートアップは“ニッチな新興企業”ではなく、日本の経済や社会の土台を支える社会的インフラの担い手となるだろう。