株式会社TimeTree

株式会社TimeTreeが韓国最大手の通信事業者SK Telecom(SKT)と資本業務提携を締結し、22億円の出資を受けることを発表した。2015年3月にサービスを開始したカレンダーシェアアプリ「TimeTree」は、現在グローバルで6800万人の登録ユーザーを有し、累計130億件の予定データを蓄積している。
TimeTreeは単なるカレンダーアプリではなく、家族や友人、職場などのグループで予定を共有するコミュニケーションプラットフォームとして独自のポジションを築いてきた。今回の提携により、SKTのAI技術「A.(A Dot)」の開発ノウハウを活用し、予定データを基盤としたAI機能の開発と海外展開を加速する方針だ。
共同代表取締役社長の深川泰斗氏に、資本業務提携の背景と今後の戦略について詳しく話を聞いた。
予定データを活用したコミュニケーションプラットフォーム
——御社の事業について教えてください。
深川氏: カレンダーシェアアプリTimeTreeを提供しており、2014年9月に創業して現在12期目に入りました。単なるカレンダーアプリではなく、コミュニケーションプラットフォームとして位置付けて開発しており、人と予定を共有するということを土台にしています。
グローバルで登録ユーザーは6800万人。おおよそ半分が日本国内、半分が海外となっています。海外でユーザー数が多い国は、順にアメリカ、ドイツ、台湾、イギリス、韓国です。

特徴的なのは、家族、カップル、職場、友達グループ、部活やサークルといったグループでの利用が中心だということ。カレンダーを複数持てるので、家族で使いつつパート先のメンバーと一緒にシフトを共有するなど、クロスオーバーした使い方も可能です。こうしたバイラリティによって、ユーザーがユーザーを呼ぶ成長サイクルを実現しています。
このユーザーベースの上に、現在は広告事業とユーザー課金の2つを柱としたビジネスモデルで成り立っています。
——なぜこれほど国を超えてユーザーに受け入れられているのでしょうか。
海外では広告などのマーケティングをほぼ行わず、ユーザー同士の口コミだけで成長しています。カレンダーという道具はどの国にも必ずあり、身近な人とシェアした方が日常がスムーズになるという課題が全世界共通だったことが要因だと思います。
また、ユーザー理解や使い方の提案を地道に繰り返してきました。シェアされやすくする工夫も積み重ねており、例えばインストールした国によって「一緒に使いましょう」という招待時に起動するメッセンジャーを変えています。各国で最も使われているメッセージアプリに対応しているんです。
国ごとの成長経路は興味深く、それぞれ異なります。ドイツは、ディュッセルドルフの日本人コミュニティから始まりました。ヨーロッパ最大級の日本人コミュニティがある街で、日本での流行がディュッセルドルフに伝わり、そこからドイツ人へと広がったんです。
アメリカでは、AppleのTim Cook氏が弊社オフィスを訪問してツイートしてくれたことによる認知拡大に加え、数年前に自然なバズが起きました。大学生の女の子が夏休みに友達グループで予定共有する様子をTikTokに投稿したところ、大きく拡散され、App Store総合ランキング20位台まで上昇。一過性で終わらせず、使い方を分析してアプリ内で提案し続けたことで定着しました。このアメリカでの成功が英語圏全体への拡大につながっています。
新たな収益の柱となる公開カレンダー
——広告事業について詳しく教えてください。
カレンダーは他のメディアと違って、ユーザーが目的を持って見るのが特徴です。「来週何があるっけ」と確認するために開くので、暇つぶしではないんです。そのため集中して情報を見てもらえます。
広告商品は大きく2つあります。1つ目が「日付認知」で、これは企業の重要な日付を全ユーザーに知らせる商品です。例えばECサイトのセール開始日、新商品の発売日、ゲームのイベント日、飲食チェーンの限定クーポン配布日などですね。全ユーザー向けなので大手企業のクライアントが中心になります。

2つ目が「未来行動ターゲティング」です。これがTimeTreeならではの商品で、ユーザーが登録した130億件以上の予定データを活用します。例えば「引っ越し」という予定を入れた人にだけ、家具メーカーや引っ越し業者の広告を配信できるんです。まさに未来の行動に基づいた広告配信ですね。
ユーザー課金については、月額300円程度で広告非表示にできるプレミアムプランがメインです。
——広告とユーザー課金以外の新しい収益源はありますか。
公開カレンダー機能を中心とした新しい収益源を開拓しています。これは他のプラットフォームでいう企業アカウントのような仕組みで、企業やアーティストがTimeTree上で情報発信やビジネス活動ができます。マーケティング機能の利用料やデジタルコンテンツ販売による手数料などが収益になります。
特に直近はアイドルグループの活用が活発ですね。ライブやテレビ出演の情報を公開カレンダーで発信し、ファンがフォローしています。面白いのは、ファンから「もっと推しを身近に感じたい」という声があって、スマートフォンのホーム画面にウィジェットとして表示できる機能を作ったことです。
次のイベントまでの日数が常に表示され、画像も毎週更新されます。これはアイドルの紙のカレンダーをデジタル化したようなもので、部屋に飾る代わりにスマホのホーム画面に置けるんです。月額数百円で提供していて、新しいファンエコノミーの形になっています。
リリース当初から変わらない長期ビジョン
——創業当初からプロダクトビジョンは変わっていますか。
実はリリース前に作ったロードマップを今もそのまま追っています。当時は楽観的に「5年で1億ユーザー」と考えていて、実際は思ったスピードでは進んでいませんが、方向性は変わっていません。
当初から描いていた戦略は3段階でした。ステップ1は家族やカップルなど身近なグループでの予定共有です。これがユーザーの継続利用とグロースの基盤になると考えました。
ステップ2はパブリックなイベント情報の発信です。コンサートやイベントなど、主催者が多くの人に知らせたい予定を発信できる仕組みを作る。これが現在の「公開カレンダー」機能ですね。
ステップ3は未来への提案機能です。蓄積されたイベント情報をもとに「今度こんなイベントがありますよ」「ディズニーランドが空いている日はこちらです」「夏休みの計画はそろそろ立てませんか」といった提案ができるようになる。これがAI機能の開発で実現したい部分です。
2024年に公開カレンダーを正式リリースしたので、現在はステップ2が完了してステップ3に向かっている段階です。最初にやりたかったことを着実に実行している状況ですね。
——資金調達で苦労された点はありますか。
最初はよく「カレンダーアプリでしょ」と言われました。でも私たちは一貫して、TimeTreeは単なるカレンダーではなく、予定データが蓄積されるコミュニケーションプラットフォームなんだと説明してきました。
この長期ビジョンを理解してくださった投資家の方々に支えられてきましたし、実際にグローバルでユーザーが成長していることを評価していただけました。
サービスの軸やメッセージを変えたことは一度もありません。失敗は数多くありましたが、当初から一貫した戦略で進んできたのが良かったと思います。
SK Telecomとの協業で目指すAI時代の予定管理
——SK Telecomとの提携はどのような経緯で実現したのでしょうか。
弊社は共同代表制で、私ともう1人パク(朴且鎮)という共同代表がいます。パクは元カカオコーポレーションの経営陣で、カカオジャパンの代表も務めていたため、韓国IT業界との関係性が非常に強いんです。
そうした中で、SK TelecomがTimeTreeに注目してくださいました。SKTはAI企業への変革を進めており、ClaudeやPerplexityなど様々な企業に投資しています。TimeTreeがAI時代に高いポテンシャルを持つと評価していただき、協業が実現しました。
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——AI機能の協業開発において、具体的にどのように進めていく予定でしょうか。
TimeTreeは毎日「何しようかな」「今日何があるっけ」と起動される日常的なタッチポイントで、そこに130億件の予定データが蓄積されています。このデータを活用すれば、ユーザーに非常に的確な提案ができます。
ただ、私たちだけではAI機能の開発は簡単ではありません。開発リソースやノウハウ、計算資源のコストもかかります。SKTは「A.(A Dot)」というAIアシスタントを韓国で1000万ユーザーに提供しており、そのノウハウを活用できます。TimeTreeは予定データとアプリでのタッチポイントを、SKTはキャリアやデバイスでのタッチポイントを持っており、総合的に強いポジションを築けると考えています。
具体的には、SKTの開発チームがTimeTreeと共同でAI機能を作ります。例えば、ユーザーが予定のタイトルだけ入力すれば、AIがその内容を理解して関連する場所のURL、必要な持ち物、所要時間などを自動補完する機能や、「新橋に行くならこのランチがおすすめ」「明日は雨なので傘を忘れずに」「来月の京都旅行にはこんな情報があります」といった状況に応じたパーソナライズ提案を目指しています。
予定データから家族関係も分かるので、お父さんには子供向けのイベント情報を提案するなど、TimeTreeならではの価値提供ができると考えています。
億単位のユーザーを抱えるグローバルプラットフォームを目指して
——今後の成長戦略について伺ってもよろしいですか。
もちろんここまで調達してきているため、上場は有力な選択肢として考えています。その際には、日本発グローバルプラットフォームといえる状態、あるいは確かな手応えをはっきりと作りたいと思っています。
ユーザー数で世界で億単位というのは当初から考えており、社内でも目安としています。現在6800万ユーザーですが、1億ユーザー達成がひとつの大きな節目ですね。
海外戦略としては、今回のSK Telecomとの提携で韓国をモデルケースにしたいと考えています。韓国では既に現地オフィスを設立し、TimeTree Adsの販売実績もあります。この韓国での成功事例を作れば、SKTがグローバルで関係を持つDeutsche TelekomやT-Mobile、NTTドコモなどとの連携も見えてきます。
台湾も注力すべき市場です。人口2000万人に対して数百万人のユーザーがいるので、5人から10人に1人という非常に高い普及率です。台湾での広告販売や事業展開を早期に実現したいと考えています。
さらに、アメリカはユーザーボリュームで既に大きな市場になっています。こうしたグローバル市場での展開を加速させて、真のグローバルプラットフォームになったタイミングで上場への道筋を描いていきたいと考えています。
——今後の意気込みがあれば伺ってもよろしいでしょうか。
私はもともとYahoo! JAPANにいて、FacebookやXに対してSNSで負け続けてきました。海外プラットフォームに対してです。世界で使われるプラットフォームを作りたいというのは、ずっと変わらず思っており、とにかくそれを成し遂げるというのが意気込みです。
その夢の実現に向けて、3つの挑戦を同時に進めていきます。まずは今回のSK Telecomとの協業により、これまでにない次世代の予定管理を実現し、AIが当たり前の時代における新しいユーザー体験を創造したいと思っています。
次に公開カレンダーでカレンダーの概念を変えていきます。従来の「忘れないように書く」カレンダーから、「発見して行動する」カレンダーへ──アーティストのライブ情報はもちろん、楽天のセール、地域のスーパーの特売情報、自治体の行政サービスまで、生活のあらゆる場面でTimeTreeが価値を提供できるプラットフォームを築き上げます。
そして広告事業では、日付認知と未来行動ターゲティングという独自の価値を磨き上げ、他では実現できない広告体験を提供していきます。
これら全ての取り組みが、日本発のグローバルプラットフォームという大きな目標に向かっています。1億ユーザーという節目を必ず達成し、世界中の人々の時間をより豊かにするサービスを作り上げる。それが私たちの使命だと考えています。
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