オーストラリア発・deepC Store、3.5億円調達──日豪連携でCO2回収・貯留を推進

オーストラリア発・deepC Store、3.5億円調達──日豪連携でCO2回収・貯留を推進

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オーストラリア発のCO2回収・貯留(CCS: Carbon Capture and Storage)スタートアップ deepC Store Limited は、インキュベイトファンドを引受先とする約3.5億円の第三者割当増資を実施した。同社は、オーストラリアで正式に取得した大規模なCO2貯留鉱区を活用し、日本をはじめとするアジア太平洋地域の産業から排出されるCO2を洋上で回収・貯留する越境型CCS事業「CStore1」の実装を目指している。今回の資金調達は、各国のカーボンネットゼロ政策の加速や投資需要の高まり、日本国内でのCCS実用化の遅れといった市場環境を背景に行われた。

deepC Storeは2021年設立の独立系スタートアップで、事業の中心は「CStore1」と呼ばれる越境対応型の浮体式CCSプラットフォームの設計・開発である。CStore1は、日本やアジア太平洋地域の産業から排出される液化CO2を専用船で輸送し、オーストラリア北西海岸から約200〜250km沖合に設置する浮体式ハブで地中に圧入・恒久貯留する仕組みを採用する。設計上の規模は年間約300万トンで、モジュール追加による拡張も可能とされている。複数企業からのCO2を受け入れる「マルチユーザー型」設計を採用し、パイプラインの最小化や船舶・浮体の再利用性なども特徴とする。

同社はまた、2024年8月にJ-POWERおよびAzuliと戦略的パートナーシップに向けた共同検討契約を締結しており、越境型CO2バリューチェーン構築に向けた調査・検討を進めている。

代表取締役の車 大仁(チャ・デイン)氏は兵庫県生まれ。東京ガスでLNG調達やガス田開発、オーストラリア赴任を経験後、Chevronで大規模ガス田プロジェクトに従事。2016年に浮体式LNG開発会社Transborders Energyを設立し、2021年にdeepC Storeを創業した。エネルギー分野における国際交渉・意思決定評価の経験を持ち、AACE International認定コストエンジニア資格を保有する。CCUS Network Australiaの役員を務めている。

同社が取得した豪州連邦海域の2つのCO2貯留鉱区は、政府の環境・技術審査を経て正式に付与されたもので、合計で10億トンを超える貯留ポテンシャルを持つとされる。これは日本の年間CO2排出量と比較される規模であり、商用CCS案件としては世界的にも大規模な部類に入る。

CCS業界全体の動向として、国際エネルギー機関(IEA)は脱炭素目標を実現するためには世界で年間約51億トン、日本で約1.7億トンのCO2を貯留する必要があると試算している。一方、日本には稼働中のCCS施設はなく、世界全体でもわずか0.49億トンにとどまり、技術実装・貯留地開発の遅れが課題となっている。

日本では2024年2月に「CCS事業法」が閣議決定され、同年5月に成立した。制度整備は進みつつあるものの、2025年10月時点で商用CCS施設は稼働していない。国内では既存油田・ガス田の貯留層再利用に向けた動きがあるが、新規鉱区開発にはリスク評価やノウハウが必要で、参入企業は限定的である。

今回調達した資金は、浮体式CCSハブの事業開発加速、パートナーシップ拡大、運転試験準備などに充てられる予定。同社は複数企業との共同検討を進め、今後は日豪を軸とする商用案件形成を目指す。

CCS事業の国際展開にあたっては、CO2輸送に関する法規制や環境アセスメント、社会的受容など多くの課題が残る。一方、アジア太平洋地域では水素・アンモニアなど脱炭素バリューチェーン投資が活発化しており、CO2貯留インフラ整備の重要性も高まりつつある。deepC Storeの越境型浮体式CCSモデルは、企業や政府間の広域連携に貢献する可能性があるとして注目されている。

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