ヒューマンライフコード株式会社

再生医療分野のスタートアップであるヒューマンライフコード株式会社が、総額約7.7億円の資金調達を完了した。今回の資金は、既存株主、事業会社、ベンチャーキャピタル、個人投資家、経営陣からの出資によるもので、事業拡大および臨床開発の加速に活用される予定だ。
2017年4月に設立されたヒューマンライフコードは、これまで医療資源として十分に活用されてこなかった臍帯から採取される間葉系間質細胞(UC-MSCs)の研究開発、製造、販売を手掛けている。
再生医療の対象となる主な疾患には、既存の治療法が確立していない難治性疾患が含まれる。臍帯は出産時に廃棄されることが多いが、同社はこれを医療資源として活用することで、持続可能な供給モデルと細胞製品の安定提供を実現している。
2019年「第1回東京ベンチャー企業選手権大会」最優秀賞・東京都知事賞、2023年「日本オープンイノベーション大賞」厚生労働大臣賞など、官民のスタートアップ支援プログラムで複数の受賞歴がある。これらの評価は同社の独自性や社会課題への貢献、グローバル展開力に基づくものだ。
2025年8月にはアブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)で現地法人を設立し、Hayat Capital(UAEの大手グループ投資部門)と協業基本合意(MOU)を締結した。臍帯細胞治療エコシステムとHayat Capitalの現地ネットワークを組み合わせることで、医療アクセスが限定的な中東・北アフリカ(MENA)地域への細胞製品供給や現地医療従事者への技術展開も計画している。これにより、サプライチェーンの多元化や将来的な事業リスク分散も図られる。
代表取締役社長の原田雅充氏は創業者。岐阜大学大学院で農学修士を取得後、日本化薬・アムジェンで臨床開発に従事し、新薬承認や血液腫瘍・骨領域の開発に携わる。東京大学医科学研究所では急性白血病の研究で米国血液学会発表や「Blood」誌掲載を果たす。その後セルジーンで販売体制構築とグローバル開発を統括し、MBA取得を経てシンバイオ製薬執行役員に就任。2017年、ヒューマンライフコードを設立した。
再生医療・細胞治療市場は世界的に成長が続いている。UC-MSCsは抗炎症作用や組織修復作用があり、自己免疫疾患、脳梗塞後遺症、肺疾患など幅広い疾患への適応可能性が注目されている。日本では2014年に再生医療等製品の制度化が進み、承認数も増加傾向にあるが、採算性や製造コスト、原料供給、流通基盤の構築が業界全体の課題となっている。競合には、骨髄や脂肪組織など他組織由来の間葉系幹細胞を活用する国内外のスタートアップやバイオベンチャーが挙げられる。
調達資金の主な用途は、現在準備中の造血幹細胞移植後非感染性肺合併症(NIPCs)を対象とした第Ⅲ相臨床試験を確実に開始するとともに、日本・米国を中心としたグローバルでのUC-MSCs供給体制を確立する。パートナー企業と連携し、臍帯原料の調達からマスターセル・プロダクトセルの製造・供給まで、サプライチェーンを強化していく方針だ。
再生医療市場は高齢化や慢性疾患の増加、医療費の増大といった社会背景から拡大が予測されている。今後はUC-MSCs製品の有効性・安全性に関するデータ蓄積、標準化や大量製造のノウハウ確立、海外規制への対応力が求められる。日本のスタートアップにとって、グローバル連携、資金調達、規制対応は依然として大きな課題となっており、今回の資金調達による進展が注目される。