2022年の上場・未上場市場の動向まとめ|IPO調達が大幅に減る中、未上場企業が融資を活用

2022年の上場・未上場市場の動向まとめ|IPO調達が大幅に減る中、未上場企業が融資を活用

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谷口 毅


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本記事では、2022年の日本のスタートアップ動向を振り返ります。未上場企業では、大型の資金調達をピックアップします。上場企業では、成長著しい企業が多いものの、日経平均などに比べて取り上げられる機会が少ない東証マザーズ/グロースに着目しています。

未上場企業の動向: 2022年度累積調達額ランキング

本メディアの独自集計によると、2022年の日本のスタートアップの資金調達総額は8,303億円、資金調達件数は2,035件、調達平均額は約4億円でした(※リリース情報に基づく速報値)。DBに新たに実装したセクタータグと照らし合わせると、ヘルスケア、金融、メディアセクターでの資金調達の件数が多かったです。リリースで資金調達額が公表されている案件のうち、2022年の累積調達額(融資含む)上位10社を下記に掲載しています。

会社名2022年度累積調達額 (単位:億円)
1 UPSIDER617
2 自然電力244
3 タイミー183
4 OPN155
5 LegalOn Technologies137
6 アンドパッド122
7 ティアフォー121
8 Synspective119
9 SkyDrive96
10 クリーンエナジーコネクト94

10社のうち、2社は決済、2社は再生可能エネルギーに関わっており、スタートアップ相場に逆服が吹く中でも、投資家はこれらの領域を構造的な成長があるとみなしているようです。スペースデブリ除去に取り組むアストロスケールの英国支社は、200万ポンド調達しており(海外支社による調達のためランキングからは除外)、SAR衛星のSynspectiveとともに宇宙領域も注目を集めています。

未上場企業の動向: 資金調達金額上位3社について

第1位は、法人カードのUPSIDERです。資金調達額は617億円で、そのうち約567億円は融資によるものでした。多額の資金を必要としているのは、取り組みを強化しているあと払いサービスが一因と考えられます。同社の「支払い.com」を利用するユーザーは、4%の手数料を払うことでカード決済の振り込み日を最長60日間先延ばしにできるため、同社は運転資金が必要となります。主力の法人カード事業は、従来の法人カードが抱える「限度額が少ない」、「カード利用明細の更新に時間がかかる」などの課題を解決しようとしており、上場が近いスタートアップが主要顧客です。同社の資金調達に投資家として参加したメガバンクの主要顧客との相互補完を目指していると考えられます。法人カード市場については、FinTech第一弾の特集記事で詳しく説明しているのでご覧ください。

株式会社UPSIDER

株式会社UPSIDERは、法人向け決済サービスの提供を行う企業。 同社が提供する成長企業向けの決済サービス『UPSIDER』は、振込予定の請求書や全銀データをアップロードするだけで、取引先への振込予約が完了できる BtoB の Fintechサービス。振込データの作成や確認などに費やしていた時間が不要になることで、業務の効率化を実現する。また、振込金が一時的に不足している場合などには、同社で振込の立て替えが可能。最長 60日まで、立替手数料 2~9%程度で利用できる。

代表者名宮城徹
設立日2018年5月14日
住所東京都港区六本木7丁目15番7号
記事一覧
スタートアップの詳細データはKEPPLE DB
KEPPLE DB

第2位は、再生可能エネルギー発電所の自然電力です。資金調達額は244億円(転換社債型新株予約権付社債:200億円)で、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ、シグマクシス・インベストメント、CDPQなどから調達しました。同社のように、再生可能エネルギーの発電所を運営する企業は国内でも多くみられますが、各国の法律や地元企業との競合もあり、海外展開が容易ではありません。その中で、同社が東南アジアやブラジルなどの海外でも発電事業に取り組んでいることも評価されていると思われます。今回の調達額の集計からは除外していますが、CDPQが500億円を自然電力に出資することを想定した共同投資の枠組みも発表しています。

自然電力株式会社

自然電力株式会社は、自然エネルギー発電所の発電事業、事業開発などを行う企業。 太陽光・風力・小水力などの自然エネルギー発電所の設置・運営に必要な、開発・EPC(設計・調達・建設)・O&M(運営・保守)・アセットマネジメント・電力小売事業など、すべてのサービスを手がけている。 2019年12月末時点において、日本全国でグループとして約1GWの自然エネルギー発電事業に携わっており、2030年までに世界中で 10GW 相当の発電事業に取り組むことを目指す。

代表者名磯野謙, 長谷川雅也, 川戸健司
設立日2011年6月2日
住所福岡県福岡市中央区荒戸1丁目1番6号

第3位は、スキマバイト探しのタイミーです。資金調達額は183億円(融資)で、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、りそな銀行などから調達しました。これまでアルバイトに応募しようとすると、履歴書提出や面接が求められたり、仕事が終わった後にすぐに報酬を受け取れないなどの課題がありました。タイミーはそれらの課題を解決する「スキマバイト」を促すことで、2022年10月時点で350万人超のワーカーと33,000の事業者に使用されるサービスになりました。今回の融資の注目ポイントは、利率1.0%未満であることであり、一般的にスタートアップではこのような利率で借りることは困難です。同社の高い成長性や収益性に期待が高まっているものと思われます。

株式会社タイミー

株式会社タイミーは、空いた時間に働きたい人と、一定の日時に人手が欲しい企業に対してマッチングの場を提供するアプリ「タイミー」を運営する企業。 「タイミー」では、面接・履歴書不要の単発アルバイト求人情報を掲載。働き手は、働きたい案件を選ぶだけで働ける。企業は「来てほしい時間」や「必要なスキル」を設定する。企業は初期費用や月額利用料が不要で、雇用した場合に手数料を支払う。

代表者名小川嶺
設立日2017年8月23日
住所東京都豊島区東池袋1丁目18番1号

資金調達額上位で目立つのは大型融資です。これまで、将来のキャッシュフローが読めないスタートアップに融資は不向きだとされていました。ベンチャーデットの金利は3~15%程度と1~3%の銀行融資より高いといわれており(※1)、スタートアップ側にとっても利息の負担が大きかったです。株式相場が低迷する中で、融資が株式調達にとって代わる手段になるかもしれません。欧米では、スタートアップの資金調達の20~30%を負債(デット)が占めるといわれており、日本でもデットの調達が広がっている証左です。ベンチャーデットについては、新たなファンド組成の動きの記事をご覧ください。

上場企業の動向:マザーズ指数

2022年のマザーズ指数は、26.1%下落しており、世界の主要指数と比べても低調でした。マザーズ市場は、2021年後半から既に下落が始まっており、2022年に金利上昇で低迷した世界株式にとって、危険が迫っていることを知らせる「炭鉱のカナリア」でした。米国10年債の利回りは、1.5%強から4.0%弱まで上昇しており、米国金利と高い逆相関を示す成長株にとっては苦しかったです。アメリカでも成長株が多いNASDAQがS&P500をアンダーパフォームしました。マザーズ指数は、NASDAQのパフォーマンスを上回っているように見えますが、2022年にドルに対して約15%円安になったことを踏まえると、米ドルベースのマザーズ指数の下落率は著しかったです。

世界の株式市場を見渡すと、期待先行で買われていた半導体銘柄を多く含む台湾や韓国の株式指数が苦戦した一方、コロナ後の経済回復が見られるインドやシンガポール、資源株に買いが向かったブラジルやインドネシアの株式指数は好調でした。

株式指数2022年騰落率
マザーズ指数-26.1%
日経平均-9.4%
TOPIX-5.1%
S&P500-19.4%
NASDAQ-33.1%

上場企業の動向:IPO

次に、2022年のIPO動向を見ていきます。東証におけるIPO件数(TOKYO PRO MARKETは除外)は87件であり、123件だった2021年からは大きく件数を落としました。ただ、2016年から2020年までは、毎年80~90程度の企業が上場しており、2022年が極端に悪かったのではなく、2021年が一時的に大きく伸びた年ともいえそうです。

IPO件数以上に落ち込みが見えたのがIPO調達額でした。マザーズ/グロース銘柄に絞ると、2021年の1/3強の規模しかありませんでした。2021年のIPO時には、上場直前の調達ラウンドから2倍強も時価総額が上がっていましたが、2022年は20%強の上昇にとどまりました。一方、意外だったのは、初値上昇率が2021年と2022年で大きく変わらなかったことです。これは、2022年にIPO時の調達額を絞ったことで供給がタイトになったこと、公募割れを防ぐために企業が公募価格を低めに設定したことなどが要因として推測されます。また、マザーズ市場が既に冷え込みを見せている中で2021年12月に多くの銘柄が上場したことも影響しました。

グロース/マザーズ銘柄における指標2022年IPO2021年IPO
IPO件数70件93件
公募・売り出し金額(OA除く)1,539億円4,262億円
初値上昇率(中央値)49.2%46.5%
公募価格÷上場直前ラウンドの評価額(中央値)1.2倍2.3倍

上場企業の動向:2022年のIPO注目銘柄

2022年のIPO注目銘柄として、ANYCOLORが挙げられます。直近はロックアップの終了や海外売り出しに伴い、株価が下落しているものの、グロース市場の時価総額ランキングでは第4位です(1/23/2023時点)。VTuber(アバターとして活動するYouTuber)を管理しているため、YouTuber事務所のUUUMが類似企業として挙げられますが、現時点ではANYCOLORの方が高いバリエーションがついています。その理由の一つとして、同社の売上成長率と利益率の高さが挙げられます。同社の収益の柱はVTuberによるコンテンツ販売のため、YouTubeの広告収入を基盤とするUUUMよりもコストを抑えられます。また、VTuberは競合が少ない中で活動領域を拡大させやすいため、VTuber一人当たりの売上高を伸ばしやすく、高成長が続いています。

ANYCOLOR株式会社

ANYCOLOR株式会社は、VTuber/バーチャルライバープロジェクト『にじさんじプロジェクト』を運営する企業。 『にじさんじプロジェクト』には、2020年9月現在、多種多様な約100名の所属ライバーが所属し、 YouTube などの動画配信プラットフォームで活動している。各種イベントへの出演やグッズ・デジタルコンテンツの販売、音楽制作などを行っている。また、『にじさんじプロジェクト』のバーチャルライバーに対してマネジメントを行っており、オーディションからデビュー、日々の配信活動などに関するさまざまなサポートを実施している。

代表者名田角陸
設立日2017年5月2日
住所東京都港区赤坂9丁目7番2号ミッドタウン・イースト11F

上場企業の動向:グロース構成銘柄の騰落率ランキング

最後に、2022年のグロース構成銘柄の騰落率ランキングを見ていきます。ボラティリティが大きい創薬ベンチャーやゲーム企業がランクインしました。コロナ禍の追い風を受けていたTHECOOが苦戦するなど、コロナ後の経済活動の正常化を探る動きがありそうです。

2022年上昇率Top3騰落率上昇要因
CANBAS+549%抗がん剤候補の順調な開発進捗
バンク・オブ・イノベーション+266%新作スマホゲーム「メメントモリ」のヒット
サンワカンパニー+228%在宅時間の増加に伴う住宅設備の改善需要を取り込む
2022年下落率Top3騰落率下落要因
プレミアアンチエイジング-84%化粧品の競争激化に伴う業績の下方修正
THECOO-82%ファンクラブの販促費用増加や製品ミックス悪化
ヘリオス-79%脳梗塞関連の再生医薬品の治験での評価目標未達

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新卒で資産運用会社のFirst Sentier Investorsに入社し、アナリストとしてアジア・日本の株式の分析を行う。その後、リクルートでプロダクトマネージャーを経験。2022年にケップル入社。現在はデータベース部門を管掌、および海外事業部門を兼務。スタートアップデータ拡充のための企画、分析に加え、KEPPLEメディアやKEPPLE DBへの独自コンテンツの企画、発信を行う。

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