中性子を出さない核融合で「永遠の20年」を打ち破る——LINEAイノベーションが目指す実用的な発電技術

中性子を出さない核融合で「永遠の20年」を打ち破る——LINEAイノベーションが目指す実用的な発電技術

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核融合炉の研究開発に取り組む株式会社LINEAイノベーションが、シリーズAラウンドにて17.5億円の資金調達を実施した。今回のラウンドには、ANRIなどVC7社と大林組、三菱電機の事業会社2社、個人投資家1名が参加している。

LINEAイノベーションは「FRCミラーハイブリッド」と呼ばれる独自方式による核融合研究を進めており、発電用途での実用化を目指している。従来の核融合研究とは異なり、軽水素とホウ素11を燃料とした「プロトンボロン反応」により、中性子を出さない核融合炉の開発に取り組んでいる点が特徴だ。

同社は日本大学理工学部の浅井教授、筑波大学の坂本教授、そして代表取締役CEOの野尻悠太氏の3名による共同創業。数年以内に核融合反応の実証を目指し、2030年代初頭には発電実証の実現を計画している。

今回は代表取締役CEOの野尻氏に話を伺った。

「永遠の20年」を打ち破る非熱的アプローチ

——事業について教えてください。

野尻氏: 私たちが目指しているのは、中性子を出さない先進的な核融合炉を開発するスタートアップです。

核融合は2つの原子核同士が衝突してくっつき、膨大なエネルギーを生む反応です。燃料1グラムあたりで石油8トンを燃焼させた時と等しいエネルギーが出ます。

世界の多くの研究機関が取り組んでいるのは、重水素と三重水素を使った「DT反応」と呼ばれる核融合です。しかし、この反応では中性子が出てきます。

水素の同位体である重水素(D)と三重水素(T)による核融合反応(D-T反応)
水素の同位体である重水素(D)と三重水素(T)による核融合反応(D-T反応)(画像は公式HPより)

中性子が核融合炉の壁に当たると、その金属材料がもろくなったり放射能を帯びる「放射化」という現象が起きるのです。もろくなった炉壁は数年に一回全部交換しなければならず、しかも放射性廃棄物として処理する必要があります。

また、三重水素は放射性物質のため取り扱いが難しいという問題もあります。果たしてこれが本当にコスト的にペイするのかという課題があります。

——どのような解決策を提案されているのでしょうか。

私たちが提案しているのは、軽水素(普通の水素)とホウ素11を使った「プロトンボロン反応」。

この反応は中性子が出ない、燃料が豊富、放射性物質を燃料として使わないといったメリットがあります。では、なぜ皆やらないのかというと、従来の核融合のアプローチでは起こすのが非常に難しいとされているからです。

従来のアプローチは、核融合の燃料を高温高密度のプラズマにして温度を上げていく「熱的核融合」です。プロトンボロン反応は、この熱的核融合では起こすのが困難とされています。

そこで私たちは、熱的ではない「非熱的」なアプローチで核融合をやろうとしているのが大きな差別化ポイントです。

中性子の課題を生じない「p-11B反応による先進燃料核融合発電」の実現に取り組む画像
中性子の課題を生じない「p-11B反応による先進燃料核融合発電」の実現に取り組む(画像は公式HPより)

日大と筑波大の技術融合で独自方式を確立

——技術的なポイントについて、実現可能性も含めて教えてください。

今回の資金調達の資金を使って数年以内に、まずは実際に反応を起こしてみせる「反応実証」まで行きたいと思っています。

私たちの技術的な基盤として、日本大学ではFRCという方式、筑波大学ではミラーという方式をそれぞれ研究してきました。FRC単体でもミラーだけでも核融合を起こすのは難しかったのですが、この2つの特徴をうまく組み合わせることで非熱的な核融合を起こそうというのが、私たちの新しいアプローチです。

開いた磁力線領域内に回転楕円体状のプラズマを形成 画像
開いた磁力線領域内に回転楕円体状のプラズマを形成(画像は公式HPより)

FRCの技術基盤とミラーの技術基盤はそれぞれすでに大学にあるものを利用していますから、スクラッチから研究開発するというわけではありません。それゆえに、この数年以内に実際に反応実証を起こすというところまで見据えています。

——このFRCミラーハイブリッド方式になったきっかけを教えてください。

FRCとミラーは、大きなくくりで見ると「開放端磁場系」という形式に分類されます。これは開いた磁場の中でプラズマを閉じ込めようという仕組みです。

同軸上に2つのコイルを並べて同じ方向に電流を流すと、コイルの近くで磁場が強く、コイルの間で磁場が弱い、下図のような磁場構造が形成される 画像
同軸上に2つのコイルを並べて同じ方向に電流を流すと、コイルの近くで磁場が強く、コイルの間で磁場が弱い、下図のような磁場構造が形成される(画像は公式HPより)

この反対に「閉じた磁場」でプラズマを閉じ込めようというのが、世界では主流の「トカマク」や「ヘリカル」という方式です。

FRCとミラーは比較的近い距離にあった2つの方式で、浅井と坂本が創業前に研究者として意見交換し、「FRCとミラーを組み合わせたら、この非熱的なアプローチができるんじゃないか」という着想に至りました。これは確かにうまくいきそうだから会社を創ろうということになったのが2023年の話です。

スタートアップスカウト

——他の核融合方式と比べて、実用化までの道のりはどのように違ってくるのでしょうか。

フェアに認めないといけないのは、今まで核融合研究の長い歴史の中で、そのほとんどがDT核融合を目指すための研究がされてきていることです。そのおかげで、DTについてはサイエンスとしてはかなり実績が蓄積されてきました。

今、南フランスで国際協力プロジェクトとして「ITER(イーター)」と呼ばれるトカマク型の核融合実験装置が建設中です。ああいうものが実現すれば、核融合を起こすというところまではおそらくいくでしょう。

ただ、その先のエンジニアリング段階に移ったときに、中性子の問題や三重水素という放射性物質の取り扱いなど、かなり道のりが長いんじゃないかと思っています。

一方で私たちのアプローチは、サイエンスという意味での実績はまだ弱いところです。今まで非熱的な核融合でプロトンボロンをやろうとしている人はほとんどいなかったので。「誰もやってないじゃないか、実績ないじゃないか」と言われているのが今です。

ただ、このFRCミラーハイブリッドによってしっかり反応実証ができれば、プロトンボロン反応がかなりいいところまで実績として積まれてきます。そうなると次のエンジニアリング段階では、中性子の問題もないし三重水素の問題もないので、そこは非常にスムーズに進むだろうと思っています。

——アメリカのTAE Technologiesなど、FRCに取り組む企業もあります。

まず前提として、IAEA(国際原子力機関)のデータベースで核融合実験装置を見ると、FRCの大型実験装置は世界で3つしかないんです。TAE、Helion、そして私たちの日大の3つです。そのうち一つを私たちが持っているという、実は非常にユニークなポジションにあります。

技術的には私たちはTAEと比較的似たようなところにいると思います。Helionはちょっと違うアプローチですね。二社ともかなり先行していて、パイオニアとして色々なFRCの道を切り開いています。

ただ、私たちとやや違うのは、HelionはどちらかというとFRCを使った熱的アプローチで核融合をやろうとしています。TAEはおそらく熱的ではないと思うのですが、私たちのようなFRCとミラーをハイブリッドさせるアプローチではなく、FRC単体で核融合を起こそうとしているので、そこに課題やチャレンジがあるんじゃないかと思っています。

私たちは後発ではありながらも、二社の研究状況を見極めながら、後からFRCミラーハイブリッドがいいんじゃないかということでこの方式を取っています。後発だからこそ一番ベストな方式を見極めて研究開発できるという意味では、有利なところもあると考えています。

金融からディープテックへの転身

——創業の経緯について教えてください。

私の前職は全く違って、プライベート・エクイティファンドのアドバンテージパートナーズの投資先でCEOをやっていました。その会社が上場したタイミングで次のキャリアを考えた時に、たまたま知人を介して「こういう二人の大学の研究者が今核融合で起業しようとしているが、経営者を探している」という話を持ってきてくれたんです。

それまでは、核融合って「永遠の20年」とか「永遠の30年」とか言われている実現が難しいテクノロジーなのかなと、漠然と思っていました。

ただ話を聞いて、現状やろうとしていることを理解して、FRCミラーハイブリッドという方式だったらそこを打破できる、実用化できる可能性があるんじゃないかと理解しました。

これが成し遂げられたら人類に対する貢献は計り知れない──そういった大きなテーマに、CEOという立場でチャレンジできるんだったら、本当に面白い機会だと思って参画を決めました。

——当時の想定にはなかったような困難はありましたか。

今回の資金調達において、幸い多くの投資家の方からご理解いただいてこれだけご出資いただいていますが、出資に至るプロセスでは、私たちの技術の特徴や優位性をしっかり理解してもらうことについては苦労しました。

皆さん核融合って聞くと「トカマクでしょ」「レーザーでしょ」「プラズマは高温にしないといけないんでしょ」と言われます。やっぱり「永遠の20年」という印象を持たれている方が多いんです。

そこで「いや、そうじゃなくて、こういう違うアプローチでやればプロトンボロン反応が起こせて、中性子が出なくて実用化までこんなに近いんですよ」ということをしっかり説明していく必要がありました。

FRCとミラーというベースとなる技術はありながらも、実証という意味でのサイエンスとしてはもう少し検証するステージが残っている中で、いかに投資家の方のご理解を得ながら資金調達を進めていくかというところについては、かなり苦労したポイントです。

2032年の発電実証に向けたロードマップ

——開発スケジュールについて教えてください。

今回調達した資金については、この先数年間の反応実証に使っていく資金になります。まずはこの数年間で実際に核融合反応を起こしてみせることが最優先の課題です。

その先、2027年頃から進めるのは「原型炉」の建設です。ここでやろうとしているのは反応ではなく発電。「反応実証ができました、その次はいよいよ発電です」というところをやるのがこの原型炉で、2032年に発電実証を目指しています。

——今後乗り越えたい技術的なハードルとは。

挙げるとしたら、一つは電力に変換するところです。私たちとしては「直接エネルギー変換」という手法を利用する予定なのですが、ここについてはより今後研究開発が必要になってくると思います。

あとは本当の商用化を見据えた時に、定常的に24時間365日稼働できるようなものにしていく必要があって、そういった定常化に向けた開発が必要になってきます。ただ、これはどちらかというとものづくりとして一段階レベルの高いものが必要になるという課題です。

私たちの核融合開発は課題が絞れているという点が大きいと思います。他の方式だと、中性子に耐える物質の開発、核融合炉を動かしながら三重水素を作る「ブランケット」の開発、めちゃくちゃすごい熱に耐える「ダイバータ」の開発など、実は色々と開発しなければならないものがあります。

それに比べると、私たちは「ここにだけ開発すれば実現できる」という、いくつかに絞られているという意味では優位性があると思っています。

幸いにも今回の出資を得て、実現に向けて大きな一歩を踏み出すことができました。今後も着実に歩みを進めてまいります。

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