新たなファンド組成の動き(追加投資専用ファンド・ベンチャーデット・セカンダリーファンド)

新たなファンド組成の動き(追加投資専用ファンド・ベンチャーデット・セカンダリーファンド)


スタートアップの資金調達額が大きく伸びた2021年は、スタートアップにとって「当たり年」となった。ケップルメディアによると、スタートアップの資金調達額は前年比27%増、調達件数は83%増となった(※1)。今年の6月に入って増加率が鈍化しているものの、2022年上半期も好調な勢いが続いている。

日本でスタートアップの資金調達が活発になる中で、これまでになかったファンド組成の動きがみられるようになってきた。今回は、近年登場した新たなタイプのファンドを3つ紹介したい。

追加投資専用ファンド

「追加投資専用ファンド」とは、ベンチャーキャピタルが既存投資先のスタートアップへ追加投資を行うファンドを指す。海外では、「オポチュニティ・ファンド」と呼ばれる(「セレクト・ファンド」や「グロース・ファンド」と呼ばれることもある)。追加投資専用ファンドは、以前投資したスタートアップに対して、主に「レイターステージ」において投資することを前提としている。このようなタイプの投資は、通常のアーリー期に投資するファンドでは資金が不足したり、通常のファンドとはリスク・リターンが異なるため、通常のファンドとは別に「追加投資専用ファンド」が設けられることが多い。

アメリカでは、既に「追加投資専用ファンド」は重要なものになっている。追加投資専用ファンド、SPV、シンジケートなどが含まれる「旗艦ファンドを除いたファンド」の2019年の設立数はファンド全体の32%であった。2015~2019年にかけて、「旗艦ファンドを除いたファンド」数に占める追加投資専用ファンドの比率は19%、「旗艦ファンドを除いたファンド」の運用額に占める追加投資専用ファンドの比率は55%であった(※2)。運用額における構成比率がファンド数の比率より大きくなるのは、追加投資専用ファンド一つあたりのサイズが大きいからである。直近では、Bain Capital Venturesが13億ドル、8VCが8.8億ドル、True Venturesが8.4億ドル、Lux Capitalが8億ドルの追加投資専用ファンドの立ち上げを行っていることが報じられた(※3)。

一方、日本で「追加投資専用ファンド」が一般的でない一つの理由としては、「レイターステージ」での大型案件の投資機会が少ないためと思われる。これは、国内市場に注力する会社が多い中でユニコーン(企業評価額10億ドル以上の未公開企業)が増えにくいことや大型調達を経ずにIPOを行う慣行があることが要因として考えられる。ただ、直近では、海外のベンチャーキャピタルやクロスオーバー投資家による日本のスタートアップへの大型投資が加速している。例えば、今年の3月以降に発表された案件には、jinjer(51億円調達)、AIメディカルサービス(80億円調達)、UPSIDER(150億円調達)などがある。そのため、「追加投資専用ファンド」にも大きなチャンスが生まれつつある。以下のような国内の主要ベンチャーキャピタルが「追加投資専用ファンド」の立ち上げを発表している。

企業名発表日ファンド名サイズ
インキュベイトファンド2021年9月グロース・ファンド161億円
グロービス・キャピタル・パートナーズ2020年4月5号Sファンド40億円
Coral Capital2020年4月Coral Growth27億円

ベンチャーデット

日本において、スタートアップによる資金調達といえば、株式(エクイティ)のイメージが強い。一方で、欧米では、スタートアップの資金調達の20~30%を負債(デット)が占めるといわれており、ベンチャーキャピタルの株式投資と銀行による融資の間を埋めるものとして、ベンチャーデットが主流になりつつある。それに伴い、Silicon Valley Bank、Columbia Lake Partners、Western Technology Investmentなどのベンチャーデットを展開する企業が多く存在する。

銀行融資の際には、負債の返済能力や収益の安定性が重視されるため、成長資金が必要なスタートアップの場合、審査に落ちてしまうことが多い。そのため、スタートアップの将来価値を適切に判断できるベンチャーキャピタルが担える役割は大きい。ベンチャーキャピタルは、銀行とは異なる審査基準を設けることでスタートアップへの融資を行える。スタートアップとしては、デットによる調達を行うことで、増資による株式の希薄化を防げたり、機動的な資金調達ができるようになる。一方で、ベンチャーデットの金利は3~15%程度と1~3%の銀行融資より高く、通常の融資を十分に受けられる成熟企業には向かない(※4)。

日本では、プレーヤーの数が少ないものの、直近ではSDFキャピタルなどによるファンドの組成があった。SDFキャピタル共同創業者の金坂 直哉氏(マネーフォワードシンカ株式会社代表取締役)は、弊社の取材に対して、「市場としてのポテンシャルがあるため、リスクマネーの供給者と知見を持った人材が増えれば、大きく伸びる市場と考えています」と市場の成長に期待を寄せている。欧米のように、国内スタートアップの1年の資金調達総額の20%がデットに置き換わった場合、1,000~2,000億円程度の市場になりうる。

企業名発表日ファンド名サイズ
SDFキャピタル2022年5月スタートアップ・デットファンド1号50億円(目標)
あおぞら企業投資2022年1月あおぞらHYBRID2号30億円

セカンダリーファンド

上場企業の場合、株式市場で発行済み株式の売買が活発に行われている。未公開株においても、流通市場(セカンダリー市場)で取引を行いたいというニーズが高まっている。セカンダリー市場を整備することで、3つの効果が期待される。一つ目は、投資家の出口拡大である。日本では、IPOとM&A以外の流動化手段が少ないことが投資家にとって悩ましい課題となっている。出口が増えることで、アーリー期の投資家の拡大につながる。二つ目は、次回調達ラウンドでの価格の適正化である。三つ目は、非上場期間の長期化である。日本では、新興市場へのIPOが比較的短期間で実現できることやシード期に参画した投資家の投資期限などの事情によって、スタートアップが十分な成長を遂げる前にIPOを選択せざるを得ないケースが多い。セカンダリー市場の整備によって、スタートアップのIPOまでの助走期間を延長させ、頻発する小規模なIPOやユニコーン企業の少なさといった課題の改善に寄与できる。

日本のセカンダリー市場には、主に相対取引、株主コミュニティ、セカンダリーファンドの3つがある。株主コミュニティは12億円程度、セカンダリーファンドは600億円程度(※5)とまだ小さい。「投資家保護の観点から、顧客に対して未上場株の投資勧誘を原則禁止」などのルールがセカンダリー取引拡大の阻害要因となっている可能性がある。一方、世界のPEとVCによるセカンダリー市場は1,000億ドルを超えている(※6)。また、アメリカでは未公開株の店頭取引市場が大きく、その規模は2,670億ドルにものぼる(※7)。アメリカの市場規模を考えると、日本のセカンダリー潜在市場のポテンシャルは大きい。仮に国内の直近5年資金調達対比でグローバル並みになった場合(資金調達の20-25%)、5,400億から6,750億円の市場になりうる。

セカンダリーファンドを運営する国内企業は限られるが、直近では、大型ファンドの組成も見られるようになった。当社ケップルもセカンダリーファンド(以下「Kepple Liquidity 1号」)を今年の6月に設立した。ファンドマネージャーの堂前 泰志は、このタイミングで設立した理由について、「ここ数年、スタートアップへの投資残高の増大が継続しており、裏を返すと潜在的な流動化ニーズが高まっているともいえます。直近にファンドの満期を控えるVCファンドも多く、またオープンイノベーションを目的とした事業会社の投資も膨らんでおり、IPO、M&Aとならぶ第三の出口を提供するタイミングとしては、まさに今しかない、と考えています。株式相場の減速により、IPOの延期やクロスオーバー投資の減少などにより、私たちにとっては投資の機会が増加するとみています」と話す。

ケップルのセカンダリーファンド運営メンバー。左から神先孝裕(代表取締役社長)、多田摩耶(アソシエイト)、堂前泰志(ファンドマネージャー)、長谷尾勲(ファンドマネージャー)

Kepple Liquidity 1号においては、案件のソーシングや選定に注力している。その中で、「ケップルが培ったVCおよび事業会社とのネットワーク、KEPPLE DBを用いたデータ分析」(堂前)を活用している。また、投資先企業への支援も強化していく。例えば、「IPO支援の最大手であるAGSコンサルティングさんとの連携により、投資先企業のIPOプロセスを加速させる取り組み」(堂前)を行う予定である。

企業名発表日ファンド名サイズ
ケップル2022年6月Kepple Liquidity 1号50億円(目標)
WM partners2021年10月JPEOF2021100億円(目標)
Ant Capital2021年8月ブリッジ6号B200億円

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