関連記事
細胞治療の限界に挑む——イノバセル、欧州での治験推進に向けシリーズDで約4億円調達

細胞治療・再生医療分野に取り組むイノバセル株式会社が、シリーズDラウンドでの資金調達を完了した。シリーズDラウンドにおける合計調達額は、73億円超となった。調達額は当初目標の35億円を大きく上回り、国内外の戦略的投資家や機関投資家、クロスオーバーファンドなど多様な投資家が参加した。
イノバセルは2021年設立のバイオテック企業であり、その前身は2000年にオーストリアのインスブルック医科大学からスピンアウトした細胞治療ベンチャーに遡る。独自の「再生医療・細胞治療グローバルアグリゲーションモデル」に基づき、世界各国の有望な細胞治療シーズの発掘から事業インフラの調達、パイプライン構築、商業化までを一貫して推進している。グループ内には、20年以上の製品開発・GMP製造実績を持つオーストリアInnovacell GmbHがあり、日本の厚生労働省による「特定細胞加工物製造認定」をアジア以外で初めて取得した実績もある。
同社の中核事業は、失禁(便失禁・尿失禁)領域を対象とした自家細胞治療製品の研究開発と事業化である。主力開発品ICEF15は、切迫性便失禁患者から採取した筋細胞を局所投与することで、筋肉組織の再生を促す治療法だ。ICEF15は欧州11カ国および日本で第III相国際共同治験(Fidelia試験)を進行中であり、欧州では後期第II相試験をすでに完了している。失禁以外にも、腹圧性尿失禁を対象としたパイプラインを展開しており、製造技術や多国籍の規制対応力を活かしてグローバル市場参入を目指している。
代表取締役Co-CEOを務めるノビック・コーリン氏とシーガー・ジェイソン氏は、ライフサイエンス、金融、コンサルティングなど幅広い分野での経験を持つ。両氏は2012年に薬事コンサルティング会社を共同設立し、再生医療分野での薬事や事業開発の実務に従事してきた。2021年からイノバセルの経営陣に加わり、国際的な事業展開を担っている。
再生医療分野は、2014年に日本で「再生医療等製品の安全性確保法」が施行されたことを契機に開発スピードが加速し、国際的にも政策支援が進んでいる。世界の再生医療市場は2024年時点で約196億米ドルに達し、2033年には約1484億米ドルに達すると予測され、市場の成長が見込まれている。便失禁や尿失禁は高齢化社会で患者数が増加しており、現状の治療法は薬物療法や手術が中心で根本的な解決策が限られている。イノバセルが取り組む自家細胞由来治療は、患者自身の細胞を利用することで異物反応や拒絶リスクを抑えられる点が医療現場で注目されている。一方、WHO欧州技術ブリーフは、高額な再生医療製品や医療インフラ整備コストが普及の障壁になると指摘している。
今回の資金調達には、アルフレッサやあすかイノベーション投資事業有限責任組合(あすか製薬CVC)、M&G Investments、ひふみクロスオーバーpro、UntroD野村クロスオーバーインパクトファンド投資事業有限責任組合、Arcus South East Asia、SBIインベストメント、Happiness Capital(香港)、Felicity Global Capital(シンガポール)などが参加した。加えて、J-Ships制度やFUNDINNO PLUS+経由での調達も実施された。M&G Investmentsはアンカー投資家としてJ-KISS型新株予約権による20億円の出資を行うなど、新たな資金調達手法の活用もみられた。
調達資金は、ICEF15の第III相日欧共同治験の推進、米国での治験準備、グローバル製造・販売体制の構築、パイプライン研究開発の強化に充当する計画だ。今回の調達により、同社は失禁治療における自家細胞治療薬の商業化と国際展開を加速させる構えである。
スタートアップの資金調達情報を漏れなくキャッチアップしたい方へ。
1週間分の資金調達情報を毎週お届けします。
※登録することでプライバシーポリシーに同意したものとします
※配信はいつでも停止できます