オリエンタルランド・イノベーションズが語る新規事業創出を目的としたCVC戦略──出資から出向、新規事業創出に向けた取り組み

オリエンタルランド・イノベーションズが語る新規事業創出を目的としたCVC戦略──出資から出向、新規事業創出に向けた取り組み

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※本記事は、株式会社ケップルが2025年10月28日に実施した「オープンイノベーション活動における新企業創出を目的とした戦略設計」に関するセミナーレポートになります。

近年、事業会社におけるCVC活動が活発化する中で、「何を目的とするか」が大きな課題として浮上しています。既存事業とのシナジー創出、財務リターン、新規事業開発など、様々な目的が語られる中、明確に「新規事業創出」を掲げて活動する企業は多くありません。

今回は、株式会社オリエンタルランド・イノベーションズの代表取締役社長である豊福 力也氏をお招きし、ケップルの江口がモデレーターを務めて開催したセミナーのレポートをお届けします。2020年に設立されたオリエンタルランド・イノベーションズは、投資資金枠30億円からスタートし、現在は130億円まで拡大。20社への投資(※2025年10月28日時点)と複数の出向者の輩出という実績を持っています。この成果を支える戦略設計と実践的なノウハウについて、理解を深めていただける内容となっていますので、ぜひご覧ください。

▼スピーカー紹介

豊福 力也氏 株式会社オリエンタルランド・イノベーションズ|代表取締役社長※

2004年にオリエンタルランドに新卒入社。人事部、株式会社スマイルズへの出向、グループ会社管理、経営戦略部などを経験。2020年に経営戦略部からスピンアウトする形でCVCを設立。投資に加えて人材出向という独自のアプローチで、オリエンタルランドグループの新規事業創出に取り組む。現在までに20社への投資と複数の出向者の輩出を実現。

※セミナー実施時点。2025年11月1日より株式会社オリエンタルランド経営戦略本部経営戦略部長に就任。

「新規事業創出」に特化したCVC戦略の全体像

ー オリエンタルランド・イノベーションズの設立背景と目的について教えてください。

豊福氏:ミッションとしては、オリエンタルランドグループの新規事業を作っていくということを目的に、このCVCを設立しています。通常ですと、既存事業とのシナジーや財務リターンを目指すCVCが多いかと思いますが、我々は明確に「新規事業創出」に特化しています。

具体的な目標は、この活動を通じて複数の事業が創出できている状態です。社内では年度別のKPIも設定して進捗を管理しています。

効果としては3点挙げています。一つは既存事業の課題解決による売上増や費用減、満足度向上といった既存事業への貢献。二つ目はESG観点での貢献。三つ目は投資先への出向などを通じた経営人材・事業人材の育成です。

ポイントは、目標と効果を分けたことです。全部を目標にすることもできましたが、そうすると何のためにやっているのかが将来トレースしにくくなるので、しっかりと目標はこういうもので、その結果として効果がこのように出るということを設計しました。

ミッション 画像

ー 「新規事業創出」という目的を明確に打ち出したのはなぜですか。

よくある話ですが、うまくいかないと目的が途中で変わってしまうことがあります。そうならないよう、「新規事業創出」という目的を明確に掲げました。

これは自分自身へのコミットメントでもあり、経営層への報告やメンバーとのコミュニケーションにおいても、常にこの目的に立ち返るための軸としています。

ー 他のCVC・VCと比較した際の特徴を教えてください。

特徴としては3つあります。

一つ目が、リアルなオペレーションとデジタルを掛け合わせたOMOという領域にフォーカスしていることです。オリエンタルランドグループは様々な事業を展開していますが、そのほとんどに共通するのはリアルなオペレーションです。特にホスピタリティを重視したオペレーション力をインストールすることで伸びる事業や、解決できる社会課題があるのではないかと考えています。

二つ目は、人材交流・出向です。オペレーションの構築は文章で伝えて伝わるものではないので、実際にグループの人材が投資先に入り、一緒に事業を作っていくというやり方をしています。出向者が投資先で働くことで、投資先の実態や我々が貢献できる領域を深く理解できるという利点もあります。

三つ目は追加出資です。出向等を通じ、両者の観点から良好な連携体制が確認できた場合は追加出資の実行により持分を増やしていきます。その結果、最終的には持分法適用やJV、グループインといった選択肢も視野に入れています。こうした段階的なアプローチで、新規事業を確実に育てていくのが戦略です。

活動の特徴 画像

多くのCVCのように既存事業とのシナジーを目的とした場合、一度出資をした後に、連携が上手くいった場合でもそうでない場合でも、追加出資を行う理由が見つかりにくいという話もあります。そういった意味では追加出資が一つの特徴になっているかなと思います。

また、VCと比較した際には、我々はアセットヘビーで労働集約型のビジネスに価値を発揮できると考えています。人材を出していくというのもVCにはない特徴ですね。

マイノリティ投資から始める段階的アプローチ

ー 戦略の全体像について、詳しく教えてください。

この戦略フレームワークを作ったのは2020年にCVCを設立した直後です。まず目的としては、新規事業を作っていくということを会社として明確にしたかった。また、オリエンタルランドグループはテーマパークが強い事業体なので、それとは違う形で作っていきたいと考えました。

ベンチャー出資にあたっての仮説構築の観点は二つあります。一つは新規事業の創出という観点で、どういう事業が我々のグループと合うかという仮説。もう一つは既存事業の課題の解決という観点で、オリエンタルランドグループにその事業がどのように寄与するかという仮説です。

その仮説を通じてベンチャーに出資し、出向という手段を通じて自社のオペレーション力とコラボレーションしていく。それがその会社の解決しようとしている社会課題や実現したいことをサポートできるか確かめていきます。

うまくいけば、お互いが望む場合には大型投資を実行し、持分法適用やグループイン、JVを設立する等で、新規事業の創出につなげていきます。

一方で、仮説が成り立たない場合は、仮説の再構築を行い、それでも成立しない場合は売却していきます。協業観点の出資に関しては、IPOなどをした場合には売却してエグジットしていきます。その結果のキャッシュをまた次の活動に回していくという形です。

戦略―新規事業創出 画像

ー なぜマイノリティ投資というステップを挟むのでしょうか。M&Aという選択肢もあると思いますが

もちろんM&Aも過去に検討したことはあります。ただ、弊社グループの中でうまくいった事例がそれほど多くないという経験もあります。まずはうまくいっている企業にしっかり出資していくという方が馴染みやすいと考えました。

十分な検証なしに大型投資をするのではなく、まずはマイノリティ投資で始めて、実際に協業しながら見極める。CVCとしてポートフォリオで財務リターンもある程度ヘッジできるこの方法が、会社としてもリスク管理上適切だと判断しました。

知見獲得や仮説構築においても、机上で考えるだけではなく、LP出資や実際の投資を通じて、意外とこういうところもあるかもという仮説の発見も出てきます。

ー 現在20社に出資されているとのことですが、次のステップに進む判断基準はありますか。

20社の中でも協業視点で出資しているものもありますし、我々のオペレーションがインストールできるかどうか、合う合わないもあります。また、PMF前の段階で出資しているものもあるので、全部がこの流れというわけではありません。

どういう視点で見るかというと、まず弊社グループのオペレーションがきちんと貢献できるかどうかを見ています。その上でうまくいきそうだとなれば、早期に出向者を輩出するパターンもありますし、グループ会社と連携しながら会議に参加させてもらうことからスタートし、後に出向につながるパターンもあります。

その会社の事業がPMFして横展開していく、10から100というフェーズに移ってきたときに、出向者によるオペレーションのサポートがうまくいっているかどうかを見極められればと考えています。それには大体2年から3年という時間がかかっています。

出向という手段で実現する深い事業連携

ー 株式会社コノセルとの具体的な連携事例と追加出資について教えてください。

コノセルは学習アプリとリアルな教室を掛け合わせた個別指導塾を運営している会社です。社長の田辺さんは、もともとQuipperに入社し、リクルートにグループインした後、スタディサプリの事業責任者を務めていました。

その経験から、B2Bだけでは生徒の課題解決まで繋がりにくく、アプリだけでも、リアルだけでも不十分だと気づき、両者を掛け合わせたOMO型の塾を立ち上げました。

通常の個別指導塾では講師1人が生徒2人を教える1対2の形式が多いですが、コノセルでは反復学習をデジタル教材に置き換えることで、講師1人が6〜8人の生徒を同時に見られる効率的な運営を実現しています。講師は学習をデジタルに任せた分、生徒とのコミュニケーションに専念できます。生徒たちが教室に集まることでコミュニティが形成され、互いに励まし合いながら学習する環境が生まれています。

教室の標準化や人材育成は、我々の強みが活きる領域です。そこで2021年10月、教室拡大期に教室長として1人目の出向者を輩出しました。この出向者は着実に成長し、現在はディビジョンヘッドとして全教室の品質責任を担うまでに昇進しています。コノセルは現在110教室を超える規模に成長しており、弊社グループから4人が出向中です。

コノ塾画像

こうした伴走支援を通じて、しっかりとした関係が築けると判断できたこと、事業自体が明らかにPMFして成長軌道に乗ったこと、そして10から100へ拡大していくタイミングで弊社グループのオペレーションが活きると考えたことから、コノセルに大型の追加出資を単独で実施しました。

ー オペレーションが教育の現場で活きるというのは、どういう部分でしょうか。

オリエンタルランドグループには、人との触れ合いを大切にし、相手を思いやり、誠実にやり切る人材が集まっています。こうした人材は、人との接点が多く、きめ細かい対応が成功の鍵となる事業で力を発揮します。我々の既存事業と同様に、コノセルにおける教室運営もそうしたオペレーションの活きる領域の一つです。

ー 出向を通じた事業連携について、うまくいくポイントを教えてください。

出向者はグループ会社も含めて公募で募集しています。現在株式会社イーデヤンスという客室清掃におけるDX事業を展開する企業にも2名の出向者を輩出しており、累計では8名が出向しています。

出向を通じた事業連携について、まず重要なのは、先方の期待値と我々が提供できる価値がマッチしているかどうかです。オペレーションといっても要素は多岐にわたるので、相手が求めているものは何か、足りないところは何かをしっかりと明確にしたうえで、できることを伝えて期待値を揃えていくことが重要です。

次に、出向のタイミングも重要なポイントです。PMF後、つまり一つの型を横展開していくタイミングが最適です。コノセルの場合は2教室から6教室、6教室から30教室へと拡大していくタイミングでした。

また、手を挙げて「やりたい」と言った人材が出向したとしても、必ずしも自走できるわけではありません。出向先の経営者がどういう期待をしているのか、出向者が出向先でどういうコミュニケーションをしているのかを、継続的に確認していくことが不可欠です。

特に、出向先の経営者が育成意識を持って出向者に関わってくださっている場合が一番成功しています。コノセルはまさに良い事例ですね。

投資資金枠30億から130億への拡大を実現したコミュニケーション

ー 経営層への報告体制について教えてください。

まず組織体制ですが、オリエンタルランド・イノベーションズの役員は、オリエンタルランド本体の社長、担当役員1名と監査役、そして私の4名で構成されています※。子会社化を伴わない1案件5億円以内の出資であれば、当社の取締役会で決議できる権限を持っています。

親会社への報告は、半年に1回、経営会議で行っています。報告前には各役員への事前説明を実施することもありますし、既存事業との協業案件が発生した際にも、進捗を共有しています。こうしたフォーマル・インフォーマルなコミュニケーションを5年間継続してきました。

報告内容としては、KPIの進捗に加えて、どういう領域に投資しているか、その領域や切り口についてどう考えるかといったことを役員向けにプレゼンすることもあります。時には投資先企業の経営者に来ていただき、直接プレゼンしてもらうこともあります。

こうした取り組みを通じて、ベンチャーや新規事業への理解を深めていただけるようなコミュニケーションを心がけています。

※役員体制はセミナー実施時点

ー 30億円から130億円への投資資金枠拡大はどのような経緯で実現したのでしょうか。

直接的なきっかけは、コノセルへの大型追加出資でした。コノセルに出資する段階で30億円の枠をオーバーすることが明らかだったため、投資資金枠の拡大が必要になりました。

これまでの5年間で積み上げてきた実績が認められ、投資資金枠の拡大が実現したのですが、まず効果面では、出向者の成長と既存事業との協業で確実な成果が出ていました。出向者が投資先で着実に成長していますし、既存事業に対しても、出資の有無に関わらず多くのベンチャーとの協業が成立しています。オリエンタルランドグループの中でベンチャーと既存事業をつなぐハブ的な役割を果たしてきたという実績があります。

そして目標面では、コノセルとの協業を通じて「我々のオペレーション力は出資先の事業成長に貢献できる」という仮説の実証ができました。

こうした効果と目標の両面での実績について、役員や社外役員も含めて個別に説明をさせていただき非常にポジティブな反応を示していただきました。

自分たちだけで新規事業に取り組むのではなく、外部の企業と組むことで強みが活き、ポートフォリオを組みながらリスクヘッジもできるというこの仕組みがリスク許容の観点でも適しており、成果につながったのだと思います。その結果、100億円を追加して130億円の投資資金枠が承認されました。

ー 5年間で社内での見られ方や理解は変わりましたか。 

設立当初はCVCという概念すら知られていない状態でしたが、5年間で着実に理解が広がってきていると感じています。 社内報での発信や、役員層・管理職層向けの講演会を継続的に実施してきました。

先日、ベンチャーキャピタルを招いて社内向けの講演会を開催したところ、手上げ形式にも関わらず約300人が参加しました。CVCや新規事業創出に興味を持つ層が、確実に社内に増えてきていますね。

オープンイノベーションを自社にどう活かすか

オープンイノベーションの実践は、明確な目的設定と、それを実現するための地道な活動の積み重ねによって初めて成果へとつながっていきます。オリエンタルランド・イノベーションズの取り組みからも、「新規事業創出」という目的を明確にし、マイノリティ投資から出向、追加出資へと段階的に深めていくアプローチの有効性が浮き彫りになりました。

特に注目すべきは、自社の強み(オペレーション力)を明確に定義し、それが活きる領域に特化していること、そして出向という手段を通じて深い事業連携を実現していることです。また、経営層への丁寧なコミュニケーションと、効果を可視化する取り組みが、投資資金枠の拡大を可能にしています。

豊福氏が最後に語った「それぞれの会社の企業文化を含めたOSがあって、その上にいろんなやり方のアプリケーションがある。それぞれの会社のOSを踏まえながら、どのアプリケーションが一番ワークするのかは試行錯誤を重ねることしかない」という言葉は、オープンイノベーションに取り組むすべての企業にとって示唆に富むものです。

自社でオープンイノベーションを推進する際も、こうした成功事例から学びつつ、自社ならではの仕組みづくりを模索していくことが求められます。

ケップルは、これまで数多くの事業会社のオープンイノベーションやスタートアップ投資を支援してきた経験とノウハウを活かし、戦略設計から実行まで一貫してサポートいたします。オープンイノベーションは、正しいアプローチで取り組めば必ず成果につながります。少しでもオープンイノベーション推進にご関心をお持ちの方は、ぜひお問い合わせください。

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