DX遅れる巨大市場に挑む──プレイドグループのRightTouchが外部資金調達に踏み切った背景

DX遅れる巨大市場に挑む──プレイドグループのRightTouchが外部資金調達に踏み切った背景

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プレイドからのカーブアウトで設立され、カスタマーサポート領域に特化したSaaS「RightSupport」などを提供する株式会社RightTouchが、グループ内資本だけでなく、あえて外部からの資金調達に踏み切った。

今回、RightTouchはシリーズAで総額8億円の資金調達を実施したことを明らかにした。今回のラウンドでの引受先は、グローバル・ブレインとGMO VenturePartners。8億円のうち、2億円は商工組合中央金庫から借り入れた。

RightTouchは、コンタクトセンターの業務効率化に加え、蓄積されたデータやナレッジの活用による能動的な顧客対応支援を掲げ、5つのプロダクトを展開。エンタープライズ中心に100社が導入する。クロスセル・アップセルも好調で、NRRは150%となっている。

共同で代表取締役を務める野村 修平氏と長崎 大都氏に、プロダクトの開発背景や資金調達の目的、今後の展開について詳しく話を伺った。

「コンタクトセンターはコストセンター」の認識を変える

――カスタマーサポート市場に注目した理由は。

長崎氏:カスタマーサポートはさまざまなジャンルの商品・サービスを提供する会社に共通する機能だけに市場規模が大きく、コンタクトセンターの人員とシステムの市場を合算すると3.1兆円。プレイドのドメインであるデジタルマーケティング市場の10倍です。従事者も60万人に上り、タクシードライバーの2.5倍に当たります。

一般にコンタクトセンターは「コストセンター」という認識が根強いのに加え、社外にアウトソースされるケースが多いこともあり、DXが進みにくい状況にありました。その結果、現場は「サービスにログインができない」など、本来人が対応しなくてもよい定型の問い合わせ対応に忙殺され、ユーザーからは「コンタクトセンターに電話をかけてもなかなかつながらない」印象を持たれがちです。

従来顧客が抱えていた課題のイメージ図
FAQやチャットボットの設置だけでは顧客課題は解決しないことがほとんど(画像:RightSupport by KARTE製品ページより)

ただ、サービスの使い方が分からない人のうち、実際に問い合わせる人は4%に過ぎないと言われます。現状、定型的な問い合わせ対応にリソースの大半を費やしているコンタクトセンターに最新のテクノロジーを導入し、問い合わせの原因にまでさかのぼった対応ができる状態をつくれれば、96%のサイレントカスタマーの体験も変えられる可能性があるのです。

顧客の声が大量に蓄積されているコンタクトセンターは本来、サービス向上に大きく貢献できるポテンシャルを秘めた部門です。私たちはコンタクトセンターを「企業と顧客のよい関係づくりを担う最前線」ととらえ、各社の商品・サービスの価値をより確実にユーザーに届けていくためのプロダクト展開を進めています。

――各プロダクトをご紹介ください。

長崎氏:最初にローンチしたRightSupportは、ユーザーの問い合わせ前、サービスサイト操作中のつまずきに着目したサービスです。頻発している困りごとをオペレーター自ら分析し、必要なポップアップ画面などを設定できます。続いて投入したRightConnectは、各ユーザーのWeb操作履歴をコンタクトセンターに共有し、シームレスな対応を可能にします。

生成AIの活用にも注力しており、昨年秋には独自の生成AI基盤RightIntelligenceを発表。音声認識ボットを活用したRightVoicebotや、音声データを自動で加工し、傾向分析とCX向上施策への活用まで行えるRightVoCも投入しました。

RightVoCのイメージ画像
顧客からの問い合わせデータから課題を抽出して改善提案するRightVoCを昨年末に提供開始した
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パーソナルAIと各企業をつなぎ、次世代のCSを支えていく

――プレイドからのカーブアウトの経緯は。

野村氏:プレイドのCXプラットフォーム「KARTE」が一部のユーザーにカスタマーサポート目的で活用されていたことがヒントになり、この領域の業務課題を学び始めました。知れば知るほどビジネス領域としてのポテンシャルを感じると同時に、デジタルマーケティングとカスタマーサポートのベクトルの違いも見えてきました。サービスサイトが起点になる点は共通しているものの、向き合う課題は大きく異なっており、提供するサービスも別個に考えざるを得ないと気づいたのです。RightSupportの実証まではプレイド社内で行った後、別会社化してスピーディーな成長を目指す道を取りました。

RightSupportはポンチ絵しかない段階から興味を持ってくださった会社にお見せし、現場のペインの大きい課題を絞り込んだうえで開発を進めました。ローンチの際にはすでに5社の導入が決まっており、「売ってからつくる」スタイルがうまくはまったと感じています。

――今回の資金調達の目的は。

長崎氏:当社の場合、顧客層はエンタープライズが中心です。そのため、SMB向けサービスのようにパイの獲得のために大規模な広告費を投入することは考えていません。今回グループ外からの資金調達に踏み切ったのは、主に定性的な理由からです。

100%子会社の形だと、社外からは小さくまとまりそうな印象を持たれやすい面があります。今後も継続的に強い人材を獲得していくためには、プレイドのグループ会社でありつつ、独立したスタートアップとしてのポジションを確立することが大切だと考えました。従業員数は2024年9月末時点の38名から、1年で約2倍にする計画です。

ベンチャーキャピタリストの方々からご意見を頂き、自分たちの視座を高めるとともに、経営に健全な圧力をかけたい思いもあります。VCの皆さんとの議論を通じて「思考の道が開けた」というプレイド代表の倉橋も、私たちの判断を後押ししてくれました。上場についても、3~4年以内での実現を目指しています。

――今後も外部からの調達は想定していますか。

長崎氏:はい。いずれはM&Aなども検討したく、プレイドの事業環境に関わらずタイムリーな選択ができるよう、資金調達のルートは複数持っておきたいと考えています。デットで調達する場合にも、100%子会社ではない方が動きが取りやすい面もあります。

また、今回は純投資のVCから調達しましたが、事業提携が大事な領域でもあり、次回は事業会社からの調達も視野に入れています。

――今後の事業展開は。

長崎氏:現状、CRM領域には多くのサービスがありますが、企業と顧客の関係を強化していくうえで、CRM単体でできることには限界があります。私たちは今後もコンパウンド戦略のもとでプロダクトを増やし、「CRMサービスと当社のサービス群があれば、顧客との関係性構築のツールはすべてそろう」状態を目指します。

事業拡大のイメージ

既存プロダクトの掛け合わせで新プロダクトを開発していくほか、AI活用にも注力します。今、顧客一人ひとりの情報を踏まえてコミュニケートするパーソナルAIの開発が、ビッグテックによって進められています。これを前提に、各企業のニーズに合わせ、パーソナルAIで活用したい情報を引っ張ってくる環境づくりは、当社のプロダクトが担う未来を描いています。

野村氏:カスタマーサポート領域でのAI活用はまだこれからですが、新技術は波及しだすと速いものです。コンタクトセンターの人手不足も厳しくなっている今は、長年電話対応中心で回ってきたコンタクトセンターのあり方を大きく変えるチャンスでもあります。

当社の実現したい世界に向けてまだ1%も来ていない感覚で、これからが冒険の正念場です。一緒にエキサイティングな体験をしたい方々を仲間に迎え、さらに強いチームで戦っていきたいと思います。

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