UPWARD、約11.7億円を調達──フィールドセールス向けAI営業支援で400社導入

UPWARD、約11.7億円を調達──フィールドセールス向けAI営業支援で400社導入

xfacebooklinkedInnoteline

UPWARD株式会社は、フィールドセールス(外回り営業)に特化したAI営業支援サービス「UPWARD」を提供するスタートアップだ。独自の位置情報技術による顧客接点の自動記録や、外回り営業に特化した各種AI機能を通じて、顧客との対面接点を主要な営業チャネルとする企業を中心に400社以上で導入されている。

同社は7月1日、RJバリューPlus 1号投資事業有限責任組合、NVCC10号投資事業有限責任組合、およびSalesforce Venturesより、最新ラウンド(非公開)の1stクローズとして約11.7億円の資金調達実施を発表。本調達により、フィールドセールス向けAI機能の開発と特定インダストリーに最適化したソリューションパッケージ開発を加速していく。

代表取締役CEO金木竜介氏に、事業の現状と今後の戦略について話を聞いた。

位置情報とAIで営業活動を自動記録

――御社の取り組む事業について教えてください。

金木氏:外回り営業の方々向けの営業支援サービス「UPWARD」を展開しています。最大の特徴は、営業担当者がお客様を訪問した際に、位置情報とAI技術を使って訪問記録を自動で作成することです。従来は営業担当者が手作業で入力していた「いつ、どこで、誰に会ったか」といった活動記録を、システムが自動で蓄積してくれます。

具体的な仕組みを説明すると、営業担当者がスマートフォンを持って顧客のもとを訪問すると、弊社独自の高度なジオフェンシング技術により、その場所への到着と滞在を自動で検知します。そして「お客様のところに行かれましたね。訪問記録を作成しますか?」といった形で、システムが自然にサポートしてくれるのです。

外回り営業に特化した顧客データの蓄積‧活⽤を効率化するソリューションを展開 図
外回り営業に特化した顧客データの蓄積‧活⽤を効率化するソリューションを展開

技術面では、位置情報に特化した弊社の技術をCRM(顧客管理システム)と組み合わせることで実現しています。大手企業のお客様だと顧客データが何百万件、何千万件とあるケースも珍しくありませんが、これらの膨大な住所情報を瞬時に地図上に表示できます。しかも単純に表示するだけでなく、売上規模の大小、最近訪問していない顧客、重要度の高い顧客といった属性を色やシンボルで視覚的に色分けして表示する機能があります。

さらに、営業担当者は自分の担当エリアや担当顧客だけをフィルタリングして表示したり、今日回る予定の顧客を効率的なルートで並べ替えたりといった設定を、リアルタイムで柔軟に変更できます。例えば「今日10件回るとしたら、どの順番で回れば最も効率的か」といった最適なルート提案まで行ってくれるのが特徴です。

加えて、営業担当者の異動や転勤が多い企業にとって特に価値が高いのが、引き継ぎ機能です。従来は営業担当者が変わる際に、エクセルで引き継ぎ資料を作成するなど多大な時間と労力がかかっていました。しかしUPWARDを使っていれば、新任者がログインするだけで、前任者がいつ、どの顧客を訪問し、どのような活動をしていたかが一目で把握できます。まさに「ゲームの続きを始める」ような感覚で、スムーズに業務を引き継げるのです。

――導入企業の特徴と継続率はいかがでしょうか。

特定の業界に絞らず幅広く展開していますが、適している業態には共通点があります。それは「商品自体での差別化が難しく、競合他社がひしめく成熟市場」であることです。そうした市場では、商品の機能や価格よりも、営業担当者がいかに定期的にお客様のもとを訪問し、きめ細かいサービスを提供できるかが勝負の分かれ目になります。

CRM‧SFAの活⽤課題をDXの⼒で解消し、お客様⾃⾝とその顧客、さらに⾒込み顧客との効果的な関係構築を⽀援 図
CRM‧SFAの活⽤課題をDXの⼒で解消し、お客様⾃⾝とその顧客、さらに⾒込み顧客との効果的な関係構築を⽀援

導入企業の規模は幅広く、導入社数では600名未満の中小企業が約7割を占めます。25名程度の少人数で導入されているお客様もいらっしゃり、従来は大企業でしか使えなかった高機能システムを、SaaSの仕組みにより手頃な価格で提供できているんです。一方で売上面では、600名以上の大企業のお客様が約7割を占めているという構造になっています。

継続率は99%と非常に高い水準です。これは従来の複雑な営業システムとは異なり、直感的な地図表示や自動データ登録により、ユーザーが「システムを操作している」という負担を感じにくいことが要因だと考えています。

スタートアップスカウト

第2創業から事業を再構築

――創業の経緯を教えてください。

実は私はこの会社の創業者ではなく、第2創業者という立場です。もともとこの会社は、オープンソース技術を使って位置情報のオーダーメイドシステムを開発する受託開発会社でした。2015年頃に「これからはクラウドの時代だ。受託開発ではなく、SaaSとして販売していくモデルに転換すべきだ」と考え、事業の大きな方向転換を決断しました。

ところが、当時の資金調達環境は今とは全く違いました。ほとんどのVCがB2BのSaaSに投資しておらず、さらに弊社も十分な成長を示せていなかったため、資金が枯渇し、倒産の危機に直面しました。

そこでターンアラウンド(事業再生)に着手し、2016年にサービス名を「UPWARD」に変更。事業領域をフィールドワーカー向けのモバイルサービスに集中する戦略を取ったのです。最初の2年間は非常に苦しく、既存顧客向けのサービス提供と新しいプロダクト開発を並行して進める必要がありました。調達したデットファイナンス(借入)約1億円を活用しながら、ようやく2018年頃から徐々にトラクションが出始めました。

――2018年頃から成長が加速していますね。

実は現在のUPWARDの基本コンセプト「モバイルアプリを使ってフィールドワーカーの活動を自動管理する」というアイデア自体は、2016年時点で既に持っていました。しかし当時は、スマートフォンのビジネス利用がまだ一般的ではありませんでした。多くの企業では営業担当者にAndroid系タブレットや安価なスマートフォンを配布している程度で、会社支給のiPhoneを持つ営業担当者は非常に少数だったのです。

2016年頃から徐々に企業でビジネス用にスマートフォンの普及が始まりました。2018年頃には大手企業で導入が本格化し、弊社のサービスもこの波に乗って急成長を遂げることができました。そして現在は生成AIブームによって、さらなる成長を実現している状況です。

IPO前のラストファイナンスとして調達

――今回の調達についてお聞かせください。

今回のラウンドでは15億円集めるという目標で、11.7億円はファーストクローズとなりました。セカンドクローズが9月終わりぐらいの予定で、IPO前のラストファイナンスという位置づけで大きく調達しています。

従来までのIPO基準が変わったため、単純にARR 60億円ぐらいはないと、しかも成長率が40~50%ぐらいはないと厳しい状況となっています。まずは足元の数字を積み上げて非連続の成長を実現し、新規事業を立ち上げて軌道に乗せる準備をしてマーケットに入っていくのが最適だと考えています。

調達資金の大きな使途の一つが、フィールドセールス向けAI機能の開発加速です。今提供している機能を全てAI化しており、ちょうど秋リリース予定のベータ版では、オフラインの会話を録音して生成AIでサマライズする機能があります。さらに位置情報と連動して「こういうミーティングが始まるタイミングで録音しますか?」と問いかけてくれる機能も搭載予定です。

また、画像認識機能も充実させています。外の建築予定の看板などをカメラで撮ると、すぐに全部データベースに取り込める機能が実装されています。フィールドセールスが目にする情報で収集が必要なものを撮影すれば、画像をテキスト化してデータベースに自動で登録する機能もAIにより実現済みです。

今後は電話の録音とサマライズまで含めて、入力作業が不要になり、営業報告や直行直帰でもアプリがあるだけで業務を完結できる状況を目指していく方針です。

――特定インダストリー向けのソリューションパッケージ開発も挙げられています。

現在のUPWARDで培った位置情報技術を活用して、BCP(事業継続計画)分野への展開を企画しています。具体的には、災害や緊急事態が発生した際の社員安否確認、お客様の安否確認、サプライチェーンの状況把握といった業務を、位置情報・地理情報を使って自動化・効率化するサービスです。

イメージ
UPWARDは災害時の被災地⽀援において、システムの無償提供を⾏い地⽅創⽣に取り組んでいる

日本は地震や台風などの自然災害が多く、近年は地政学的リスクも高まっています。企業にとって事業継続のための備えは必須ですが、現在の安否確認サービスの多くは専用システムへの個別ログインが必要で、緊急時には使いにくいという課題があります。

そこで私たちが提案するのは、普段使っているSlackやTeamsといったコミュニケーションツールから直接アクセスできるBCPシステムです。緊急時のマニュアル検索や状況把握も、生成AIを活用することで直感的に行えるようにします。位置情報技術と生成AIを組み合わせることで、真に使いやすいBCPソリューションを提供できると考えています。

海外展開と300億円以上の企業価値を目指す

――今後の成長戦略と将来のビジョンについて教えてください。

まず海外展開についてですが、既存のUPWARD事業でも今年7月からタイに拠点を置いて東南アジア展開を開始しています。現地の日系企業を中心にお客様も増えてきており、まずはタイのバンコクを起点に東南アジア全体に展開していく計画です。UPWARDは日本特有の業務ロジックに依存しない設計になっているため、世界中どこでも利用できるサービスなんです。

数値目標としては、3年後に事業全体の約1割を海外売上にしたいと考えています。また、既存のUPWARD事業と新規のBCP事業の売上比率も1対2程度のバランスの取れた構造を目指しているところです。IPO時の時価総額については、現在の市場環境では150~200億円が最低ラインとされていますが、私たちとしては3年後に300億円の企業価値を達成したいと思っています。

――長期的にはどのような社会の実現を目指していますか。

最終的には、フィールドセールス分野のデファクトスタンダードとなって、日本の労働力不足解決に貢献したいと考えています。現在の日本の状況を見ると、企業が外回り営業を全て自社社員として雇用し続けるのは困難になってきており、今後はプロフェッショナルなフリーランス営業人材が増加すると予想されます。

そこで私たちが描くのは、フリーランスの営業担当者がUPWARDを使って複数の企業と契約し、一つの地域内で様々な商品・サービスを効率的に販売していく未来です。例えば午前中はA社の商品を、午後はB社のサービスを販売し、それぞれの活動記録や顧客情報が各企業と自動で共有される仕組みですね。

これにより、企業側は人材不足を解決でき、フリーランス側は複数の収入源を確保できます。スキマ時間で働くワーカーも、UPWARDがあれば簡単に営業活動の記録ができ、労働者の流動性向上にもつながるでしょう。

オンライン商取引では商品・サービスの差別化が困難になっていますが、オフラインの対面営業では人間による差別化が重要な役割を果たします。AIロボットは多くの業務を自動化できますが、顧客との信頼関係構築や複雑な課題解決といった「人間ができることのラストワンマイル」の部分では、まだ人間に優位性があると考えています。ここが最後の砦であり、だからこそフィールドセールス分野には大きな可能性があるんです。

掲載企業

Startup Spotlight

スタートアップスカウト

Supported by

スタートアップスカウト

「スタートアップスカウト」は、ストックオプション付与を想定したハイクラス人材特化の転職支援サービスです。スタートアップ業界に精通した当社エージェントのほか、ストックオプションに詳しい公認会計士やアナリストが伴走します。

サービスページ:https://startup-scout.kepple.co.jp

Share

xfacebooklinkedInnoteline

新着記事

STARTUP NEWSLETTER

スタートアップの資金調達情報を漏れなくキャッチアップしたい方へ1週間分の資金調達情報を毎週お届けします

※登録することでプライバシーポリシーに同意したものとします

※配信はいつでも停止できます

ケップルグループの事業