国産宇宙用イメージセンサのSUiCTEが総額1.4億円調達、衛星コンステレーション参入狙う

国産宇宙用イメージセンサのSUiCTEが総額1.4億円調達、衛星コンステレーション参入狙う

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SUiCTE株式会社は、宇宙衛星向け半導体イメージセンサの開発を手がけるスタートアップだ。2024年8月に設立されたばかりの同社は、静岡大学発の研究成果と18年にわたるイメージセンサ開発の経験を強みとする。同社はクオンタムリープベンチャーズおよびインキュベイトファンドを引受先とするシードラウンドで1億円を調達した。併せて、浜松市ファンドサポート事業への採択を通じて4000万円の交付を受けたことを発表した。

代表取締役社長の赤堀知行氏に、創業背景や技術的な強み、今後の展望について聞いた。

衛星の “目”の国産化へ──日本の宇宙開発のボトルネックを解消する

──御社の取り組む事業についてお聞かせください。

私たちは宇宙衛星向けの半導体イメージセンサとカメラモジュールを開発しています。イメージセンサは光を電気信号に変換して送信する半導体素子で、カメラやスマートフォン、医療機器、宇宙観測機器などさまざまな機器の「目」にあたる部分です。

半導体のなかでも、イメージセンサは少し特殊な存在です。光を受け止める画素部、信号を電気信号へ変換するアナログ回路、そしてデジタル処理・送信を担うデジタル回路──大きく3種類の技術を組み合わせた複雑な構造を持ち、設計・製造の難易度は高い領域だと言われています。

一方で、このイメージセンサに関しては、世界で日本が唯一、優位性を確立している半導体ビジネスでもあります。その背景にあるのが、ソニーセミコンダクタソリューションズが世界のトップサプライヤーとして、長年にわたり技術と供給体制を磨き上げてきた事実です。

しかし、宇宙用途に目を向けると状況は大きく異なります。現在、宇宙用イメージセンサは海外製品への依存度が非常に高く、価格は1個あたり億の単位に達するケースも少なくありません。加えて、調達には1年以上を要することが多く、長いリードタイムに加え「求めたスペック通りの製品が届かない」といった不確実性が、現場の課題として顕在化しています。

こうした状況に対し、私たちは静岡大学で培ってきたイメージセンサ技術、つまり超高感度・高速・高解像度・耐放射線性といった強みを核に、国産の宇宙用イメージセンサおよびモジュールを提供していきます。必要な性能を、必要なタイミングで、確かな品質で届ける。日本の宇宙開発のサプライチェーンにおけるボトルネックを解消し、国産の選択肢を現実のものにしていきます。

SUiCTEが開発する衛星用のイメージセンサ
SUiCTEが開発するイメージセンサ

──御社の技術について教えてください。

私たちが開発しているのは、CCDの技術をCMOSプロセス上に実現したCCD-CMOS技術です。

2000年代前半まではCCDという技術がイメージセンサの主流でした。ここについてもソニーが強い分野でした。その後、2005年頃からCMOSセンサが主流になり、今ではイメージセンサのほとんどがCMOSです。CCDが唯一残っている数少ない市場の一つが宇宙用リニアセンサとなっています。

CMOSは「高速AD変換器」というコア技術を内蔵し、アナログ信号を非常に素早くデジタル信号に変換することが可能です。AD変換器の技術は、弊社代表取締役会長で静岡大学の川人祥二教授が得意としていた分野で、私たちの強みとなっています。

CMOSの利点は、多画素化※1・高速化がしやすいということです。ただし、宇宙向けに使用する場合は電荷加算※2が使えないことにより、ノイズの多さがネックになります。

一方、CCDの利点は、電荷加算できることです。光を加算することで光量のみが上がるため相対的なノイズを下げられるという特徴があります。衛星は非常に速く移動するため光の量が少なくなります。高い画質を確保するために同じ画素を何回も読むことで画素を加算するTDI(Time Delay Integration)という技術が重要なのですが、これを可能とするのがCCDです。

CMOSとCCDの特徴を組み合わせることで、省電力、高解像度(低ノイズ)、高速なイメージセンサを実現します。

※1 多画素化:画素(ピクセル)の数を増やすこと
※2 光を電気信号に変える過程で光を加算すること

──開発しているモジュールとはどのようなものですか。

モジュールには、センサの画像処理機能以外に、OSを組み込むことができる設計にしています。将来的にはエッジAIも搭載可能にする計画です。

SUiCTEが開発しているモジュール
イメージセンサを含むモジュール

最近の衛星業界では、衛星コンステレーションという動きがあります。SpaceXなどが進めていますが、これは多数の小型衛星を連携飛行させることでより高頻度・高精度に通信や画像撮影を行うという構想です。

衛星から地上に送信する画像データは非常に重く、衛星コンステレーションで多数の衛星を飛ばすとデータが混雑し、送信不能のデータが出てくることが考えられます。そこで、重要なデータのみを選別して送信したり、隣接する衛星が撮影したデータとの重複を削除したり、衛星間で役割分担の調整をしたりするのに役立つのがこれらモジュールとなります。

データ量削減は今後の開発課題になっており、これをクリアすることができれば、衛星コンステレーションによって、地上をシームレスな動画のように観測することが可能です。

また、可視光に加えて、目に見えないSWIR(短波赤外線)で撮影することで、地表の水分量や温室効果ガス量を測定することができます。例えばコーヒー農園では、水分不足や過多により病気が広がると収穫量が減り、価格が高騰することがあります。SWIRを使えば、広大な農地でも土壌状態を効率的に把握し、問題を早期に発見できます。

──宇宙用イメージセンサの市場規模はどの程度なのでしょうか。

宇宙用イメージセンサの主要プレイヤーであるTeledyne Technologies社の2023年のDefence&Aero Space領域での売上が約1172億円規模となっており、中でも衛星用センサを含むデジタルイメージングが多くを占めていることから、グローバル市場はかなり大きいと推定されます。この市場は今後さらに成長していくと見ています。

技術者としての原点と覚悟が導いた、SUiCTEの立ち上げ

──創業に至った経緯を教えてください。

私は2002年に大学卒業後、浜松の設計会社に入社しました。その後、静岡大学へ出向し、2002年9月に、同学電子工学研究所の教授であり、現・代表取締役会長でもある川人祥二先生と初めて出会います。研究室で社会人として2年間研究に取り組み、復職後もプロジェクトリーダーとして川人先生と仕事を続けました。

2006年、川人先生が起業したブルックマンテクノロジに創業メンバーとして参画し、当初3人ほどで始めた会社を段階的に大きくしていきました。NHKと共同で開発した8Kスーパーハイビジョン用イメージセンサは、カメラに内蔵され、FIFAワールドカップやリオ五輪等のスポーツイベントで活用されました。

宇宙用イメージセンサ開発にも携わり、某プロジェクトでは、2018年打ち上げ衛星に搭載されたセンサのプロジェクトリーダーを務めました。さらに、モノの奥行きを測る技術であるToF(Time of Flight)3Dセンサも開発し、量産体制の立ち上げまで携わりました。現在、このセンサはライセンス先で多くのセンサモジュールとして販売されています。

ブルックマンテクノロジでは、延べ100件以上のカスタムイメージセンサ開発や技術コンサルティングを手がけ、車載、宇宙、セキュリティ、コンシューマーなど幅広い市場へセンサを供給しました。

2023年にはブルックマンテクノロジが凸版印刷に吸収合併され、凸版印刷で約1年3カ月勤務しましたが、大手とスタートアップの働き方の違いを実感し、自分は「ゼロから3」をつくるフェーズが最も得意だと再認識しました。18年の開発・事業化の経験を活かし、社会に役立つセンサをゼロから創り上げたいと考え、川人先生に相談した結果、共同創業することになり、2024年8月にSUiCTEを設立しました。CFOの北島は、もともとブルックマンテクノロジ時代の私の上司にあたり、今回、会社を起こしたいということでラブコールを送って参加してもらいました。メンバー12名はいずれも10年以上の経験を持つ技術者で構成されています。ちなみに、凸版印刷とは現在も良好な関係を維持し、協力関係が続いています。

──なぜ宇宙用センサを選ばれたのでしょうか。

創業当初から、私たちはリモートセンシング、つまり宇宙で活用できるセンサに挑戦したいと考えていました。パートナー企業や衛星メーカー、JAXAなどと対話を重ねるなかで、いくつか明確な課題も見えてきました。

衛星のサプライチェーンを成立させるには、国内で供給できる部品が欠かせません。ところが、日本が世界トップサプライヤーであるイメージセンサの領域でさえ、現状は海外製センサに依存している。そこで求められる要件は、高速・高解像度・高感度・耐放射線性に加え、宇宙環境での実績です。私たちは8Kや高速センサ、高感度センサ、耐放射線センサを開発してきた経験があり、こうした要求に応えられると確信しました。

さらに、時代の流れとして、「半導体」・「宇宙」・「防衛」という国の注力分野が重なり合っている部分が衛星用イメージセンサです。「今まさにやるべきテーマだ」と背中を押されているように感じました。

何より、自分たちのセンサが宇宙から映像を届け、それが人々の暮らしを豊かにしていく──その未来は、私たちが描くビジョンそのものであり、心からワクワクする挑戦でした。

イメージセンサは、CTスキャンやウェアラブルデバイスなどに活用されているが、リモートセンシングは中でもニッチかつ高い技術力が求められる活用領域だ。
イメージセンサは、CTスキャンやウェアラブルデバイスなどに活用されているが、リモートセンシングは中でもニッチかつ高い技術力が求められる活用領域だ。

──ブルックマンテクノロジでの経験で、今に活きていることはどのようなことですか。

一番の財産は、成功よりもむしろ失敗の数です。うまくいかなかった理由を一つひとつ学びに変えながら、少しずつ事業と組織をスケールさせてきました。

ディープテックの現場は、順風満帆とはいきません。トラブルが起きたときにどう動くか。価格交渉や不具合にどう向き合うか。お客様に厳しく叱られてからが本当の勝負で、そこでの対応力が信頼をつくります。そうした実践の積み重ねこそが、いまの自分の礎になっています。20年近くスタートアップ/ベンチャーの最前線で揉まれてきた経験を通じて、「どうあるべきか」という自分なりの軸を持って創業しました。

いま伸びている市場に挑まなければ、社会はなかなか前に進まない。そう感じたからこそ、多くの人を巻き込み、改めて創業に踏み切りました。今度こそ、必ず形にしたいと思っています。

浜松から世界へ。イメージセンサ領域の“NVIDIA”を目指して

──今回の調達資金の用途と今後の展開については。

現在開発中のGeneration1センサーの開発資金と、続くSWIR(短波赤外線)対応のGeneration2開発につなぐための資金調達です。

今年は国内の衛星メーカー2社と連携してPoCを行います。具体的には、センサとモジュールを提供し、評価していただく予定です。この2社には今回のセンサーを作るにあたって監修もしていただいています。

来期以降はそのフィードバックをもとに、北米を中心とした海外メーカーへアクセスしていきます。SpaceXなどの大手企業に届けられれば一番良いですが、それ以外にも地球観測を行っているメーカーにもピンポイントにアプローチしていきます。

宇宙領域のイメージセンサでは、5年後に業界シェア10%、2033年に業界シェア20%を目指す計画です。

まずは国内の衛星メーカーにしっかりと製品を納められる体制を作っていきます。

そして宇宙センサのサプライチェーンを国内に構築し、最終的に北米など海外に販路を拡大していきます。宇宙領域だけでは販売数は限られてくるので、マーケット規模の大きいFA(工場自動化)・産業機器領域での横展開も視野に入れています。

中長期的には、開発だけでなく営業面にも力を入れていきます。Generation1を確実にお客様に提案し、売上の見込みを立てながらGeneration2へとつなげていくことを目指します。

──今後の意気込みをお願いします。

私たちの会社の目標は、未来につながり人々の暮らしをより良くするセンシング技術を実現することです。研究開発で終わらせず、お客様とともに市場を切り開く先駆けとなることを目指しています。

リスクテイクと失敗からの学びを大切にし、オープンなコミュニケーションで誠実にお客様や社員と向き合っていきます。浜松から世界に飛び出すユニコーン企業へ、イメージセンサ領域のNVIDIAを目指していきます。

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