大学発の解析技術で宇宙開発を支えるcosmobloom、2026年に宇宙ゴミ対策品の実証実験へ
宇宙構造物の開発に伴う解析・設計支援などを手がけるcosmobloomがプレシードラウンドにて、J-KISS型新株予約権による資金調達の実施を明らかにした。今回のラウンドの引受先はHERO Impact Capital。
cosmobloomは2023年4月に設立された大学発スタートアップで、前身は日本大学理工学部航空宇宙工学科宮崎研究室(現 JAXA 宇宙構造システム研究室)。膜面やケーブルなど「柔軟展開構造物」の解析技術をコアに持ち、JAXAや民間企業向けに解析・設計支援を行うほか、自社でも宇宙構造物の開発に取り組む。
同社は今回、前身であるJAXA 宇宙構造システム研究室との共同研究を開始したことも併せて発表。調達した資金は、2026年に実証実験を目指す宇宙ゴミ対策装置や2030年代の完成に向け研究を進める膜面アンテナの開発に充てる。
代表取締役 CEOの福永 桃子氏に、解析技術の独自性と求められる背景、自社開発のロードマップなどについて詳しく話を伺った。
独自のシミュレーション技術で、宇宙構造物の大型化を支える
――御社が持つ宇宙構造物の解析技術について教えてください。
福永氏:宇宙空間に運びたい物は現状、すべてロケットで打ち上げなくてはなりません。宇宙開発が進むにつれ、通信アンテナなどの構造物は大型化が進む一方、ロケットに搭載する都合上、できるだけ軽くコンパクトにする必要があります。1kgの物を運ぶのに数百万円から数千万円かかる世界ですから、軽量化はコスト面でも避けて通れない課題です。
ラップフィルムのような薄い膜状の構造物なら軽い上に、ロケット搭載時は小さく折りたたみ、宇宙空間で元のサイズに展開できます。こうした研究は早くから行われてきたものの、なかなか実用化に至らなかったのは、宇宙空間で想定通りに展開できる信頼性を担保するのが難しいためです。重力のかかる地上で試験を行っても参考になるデータは得られませんし、各種解析ソフトも数ミクロンレベルの薄い構造物には対応していないのが現状です。
cosmobloomは前身の研究室から、こうした薄い構造物が宇宙空間で見せる動きをシミュレーションできるニッチな技術を引き継いでいます。これを実際に次世代の宇宙構造物の開発に役立てていくことが私たちのミッションです。
――シミュレーション自体の信頼性はどのように担保していますか。
2010年にJAXAが打ち上げた、太陽光エネルギーで航行する膜状の人工衛星IKAROSの開発に私たちの技術が使われています。折りたたんだ状態でロケットに載せられるIKAROSが宇宙空間でどのように開くか、現在cosmobloomの技術顧問を務める宮崎教授がシミュレーションを行い、実際にほぼシミュレーション通りの動きを見せてくれました。宇宙空間での膜構造の挙動に関して、現時点で信頼できる唯一の技術と業界内では認識されています。
――シミュレーションの受託を手がけるだけでなく、自ら宇宙構造物の開発にも取り組んでいます。
シミュレーションに関しては、JAXAからの受託実績を重ね、ゼネコン各社からも相談を受けています。多くのゼネコンが月面での居住空間設計などの研究を進めており、設計から依頼したいとの相談を頂くケースもあります。
構造物の開発では目下、いわゆる「宇宙ゴミ」の対策品であるデオービット装置と膜面アンテナの2製品に取り組んでいます。デオービット装置は2025年度中に開発試験を終え、2026年度に実証実験としての打ち上げを目指しています。
――デオービット装置について教えてください。
役目を終えた人工衛星がいつまでも軌道を回り続けることなく、大気圏に落下して燃え尽きるよう、航行スピードを落とすための装置です。折りたたんで人工衛星に取り付けられた薄い膜が宇宙空間で帆のように広がると、大気圏に近い高さを飛ぶ人工衛星は空気抵抗を受け、徐々にスピードが落ちていきます。
私たちが開発中の装置は、ロケット搭載時は1辺10cmに満たないサイズながら、展開後の帆の長さは約3mと最大クラス。米国のロケット搭載基準である「5年で軌道を外れる」条件を満たせる見込みで、小型衛星の開発が盛んな米国や欧州でも導入を働きかけています。
デオービット装置で当社の開発力を証明した後、2030年代には膜面アンテナの製品化を目指します。組み合わせることで大型化できるモジュール型アンテナで、基地局を介さず、一般ユーザーの携帯電話に直接電波を送れるものです。膜構造の研究では日本はトップを走っており、世界初の膜面アンテナの開発を目指して通信技術の研究者と連携しています。
原発1基を代替する、宇宙太陽光パネルの開発も視野に
――会社設立に至った経緯は。
学生たちが入学と卒業を繰り返す大学という環境では、優れた研究を行う研究室でも存続できなくなることがあり、私たちは「ロストテクノロジー」と呼んでいます。さまざまな技術分野で日本の研究が海外に抜かれてきた中、膜構造のように日本が最先端を維持している分野でロストテクノロジーを出すのはあまりにもったいない。新入学生の数が減っていく中で価値ある研究を守り続けるには会社の形にした方がよいと考えました。研究室時代、お付き合いのある企業の皆さんから、「会社にしてくれたら、依頼したい案件がたくさんあるのに」と言われていたこともあります。
私は幼い頃、理系の研究者だった祖父が買ってくれた科学誌「Newton」を読んで宇宙に興味を持ちました。現在の道に導かれたのは高校時代、友人に誘われて日大のオープンキャンパスに参加し、宮崎教授と出会ったのがきっかけです。大学入学時点では「人生最後の勉強できる機会」と思っていたため、意気込んで1年の時から研究室に入れてもらい、ズブズブとこの世界にはまりました。
修士を終えた時点ですでに法人化を考えていたものの、一度外の世界を経験してみたく、一般企業に4年勤めた後、昨年4月にcosmobloomを立ち上げました。当時、宇宙開発系のスタートアップで上場していたのは1社だったのが今では3社になり、今年度は新たに政府の宇宙戦略基金もスタートしました。膜構造を必要とする技術開発もここに来て一気に増えるなど、追い風を感じています。
――今後の展望は。
日本を含め世界各国が2050年までのカーボンニュートラル実現を目指す中、天候に左右されない宇宙空間で太陽光エネルギーを活用する研究に注目が集まっています。私たちが今、膜面アンテナの研究を進めているのも将来、無線で地上にエネルギーを送れる膜面型の太陽光パネルの開発につなげたいため。1辺数kmの巨大パネルで原発1基分の電力を賄うことを目指しています。
膜構造が必要な宇宙構造物は、今後ますます増えるでしょう。信頼性の担保された構造物を打ち上げ、確実に成果を出していくことは私たちしかできないと自負しています。ぜひご期待ください。