株式会社Helios

株式会社Heliosは、衛星・ドローン・航空機から取得される画像データを横断的に解析し、地表の状態を高精度に把握するリモートセンシング解析プラットフォームを開発している。
2024年8月に設立された同社は、すでに都市開発や自然保護などの分野でPoCを実施している。2025年12月、同社はインキュベイトファンドを引受先として、シードラウンドで総額5000万円の資金調達を行ったと発表した。
共同創業者の佐々木謙一氏(取締役CEO)と八島京平氏(代表取締役COO)に、創業背景や技術的な強み、今後の展望について聞いた。
衛星データが使われない3つの理由を解決する
──御社の取り組む事業について教えてください。
佐々木氏:LEM(Large Earth Model: 大規模地球モデル)の実現を目指し、リモートセンシングデータ解析のプラットフォームを開発しています。これは、いわばLLM(Large Language Model: 大規模言語モデル)の地球バージョンで、衛星画像などの複数データをAIによって複合的に解析することで、地球上の状況をリアルタイムで把握することを可能とするモデルです。
LLMでは、AIに質問すると、AIが膨大な言語情報をもとに回答を作成します。LEMでは、言語情報ではなく衛星画像や地理データなどをAIが自動で解析し、解析結果を返してくれるようなイメージです。

──具体的には、どのような課題に取り組まれていますか。
佐々木氏:現在、人工衛星画像をはじめとするリモートセンシングデータは豊富に存在し、防災、都市計画、農業など幅広い分野での活用可能性を有している一方で、社会実装は十分に進んでいません。その背景には、主に3つの課題があると考えます。
1つ目は、解析に専門知識が必要なこと。
2つ目は、衛星画像の取得コストが高く、事業会社が気軽に使いにくいこと。
3つ目は、解析に時間がかかり、災害対応などで求められる速報性・リアルタイム性を担保しづらい点です。
こうした解析のしにくさが、災害対策の遅れなど大きな機会損失を生んでいると感じており、それを解決するソリューションの開発に取り組んでいます。
現在考えているアプローチは大きく3つあります。
まず、衛星画像に限らず、GIS(地理情報システム)データや自治体のデータ、スマートフォンで撮影した画像など、多様なデータをワンストップで解析する技術の開発です。
次に、チャットUIを採用し、専門知識がなくても直感的に操作できる仕組みを目指しています。ChatGPTに質問するような感覚で解析したい内容を入力すると、自動で解析と可視化が行われるイメージです。
3つ目は、データフュージョンによる低コスト化です。取得コストの高い高解像データだけに依存せず、無料または低コストのデータを組み合わせることで、解析コストを抑えながら精度を高める技術を検討しています。

弊社の強みとしては、AIによる解析の自動化により、今まで人の手で何週間もかけて行っていた解析を数時間で行える点だと考えています。初心者から専門家まで、幅広い層に使っていただけるようなプロダクトの開発を今目指しているところです。
──すでに他社との事業連携も行われていますか。
佐々木氏:そうですね、インフラ領域と宇宙領域での事業連携を進めています。
インフラ領域では、建設コンサルティング大手の株式会社長大と2025年8月にMOUを締結し、協業を進めています。長大さんは、道路や橋梁、トンネルなどの設計や建設マネジメントを手がけています。
こうした大型構造物を建設する際には、事前に災害等のリスク調査を行うわけですが、調査・設計時に使用するデータのフォーマットが様々で、これらの統合と解析に非常に手間がかかる点が課題でした。衛星画像やドローンが撮影した画像、Excel等で管理された測量データなどが散在している状況だったのです。
われわれのシステムは様々なデータに対応しているので、そういった多様なデータを一つのプラットフォーム上でシームレスに解析することができます。
実際のマーケット投入に向けて、プロダクト開発のヒアリングおよび機能実装などを連携して進めている段階です。
宇宙領域では、衛星に搭載するセンサーの設計に関わるコンサルティングを行っています。用途によって衛星画像に求められる解像度は異なるので、市場のニーズに応じたスペックを提案しています。
さらに、宇宙から撮影した生の画像データを前処理し、幾何補正や大気補正、ノイズ除去などを施して、ゆがみや雲等に隠れている部分のない、扱いやすいデータに変換する処理を行っています。

やはり、宇宙産業のエコシステムの成長にとって、最後の出口にあたるデータ活用が不可欠だと考えています。日本では特に、ロケット打ち上げや衛星の開発に注目が集まる傾向がありますが、取得したデータを誰かに使ってもらえるものにしないと、そもそも経済として回っていきませんよね。データ活用サイドの市場開拓によって、衛星の需要も伸びますし、衛星の製造需要が伸びれば、衛星打ち上げのためのロケット製造も増えていく。
全体のエコシステムを拡大していくために、衛星データの活用可能性を広げていきたいと思っています。
データ融合技術に活路を見出し起業
──創業の背景を教えてください。
佐々木氏:八島とは学生時代にロケット開発のサークルで出会いました。私は博士課程で技術研究を続け、八島は学生時代から起業して事業開発の経験を積んでいました。昨年、たまたまリモートセンシングについての話題が出た際に意気投合し、起業を決意しました。当初はアメリカからリモートで立ち上げ、今年5月に帰国して本格的に動き始めました。
八島氏:衛星データ単体ではビジネスとして限界があると感じていましたが、ドローンやGISなどを含めたデータ融合によって可能性が広がると感じたことが起業の後押しになりました。
投資環境も厳しくなっていますし、起業のハードルは年々高くなっていると思います。私と佐々木は今年32ですが、年齢的にも起業して駆け抜けていくなら今だと思いました。
エンジニア採用拡大でベータ版開発を加速、将来的には海外へ
──今回の資金調達の背景と資金の使途について伺えますでしょうか。
八島氏:今年夏にMVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)が完成しまして、ベータ版開発と実証推進を見据えてエンジニアの採用強化を目的にシードラウンドを実施しました。まずは長大さんをはじめとする建設コンサル業界で実際に使っていただけるプロダクトを作ることが直近の目標です。
──最初に都市開発に注力された理由と、今後の展開を教えてください。
八島氏:衛星データの特性を活かしやすく、かつ市場が日本に限定されない分野として都市開発を選びました。特に東南アジアでは都市開発需要が継続的に存在し、日本の土木・建設技術への評価も高い。構造物を建設する前の設計・維持管理領域だけで、東南アジアを含めて約6兆円の市場規模があると見ています。
将来的に日系建設コンサル企業の東南アジアでのプロジェクトにお力添えをし、それをきっかけに東南アジアで事業展開をしていきたいです。2028年頃までに、東南アジア3カ国でPoCあるいは売上創出を目指します。
ホリゾンタルな視点だと、都市開発を起点に、防災・国土強靭化、水資源管理、環境調査、防衛など周辺分野へも展開できると考えています。
──読者へ一言メッセージをお願いします。
八島氏:これから開発体制を強化していきます。地理や地図が好きな方、幅広い分野に関わりたい方と一緒にプロダクトを作っていきたいです。副業や部分的な関与でも歓迎しています。
佐々木氏:近年高まっている宇宙業界への期待に応えられるような事業を作りたいと考えています。GISなど様々な技術を組み合わせることで、衛星データの活用可能性を広げ、宇宙産業の発展に寄与していきます。










