拡大を続けるスマート農業市場
近年、世界的な穀物需要の増加やエネルギー価格の上昇、化学肥料価格の高騰など、食にまつわる問題が深刻化している。このような中、生産効率を高めるために農業のデジタル化を進める「アグリテック」が注目されている。アグリテックとは、AgricultureとTechnologyを組み合わせた造語であり、農業領域にIoTやビッグデータ、ドローンなどのICTを活用することを指す。農業従事者の不足や高齢化による国内農業の衰退を解決する手段としても期待されている。
2022年のスマート農業の国内市場は306億円6800万円に達した。2023年度は前年度比106.7%の322億9900万円の見込みで、2029年度には708億円まで拡大すると予測されている。※
アグリテックの導入は、食糧問題や農業の持続可能性に向けた重要な一歩だ。農業の生産性向上に向け、さらなる技術革新と普及が期待されている。こうしたアグリテック関連の事業に取り組むスタートアップを紹介する。
スタートアップ5選
株式会社AGRI SMILE
生命科学領域の研究向けのDXソリューション「ACADEMIC Hub」と、栽培に関わる定性・定量データの集積システム「KAISEI」を開発・提供する。ACADEMIC Hubは、学術集会のオンライン開催システム「ONLINE CONF」、アカデミアの研究シーズと企業ニーズを繋ぐプラットフォーム「Seeds-Hub」、研究製品メーカーと大学を繋ぐ「Makers-Hub」を提供する。また、KAISEIでは、AGRI SMILEの農学研究者が、農業ビッグデータに基づき、仮説、検証、フィードバックを行い、農業支援サービスを提供している。
2023年6月には、学会や研究者の生産性向上を目的として、キンコーズ・ジャパン)と業務提携を締結した。2024年8月には、深谷市およびふかや農業協同組合と共同でバイオスティミュラントを活用した深谷ねぎの減肥栽培、深谷ねぎの残渣を活用したバイオスティミュラントの検証を開始した。
サグリ株式会社
企業HP:http://sagri.tokyo/
デジタル地図上で耕作放棄地を検出するアプリ「アクタバ」を運営する。アクタバでは衛星データを使用し、AIが農地の荒れ具合を判断することで農地管理をデジタル化することができる。全国の自治体で広く使われることで、アプリの精度が高まる。同社はそのほか、衛星データを活用し作付け調査を効率化するアプリ「デタバ」や、生育・土壌状態の分析アプリ「Sagri」を提供する。
2024年8月には、シリーズAラウンドにて千葉道場、SMBCベンチャーキャピタル、グローバル・ブレイン、スパークルなどを引受先とした第三者割当増資による、約10億円の資金調達を実施した。
株式会社マプリィ
企業HP:https://mapry.co.jp/
地理空間情報アプリ「mapry」を運営する。森林情報を一元管理し、森林の境界確定・森林調査・施業・防災等を効率的に行う。同サービスにより直径・樹高や面積・体積の計測、3Dデータの作成、材積の算出、カーボン・クレジットへの活用などが可能となる。スマートフォンやタブレットとLiDARセンサー※や可視光を用いることで、簡単かつ低コストで三次元データを取得し解析することができる。
2024年8月には、間取り図・立面図・図面作成・写真・各種出力ができるアプリ、「mapry建築」をリリースした。
※LiDARセンサー:離れた場所にある物体の形状や距離を、レーザー光を使って測定するセンサー技術のこと
HarvestX株式会社
企業HP:https://harvestx.jp/
自動授粉・収穫ロボット「HarvestX」を開発する。HarvestXは植物工場内を自動で走行し、データ収集や作業を自動で行う。ハチに比べて授粉精度は27.8%高く、多様な環境の植物工場への導入が可能だ。データ収集により苗の状態の分析や収量予測を自動化しシステム管理することで、正確な収穫日や収穫量を予測できる。また、収穫作業を自動化することで、収穫過程における人件費削減が可能だ。また、ロボットアプリケーションの構築を支援するソフトウェアライブラリおよびツールのセット「ROS2 Package」により、ROS2インターフェースの力を借りて、多種多様な植物工場での課題に柔軟に対応できるロボットを作成している。
2024年3月には、プレシリーズAラウンドにて、ANRI、DEEPCORE TOKYO、Dawn Capital、SMBCベンチャーキャピタルなどを引受先とした、総額約4億1000万円の資金調達を実施した。
inaho株式会社
企業HP:https://inaho.co/
AI搭載の自動野菜収穫ロボットを中心とした生産者向けサービスを提供する。自動野菜収穫ロボットの技術は全て独自開発している。収穫に適した時期を画像認識で自動判断し、無人かつ自動で収穫作業が可能だ。夜間収穫が可能なため、作業負担を大きく減らすことができる。日本とEUに展開し、近年は国内外の研究者と協働して栽培方法の開発を行っている。また同社はそのほか、農業参入コンサルティングやAI農機具の共同開発、農業用製品のレンタル・サービス事業やハードウェア製品のサブスク化支援サービスなどを展開する。
2024年2月には、AI農機具にかかわる特許が、現在の日本、オーストラリア、アメリカに加え、新たにヨーロッパ、インドで登録された。2024年5月には、バンドー化学を引受先とした資金調達を実施した。
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※矢野経済研○○調査を実施究所 「スマート農業に関する調査を実施(2023年)」