拡大を続けるスマート農業市場
近年、世界的な穀物需要の増加やエネルギー価格の上昇、化学肥料価格の高騰など、食にまつわる問題が深刻化している。このような中、生産効率を高めるため農業のデジタル化を進める「アグリテック」が注目されている。アグリテックとは、AgricultureとTechnologyを組み合わせた造語で、農業領域にIoTやビッグデータ、ドローンなどのICT技術を活用すること。農業従事者の不足や高齢化による国内農業の衰退を解決する。
矢野経済研究所が 2023年1月に発表した調査※によると、スマート農業の国内市場は2021年に247億円に達した。2022年度は前年度比122.4%の約303億200万円の見込みで、2028年度には624億円まで拡大すると予測されている。
スタートアップ5選
今回は未上場のスタートアップ5社を紹介する。
株式会社AGRI SMILE
生命科学領域の研究向けのDXソリューション「ACADEMIC Suite」と、栽培に関わる定性・定量データの集積システム「AGRI Suite」を開発・提供する。ACADEMIC Suiteとしては、学術集会のオンライン開催システム「ONLINE CONF」を提供する。またAGRI Suiteとしては、プロ農家の栽培動画配信サービス「AGRIs」や産地の栽培履歴をクラウドで一元管理するサービス「KOYOMIRU」などを提供する。KOYOMIRUでは生産者側での日々の作業記録とJA側での栽培履歴のチェックの効率をあげ、集まったデータを防除や資材の効果測定に活用できる。
2021年9月には第三者割当増資により1.7億円の資金調達を実施。2022年12月には、植物の免疫系を活性化する資材「バイオスティミュラント」の関連サービスを提供を開始したし始めた。バイオスティミュラント商品の適正な情報の提供により、農業生産者の課題解決と販売企業の販路拡大を実現する。2025年までに売上15億円を目指す。
株式会社AGRI SMILE
設立:
2018年
企業HP:
サグリ株式会社
デジタル地図上で耕作放棄地を検出するアプリ「ACTABA」を運営する。これまで耕作されなくなった農地の把握作業は、自治体職員が膨大な時間と労力をかけて行っていた。そこでACTABAでは衛星データを使用し、AIが農地の荒れ具合を判断することで農地管理をデジタル化することができる。全国の自治体で広く使われることで、アプリの精度が高まる。同社はそのほか、衛星データを活用し作付け調査を効率化するアプリ「デタバ」や、生育・土壌状態の分析アプリ「Sagri」を提供する。
2021年6月には第三者割当増資による総額1.55億円の資金調達を実施し、2022年12月にはSBテクノロジーとの資本業務提携を締結。2023年1月には、ケニアを中心としたアフリカ進出を開始した。今後は、提携先現地パートナーの傘下農家と管理農地向けにサービスを提供することで、農地管理の円滑化を図る。
サグリ株式会社
設立:
2018年
企業HP:
株式会社マプリィ
地理空間情報アプリ「mapry」を運営する。森林情報を一元管理し、森林の境界確定・森林調査・施業・防災等を効率的に行う。同サービスにより直径・樹高や面積・体積の計測、3Dデータの作成、材積の算出、カーボン・クレジットへの活用などが可能となる。スマートフォンやタブレットとLiDARセンサー※や可視光を用いることで、簡単かつ低コストで三次元データを取得し解析することができる。
2023年1月には、第三者割当増資による資金調達を実施し、同年2月には「mapry PC版」正式版の無料提供を開始した。今後は、森林・環境・建設・防災・農業等、現場DXソリューションや、流通プラットフォームなどのアプリ開発およびリモートセンシング機器等のハードウェアの開発に力を入れる。
※LiDARセンサー:離れた場所にある物体の形状や距離を、レーザー光を使って測定するセンサー技術のこと
株式会社マプリィ
設立:
2019年
企業HP:
HarvestX株式会社
自動授粉・収穫ロボット「XV3」を開発する。XV3は植物工場内を自動で走行し、データ収集や作業を自動で行う。ハチに比べて授粉精度は27.8%高く、多様な環境の植物工場への導入が可能だ。データ収集により苗の状態の分析や収量予測を自動化しシステム管理することで、正確な収穫日や収穫量を予測できる。また、収穫作業を自動化することで、収穫過程における人件費削減が可能だ。
2022年3月には総額1.5億円の資金調達を実施。2023年夏には、植物工場におけるイチゴ栽培自動化サービス「HarvestX」 を提供開始する予定だ。将来的には栽培支援機能を追加し、2025年に完全自動化の実現を目指す。
HarvestX株式会社
設立:
2020 年
企業HP:
inaho株式会社
AI搭載の自動野菜収穫ロボットを中心とした農業プラットフォームを提供する。自動野菜収穫ロボットの技術は全て独自開発している。収穫に適した時期を画像認識で自動判断し、無人かつ自動で収穫作業が可能だ。夜間収穫が可能なため、作業負担を大きく減らすことができる。日本とEUに展開し、近年は国内外の研究者と協働して栽培方法の開発を行っている。また同社はそのほか、農業参入コンサルティングやAI農機具の共同開発、農業用製品のレンタル・サービス事業やハードウェア製品のサブスク化支援サービスなどを展開する。
2022年3月には、オイシックス・ラ・大地の投資子会社であるFuture Food Fundから資金調達を実施。今後は、オイシックス・ラ・大地の取引先農家や農業事業を展開するLP(有限責任組合員)への導入を促進し、収穫の効率化による持続可能な農業の実現を目指す。
inaho株式会社
設立:
2017年
企業HP:
おわりに
今回紹介した企業は、より効率的な農業の構築を加速させている。今後も、アグリテック関連のスタートアップの動向にはさらに注目が集まりそうだ。
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矢野経済研究所「スマート農業に関する調査を実施(2022年)」