スマート農業の実現、アグリテック市場の現状と展望

スマート農業の実現、アグリテック市場の現状と展望

written by

高 実那美

本記事では、株式会社ケップルのアナリストが作成したレポート「【独自調査】農業・食品分野でイノベーションを起こすスタートアップ(アグリテック編)」の内容を基に、アグリテック関連市場の現状について触れる。スタートアップの詳細な情報を含む解説は、本レポートをダウンロードすることで閲覧が可能だ。

KEPPLE REPORTをダウンロードすることで以下の情報をご覧いただけます。

・アナリストによるアグリテック関連の各事業分野の詳細な解説
・スタートアップを中心に国内外128社を分類したカオスマップ
・アグリテック128社の詳細な情報


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目次

  1. アグリテック関連の市場動向
  2. カテゴリー別のアグリテック市場動向
    • ①農場・農園管理
    • ②農業ロボット
  3. おわりに

アグリテック関連の市場動向

アグリテックとは、Agriculture(農業)とTechnology(技術)を組み合わせた造語であり、主にITやドローン、ビックデータなどのICT技術を活用した農業を意味する。農林水産省の資料によると、日本においてはロボットトラクター、スマホで操作する水田の水管理システムなどによる農作業の自動化、データ活用による作物の生育状況・病虫害の予測などが活用例として挙げられている※1

アグリテック・フードテックの具体的な役割としては、①農作業の省人化、②生産性向上(単位あたりの収穫量や農作物の質の向上)、③食糧生産手段の増加(都市農業など、新たな場所での農業・養殖)、④新しい生活様式に合わせた食の提供(代替タンパク質など)の4点が期待されている。

アグリテック市場としては、食糧危機や環境問題などに関する人々の意識向上により、世界中で盛り上がりを見せている。世界の市場規模は、2022年に245億ドルと評価され、2028年には492億ドルに達し、成長率は12%を超える見込みである※2。また、フードテックについては、2022年に2600億ドルと評価され、2028年までに3600億ドルに達するとの予測がある※3。一方、日本に関しては、アグリテックとフードテックを合わせた市場規模は2021年で718億円、2030年で2112億円まで成長すると予測されている※4

これらの分野で先行しているのが欧米で、特にアグリテック分野で多くのスタートアップが存在し、ユニコーン企業も登場している。アグリテック分野の企業数は2022年時点で、1位の米国が3475社、2位の英国が689社、3位のカナダが632社となっている※5。また、フードテック分野の企業数は2022年時点で、1位の米国が113社、2位の英国が70社、3位のフランスが55社となっている※6

一方で、日本のアグリ・フードテックのスタートアップは2022年時点で200社程度と推計されており、欧米と比較すると少ない。また、この分野のスタートアップへの投資額も少なく、2021年時点では1位の米国が210億ドルとなっているのに対し日本はわずか4.6億ドルとのデータもあり、米国の約2%にとどまる※7

そもそも日本のスタートアップ全体への投資額は米国の1%程度とのデータもあり、国内のアグリ・フードテック分野への投資額は他分野と比較して少ないわけではない。しかし、投資額の多い米国と比較するとスタートアップの設立や成長が難しいといえる。また、日本における農業・水産業のGDPは2019年頃から成長しておらず※8、アグリ・フードテックによる効率化や成長の推進が求められている。

こうした状況を受け、政府はアグリ・フードテック分野の取り組みを強化している。特に日本では農業従事者の高齢化や労働力不足、フードロスの多さなどが問題となっており、アグリ・フードテックを活用しサステナブルな事業へ変革することが必要となっている。

政府の取り組みの一例として、ロボット、AIなど先端技術を活用した「スマート農業」の普及を目指している。農林水産省で、農業用ドローンの活用支援や、各地での実証プロジェクトなどを実施している。

加えて、新興技術を活用した食・農林水産業の発展を目的とし、2020年10月に産学官連携による、フードテックの推進ビジョンに関する議論や、アグリ・フードテックに関する情報発信などを行う「フードテック官民協議会」が発足した。

また、スタートアップに対する支援策として、日本版SBIR制度(イノベーション創出のため関係省庁が連携して中小企業の研究開発から事業化までを一貫して支援する制度)を活用し、農林水産・食品分野で新たな技術開発・事業化を目指す企業を支援することを発表している※9

カテゴリー別のアグリテック市場動向

KEPPLE REPORTでは、アグリテック産業を12のカテゴリーに分類して解説している。本記事では、12のカテゴリーの中から抜粋して、農場管理、農業路ロボットを中心に解説する。

①農場・農園管理

農作業の記録や作付状況などをデータ化して管理し、可視化するソフトウェアの開発を行っている企業を当カテゴリーに含めている。この分野の企業数は他のカテゴリーの中でも多く、KEPPLE REPORTでは農場・農園管理を行う企業として、国内で9社と海外12社(そのうちの1社は子会社)に分類して解説している。

日本では、スタートアップ企業に加えて、大手農機メーカーも同様のシステムを開発している。この分野に多くの企業が存在する理由は、農業のデジタル化が遅れており、作業の省力化や生産性向上などの効果が顕著に現れやすく、農業側の需要が高いためだと推察される。

こうした企業の中には、数十億円の評価額を超える有望な国内スタートアップも存在しており、2023年に10億円弱の資金調達を実施した実績がある。

②農業ロボット

このカテゴリーでは、農作物の収穫や除草、農薬散布などを行うロボットを開発する企業をまとめている。KEPPLE REPORTでは、国内7社(うち子会社1社)、海外8社に分類している。

この領域ではスタートアップを中心に各国に様々な企業が存在する。農業ロボットを導入することで、労働力不足の解消や農作業の効率化などのメリットがあるが、初期コストが高いというデメリットもある。

そのため、農業ロボットを開発しながら、レンタル事業を展開することで、農家は初期費用を抑えるといったサービスを展開する企業も存在する。農業ロボットを開発するinahoとHarvestXについてはこちらの記事でも紹介している。

関連記事:「農業を盛り上げるアグリテック関連スタートアップ5選

また、海外ではブドウ畑専用除草ロボット、果物収穫ロボット、イチゴやブドウの病気抑制ロボットなど特定の農作物に特化したロボットを開発する企業が多く見られる。

おわりに

世界的な人口増加による食料危機や国内では高齢化による労働力の低下といった課題に対して、今後も省人化や生産性向上に繋がるアグリ・フードテックは成長するだろう。

たとえば、センサー・灌漑システムが普及することで稲作における水管理を省人化して農家の負担を下げられる。また、単に生産性を向上させるだけではなく、植物工場の技術を応用することでビルといった都市部での農業が可能となり、輸送中の農作物の品質低下やフードロスを抑えられる。

政府の後押しもある中、今後も幅広いビジネスモデルやプロダクト・サービスを提供するアグリ・フードスタートアップが成長していくだろう。

KEPPLE REPORTでは、国内外128社のスタートアップを中心にアグリテックについて調査してカオスマップとしてまとめている。より詳細なスタートアップ情報に関心のある読者はぜひご覧いただきたい。

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新卒で全日本空輸株式会社に入社し、主にマーケティング&セールスや国際線の収入策定に従事。INSEADにてMBA取得後、シンガポールのコンサルティング会社にて、航空業界を対象に戦略策定やデューディリジェンスを行ったのち、2023年ケップルに参画。主に海外スタートアップと日本企業の提携促進や新規事業立ち上げに携わるほか、KEPPLEメディアやKEPPLE DBへの独自コンテンツの企画、発信も行う。

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  • #農業
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