サグリ株式会社

2024年のスタートアップによる資金調達総額は8097億円(※プレスリリース情報に基づく速報値)で前年比15.5%増となった。対前年で落ち込んだ2023年から回復し、2022年比でも増加するなど、堅調な一年だったといえる。
(株)ケップルは、スタートアップの動向を把握するうえで、資金調達と同様に重要な指標として「従業員数」に注目。2023年12月~2024年12月の国内スタートアップの従業員数を集計し、スタートアップ動向レポート「従業員数から読み解く国内スタートアップの現在地2024」としてまとめた。今回は、レポートの中から農業セクターの従業員数推移や市場動向に関する解説を紹介する。
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農業スタートアップ、IT活用で拡大
2014年以降、農業分野のスタートアップの設立数が大幅に増加している。背景には、2013年に農林水産省が「スマート農業の実現に向けた研究会」を発足させ、アグリテック推進を本格化させたことがある。特に国内では農業人材の不足や、非効率的な農作業などが課題となっており、ITの力を借りて生産性の向上を図ろうとする動きが加速している。例えば、農地情報を記録するアプリや畜産DX、農業ロボットなど新たなサービスが登場した。近年はスタートアップ全体への投資額が減少傾向にあることから、設立数自体はやや落ち着きを見せている。それでもなお、注目に値する新興企業は現れており、今後の成長が期待される分野であることに変わりはない。
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注:上場したスタートアップや閉鎖企業などを含む
農業分野のなかでは特に植物工場を運営する企業の評価額が高くなっており、2014年設立の株式会社プランテックスが評価額100億円以上となっている。
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注:2024年1月時点=100として指数化(セクター全企業の従業員数が対象)
人口・需要増で進化する世界のアグリテック市場
世界の人口は2050年までに約100億人に達すると予測されており※1、食料需要が増大している。2050年の世界の食料需要量は2010年比1.7倍と予測されており、特に低・中所得国での増加率が大きい※2。増大する需要に対応するため農業関連企業の活発化が予想され、世界の農業の市場規模はCAGR7.7%で推移し、2028年には約19.3兆ドルに成長すると予測されている※3。
食料の安定供給のため、環境への負荷を低減しながらも食料生産を効率化する持続可能な食料システムが求められている。こうした問題を解決する技術のひとつとして、農業分野のなかでも特にアグリテックが注目を集めている。種苗や農機などの分野では、従来から大企業がシェアを独占してきた。一方で、アグリテックのような新興分野においてはスタートアップが牽引しており、ユニコーン企業も誕生している。アグリテックとは、「Agriculture(農業)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語であり、 主にITやドローン、ビッグデータなどのICT技術を活用した農業を指す。具体的には、種まき・収穫などを行うロボット、AIやセンサーによる農場監視システム、倉庫やビルを活用した垂直農法などが挙げられる。また、ゲノム編集などを活用することで気候変動への耐性をもつ作物を作ることもできる。これらの技術を活用することで、農作業の省人化や生産性向上につながる。
世界のアグリテックの市場規模は、2023年に157億ドルと見込まれ、CAGR11%で成長し、2030年までに327億ドルに達すると予測されている※4。GAFAMをはじめとする大手IT企業による継続的な技術革新が背景にあり、アグリテック分野の発展を後押ししている。欧米では広い農地を管理するための農薬散布や除草を行うドローン・ロボットや、都市部のビルを活用する植物工場など新たな形の農業がスタートアップによって生み出されている。また、農業を主要産業とするインドは、アグリテックの導入により生産性・賃金向上を目指している。同国では小規模農家が多いことや業務の非効率性が課題となっており、農業の効率化にスタートアップが大きな役割を果たしている状況だ。具体的には、AIや機械学習を用いた農場管理SaaSや、農作物のサプライチェーン最適化に取り組むスタートアップなどが多数登場しており、アグリテックへの投資額は世界3位となっている※5。
担い手不足解消へ、スマート農業が本格化
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※プレスリリース情報に基づく
国内のアグリテックの市場規模は、2024年度に前年度比109.9%の約332億円に達すると見込まれ、2030年度には約789億円に拡大すると予測されている※6。5Gによる通信環境の整備や、日本版GPSの強化などにより、高精度の画像や測位情報が入手できるようになり、ロボット農機やリモートセンシングなどがさらに普及することが見込まれている。
国内では農業従事者の高齢化や担い手不足、技術継承の難しさが深刻な課題となっている。アグリテックの導入によってこれらの課題に対応する動きはあるものの、ロボットやシステムの導入コストの高さや、農業従事者のICTリテラシー不足などの要因により、欧米と比較すると普及が遅れている。こうした状況を受け、政府は2024年10月より「スマート農業技術活用促進法」を施行し、アグリテックの活用促進と、それに適した生産方式への移行を政策的に後押しする方針を打ち出した。この法律により、アグリテックの導入を行った農業者や、アグリテックの開発・製品の供給を行う事業者に対して、融資や税制上の優遇措置が新たに導入される。スタートアップにとって、これらの施策はさらなる追い風となることが期待される。
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本セクターの、2024年従業員数ランキング(2023年12月から2024年12月までの期間を集計)と主要なカテゴリーに属する国内外のスタートアップの動向、掲載企業の一覧は KEPPLE DB でご覧いただけます。
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※1 国土交通省 国土交通白書 2020 第3節 国際環境に関する予測 1 我が国を取り巻く国際環境
※2 農林水産省 2050年における世界の食料需給見通し
※3 The Business Research Company 農業の世界市場レポート 2024
※4 Fairfield Market Research Agritech Market
※5 India Brand Equity Foundation Promising Investment Prospects in Agritech
※6 矢野経済研究所 スマート農業に関する調査を実施(2024年)
Writer

高 実那美
株式会社ケップル / Data Analysis Group / Database Division / アナリスト
新卒で全日本空輸株式会社に入社し、主にマーケティング&セールスや国際線の収入策定に従事。INSEADにてMBA取得後、シンガポールのコンサルティング会社にて、航空業界を対象に戦略策定やデューディリジェンスを行ったのち、2023年ケップルに参画。主に海外スタートアップと日本企業の提携促進や新規事業立ち上げに携わるほか、KEPPLEメディアやKEPPLE DBへの独自コンテンツの企画、発信も行う。