株式会社RICOS

人工知能(AI)とシミュレーション技術を組み合わせた設計支援ソフトウェアを開発する株式会社RICOSは、2025年7月、XTech Venturesなど複数のベンチャーキャピタルや金融機関を引受先とした第三者割当増資および銀行借り入れにより、総額約6億円の資金調達を完了した。調達した資金をもとに、AI-CAE(Computer Aided Engineering)ソフトウェアの開発強化と、海外展開の加速を進める。
RICOSは2015年設立。AIを用いたシミュレーションアルゴリズム「IsoGCN」や、同技術を搭載した高速シミュレーションソフトウェア「RICOS Lightning」、設計の自動最適化が可能な「RICOS Generative CAE」などを提供している。これらの製品は自動車、機械、重工、電機といった幅広い製造業の現場で活用されており、近年は土木建築資材メーカーにも導入が広がっている。たとえば、自動車部品メーカーでは新型部品の設計プロセス短縮に、電子機器メーカーでは放熱設計の最適化に利用されるなど、技術競争力とコスト削減を両立するソリューションが評価されている。
IsoGCNは、従来のCAE(コンピュータによる工学設計支援)で課題となっていた「計算時間の長期化」や「複雑形状への対応」に対し、AIを活用することで大幅な時間短縮と柔軟な設計シナリオ対応を可能にする。従来であれば数日を要していた自動車の空力解析や電子機器の熱設計などのシミュレーションを、数分程度で完了できる実績もある。さらに、3Dデータの処理能力や外挿予測の高精度化、専門知識を必要としないユーザーインターフェースが特徴となっており、設計現場の人的リソース不足にも対応する。
代表取締役の井原遊氏は、国内外でエンジニアとしての経験を積んだ後、AIとCAE技術の融合によるものづくりの効率化を志向し、2015年にRICOSを創業した。ものづくり現場への深い理解と、実務に即した技術開発力を備えている点が強みだ。
製造業の設計開発は、近年、高強度化や省エネルギー化への対応、開発リードタイム短縮、試作コスト削減といった課題が顕在化している。経済産業省の調査によると、日本の製造業全体のデジタル化(DX)推進率はまだ低い状況であり、設計・生産現場のさらなる効率化ニーズが高まっている。従来型のCAE市場は数十億から数百億円規模で推移してきたが、近年はAI技術の進展を受け、国内外で競争が激しくなっている。国内ではトヨタやマツダなどがAI活用による車両開発効率化を進めており、海外でもAnsysやSiemensなどがAI-CAE分野へ積極的に参入している。
今回の資金調達を受け、同社は開発エンジニアやビジネス開発人材の採用強化、AIシステムの機能拡張、海外展開の推進などに取り組む方針だ。主力製品の「RICOS Lightning」は、ダイキンなど大手メーカーで圧縮機設計の効率化や生産性向上に導入されており、自動車部品・樹脂成形・電子機器分野での横展開も進んでいる。
今回の資金調達の主な引受先はXTech Ventures、mint、DRONE FUND、UT創業者の会ファンド、山梨中銀経営コンサルティング、広島ベンチャーキャピタルなどである。また、北國銀行が融資で協力した。RICOSは今後、「RICOS Lightning」「RICOS Generative CAE」など主力製品の開発強化とともに、AIアルゴリズムの精度向上や適用範囲の拡張に注力する方針を示している。
AI-CAEの導入は、設計現場の人材不足や複雑な製品開発案件の増加といった産業界の課題解決に寄与する技術分野である。一方、大手企業では独自開発や既存システムの継続利用も散見され、AIシミュレーション技術の現場実装や事業成果への直結には一定の課題も残る。今後は、RICOSによる事業展開や資金投下の進捗、また国内外のAI-CAE市場での競争動向が注目される。