AIを活用した運用計画の自動最適化ソリューション「Optium」を提供する株式会社ALGO ARTISが、第三者割当増資および金融機関からの融資による6.9億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドでの引受先は、UTEC、みやこキャピタル、ココナラスキルパートナーズ、Sony Innovation Fund、DIMENSION、横河デジタル、多田尚弘氏など。融資における借入先は、商工組合中央金庫、日本政策金融公庫など。
今回の資金調達により、人材採用やOptiumの導入体制を強化する。
複雑な運用計画を自動で最適化
Optiumは、生産や配船などの複雑な運用計画に特化した計画最適化ソリューションだ。独自のAIにより自動で最適化することで、収益改善やCO2排出量の削減、計画作成における属人化の解消を実現する。
これまで生産や配船などの運用計画の作成は、その複雑さから、従来のシステムでは求められる精度の計画作成には不十分だった。そのため熟練の担当者がアナログな手法で、膨大な工数をかけて計画を作成していることも多く、属人化が問題視されている。
同社は、世界的コンテストでの実績を持つアルゴリズムエンジニアのチームを強みに、現場の運用や課題に対して柔軟に対応することで、複雑な条件を考慮した計画を数分で作成するソリューションを提供する。
関西電力では、同社ソリューションにより燃料運用計画の策定を従来より9割以上短い15分以内に実現。また日本製紙でも、効率的な配船計画により年間数億円の輸送コスト削減と、海上輸送に伴うCO2などの温暖化ガス排出量を約3%削減できる見込みだ。
2023年8月時点ですでに4社がOptiumの運用を開始しており、今後も技術基盤の強化や、知見を活かした新規サービスの開発を目指す。
今回の資金調達に際して、代表取締役社長 永田 健太郎氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
業務の属人化を解消
―― これまで、配船や生産計画の策定にはどのような課題がありましたか?
永田氏:電力や製造、物流などの社会を支える産業では、複雑な運用計画の作成が日々行われています。多くの条件を考慮する複雑な業務でありながら、従来のシステムでは単純な運用業務における計画作成が限界でした。
そのため多くの企業では、少数の経験豊富な担当者がExcelなどのツールを使用し、独自の方法で計画を作成、管理している事例がよく見られます。特定の人に依存してしまうため、その人が退職などでいなくなる際のリスクも無視できません。
こうした計画は事業コストの最小化や、近年ではCO2の排出量を削減するうえでも非常に重要です。最適な計画を策定することで、大きな工場では年間数億円から数十億円ものコスト削減につながります。このように重要な計画の策定は本来、人間が行うのではなくコンピューターで解決すべきです。
―― Optiumの強みや特徴を教えてください。
Optiumは、日々変わる条件も考慮しながら、短時間で最適な計画を策定することができます。1人が毎日4時間かけて2週間分の計画しか作成できなかったものが、約30分で3か月先まで作成することができるなど、大幅な時間短縮が可能です。
また、企業によって何が最適かは異なります。欠品を最小にする、CO2排出を最小にするなど、さまざまなケースのシミュレーションができます。策定した計画をもとに、人手で微調整することもできますが、微調整すら不要な最適解を導き出すことが目標です。
これらを実現するために、当社は「ヒューリスティック最適化」という技術を活用しています。この技術は複雑な制約条件の考慮や、日々変わる運用に対して柔軟に対応が可能な一方で、実際の現場で起きる課題に落とし込んで扱うことは非常に困難です。
当社は、世界的にも実績のある優秀なアルゴリズムエンジニアたちが在籍しています。トップレベルのチームが、日々現場レベルで生じる運用変更や課題に対して、泥臭く問題解決に取り組んでいることが複雑な運用計画の最適化を可能としています。
―― 創業のきっかけを教えてください。
大学では宇宙物理学を学び、博士号を取得しましたが、研究者の道を選ばずに社会に出る決断をしました。社会を支える産業に貢献したい気持ちもあり、製造業向けに先進的な取り組みを行うインクスに入社しました。その後、民事再生をきっかけにDeNAに転職したことが大きなきっかけです。
DeNAでは、新規事業の立ち上げに携わっていました。エンタメ領域に限定せず、自由に検討していいというチャンスに恵まれたんです。インクスで、伝統的な技術とITの融合が生産性の向上に革命をもたらすことを目の当たりにした経験から、自然と社会を支える企業にヒアリングするに至りました。
その中で、Optiumの前身となるようなプロジェクトを立ち上げ、関西電力の業務課題に対してAIを活用したソリューションを提供していました。ニーズがあることを確信し、世の中を変えるポテンシャルを感じる経験でした。一方で、事業として成長角度の高い環境でスピード感をもって取り組み、DeNAに恩返しをするためにも、スピンオフして会社を設立する判断をしました。
成長と生産性向上への挑戦
―― 資金調達の背景や使途について教えてください。
前回の資金調達は、DeNAからスピンオフするタイミングでの調達でした。それから2年間で、これまでプロジェクトベースで進めていたOptiumを事業化することに注力した結果、運用も4件と事業として確立することができました。
体制を強化し、今後の事業を着実に成長させるために資金調達を行いました。Optiumを伸ばすために、人材採用は積極的に進めながら組織を強化していきます。
また、Optiumを効率よく運用していくための取り組みも行います。これまではプロジェクトベースで、お客様ともチームとしてかなり密に連携することで、優れたソリューションを創り上げてきました。今後はビジネスとしても効率よく、お客様への負担も軽減しながら、運用開始までの期間を短縮していく必要性を感じています。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
Optiumは運用の効率化も通じて、すぐにでも導入数を3倍程度に増やすことを目指しています。また、これまでのプロジェクトの経験を活かした、新規事業の推進も予定しています。運用計画最適化のノウハウをベースに、ある程度絞り込まれた業種や業務課題を汎用的に解決するプロダクトをイメージしています。これから1年以内に、事業として確立させるためにPMFを達成することが目標です。
我々はスタートアップとして世の中を変えるうえで、社会基盤の最適化をミッションとして掲げています。これまで、計画を作るという行為自体を当たり前に人が行っていたことが不自然だと考えているんです。複雑な作業を当たり前にコンピュータが行うような未来に向けて取り組んでいきます。
プロジェクトにはリスクがつきもので、100%成功するかはわかりません。一方で、工夫を凝らし、ある程度の失敗リスクを許容しながら次に活かしていくことでしか、成果は得られません。こうした繰り返しが、業界を率先する先進的な取り組みにつながるはずです。当社の顧客である大企業にも、新技術を柔軟に取り込んでいけるよう、伴走して支援していきたいと思います。
株式会社ALGO ARTIS
株式会社ALGO ARTISは、AIのコンサルティングおよびソリューションの提供を行う企業。 同社では、プラントやロジスティクスのスケジュール管理を始めとする管理業務を対象とし、アルゴリズム・デザイン・機能を設計・実装している。 実装の過程ではプロトタイプを提供し、課題を抽出・改善することで現場への導入を行う。
代表者名 | 永田健太郎 |
設立日 | 2021年7月6日 |
住所 | 東京都千代田区東神田2丁目8番16号 |