元自衛官が挑む防衛DX──スカイゲートテクノロジズが10億円調達で目指す日本の安全保障革新

元自衛官が挑む防衛DX──スカイゲートテクノロジズが10億円調達で目指す日本の安全保障革新

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防衛省・自衛隊出身者によって創業された防衛テックスタートアップ、スカイゲートテクノロジズ株式会社が6月27日約10億円の資金調達を発表した。同社は防衛用製品およびセキュリティ用製品の開発・提供を行い、「存続可能性に関する課題を解決する」ことをミッションに掲げている。

今回の資金調達には、新規投資家としてジャフコグループ、三菱UFJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、りそなキャピタルの4社が参画。既存投資家の慶應イノベーション・イニシアティブ、ジェネシア・ベンチャーズに加え、みずほキャピタルも既存株主として名を連ねている。

同社は現在、防衛省向けの宇宙防衛関連事業と民間企業向けのセキュリティ事業を半々の比率で展開。代表取締役の粟津昂規氏は元陸上自衛官で、情報通信とサイバーセキュリティを専門としていた。2025年には航空自衛隊から「宇宙システムにおけるセキュリティ標準ガイドラインの作成」事業を受注するなど、着実に実績を積み重ねている。

粟津氏に事業内容や創業背景、今後の展望について話を伺った。

防衛とソフトウェアの融合で課題解決に挑む

――御社の取り組む事業について教えてください。

粟津氏:  弊社は元防衛省・自衛隊の自衛官によって創業された防衛テックスタートアップです。

事業構造は2本柱で、政府の防衛課題に対応する宇宙防衛関連事業と、民間企業のセキュリティ課題を解決するセキュリティ事業を展開しています。現在は半々の比率ですが、短期的には政府事業を大きく伸ばし、中長期的には民間向け事業でマーケットを獲得していく戦略です。

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民間向けサービス「Cygiene」は、行動データと脅威情報を活用し、信頼性を動的に評価して自由と安全を両立するAI型ゼロトラスト

弊社の核となる技術が「メタモデリング」です。データの意味を二段階で抽象化する技術体系で、不確定で流動的なデータから意味を見出して分析する際に威力を発揮します。サイバーセキュリティや防衛分野では、完全なデータが揃わないことが多いため、様々なデータを組み合わせて多面的に状況を理解する必要があります。この技術がそれを可能にするんです。

メタモデリングをベースに、現在2つの主力プロダクトを提供しています。防衛分野向けの「Skygate JADC2 Alayasiki」は統合領域指揮統制ソリューション、民間企業向けの「Skygate Cygiene」はゼロトラストセキュリティソリューションです。

――事業間のシナジーはどのようなものでしょうか。

技術面と営業面の両方でシナジーがあります。技術面では、どちらの事業も本質的に「未知の脅威を発見する」という共通課題を解決しており、ソフトウェア技術は基本的に同じベースなんです。つまり、一つの技術開発が両事業に活用でき、開発投資を効率化できます。

営業面では興味深い相乗効果があります。防衛省との取引では極めて高度な情報セキュリティが要求されますが、その要件をクリアした製品開発実績が、民間向けセキュリティ事業での差別化要因になっています。海外では防衛・安全保障出身者がセキュリティ企業の経営陣にいることが一般的で、我々も防衛レベルの高いセキュリティノウハウを民間製品に活かしています。

防衛テックにおけるドメイン知識の重要性

――防衛テック事業特有の難しさについてお聞かせください。

最大の難しさはドメイン知識の必要性ですね。金融の課題解決に金融の専門家が必要なように、防衛課題の解決には防衛に関する深い知識が不可欠です。

しかし日本では、防衛の課題を理解できるソフトウェアエンジニアがほとんどいませんでした。弊社の強みは、防衛とソフトウェア両方の知識を持つチームで構成されていることです。

軍事学・防衛学的観点から「何が課題なのか」を理解し、それを「ソフトウェアでどう解決するか」まで一貫して取り組める体制が、我々の競争優位性でもあり、同時に最も困難な部分でもあります。

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防衛領域において、宇宙・サイバー・電磁波領域への統合指揮統制を実現する唯一無二のプラットフォーム

政府との取引も独特の難しさがあります。関係するステークホルダーが非常に多く、商談期間も最低1年以上。相当な営業体力と事業開発力が求められます。

特に防衛省は他省庁と比べても入札手続きが極めて複雑で、セキュリティ要求も厳格なため、通常の企業では参入困難な領域です。ただし弊社には防衛省出身者が多く在籍しているため、こうした特殊環境への理解の深さが大きなアドバンテージになっています。

――国内外の防衛テック市場で、どのようなポジショニングを目指していますか。

単純に防衛課題を解決するだけでなく、3つの軸で取り組んでいます。

1つ目は防衛課題のソフトウェアによる解決。ただし、それだけでは本当に安全で安心な日本社会は作れないと考えています。

2つ目は防衛テックエコシステムの構築です。アメリカを見ると、ロッキードマーティンのような大手防衛企業がある一方で、マイクロソフト、スプランク、パランティアなど多様な企業の製品が連携し、巨大なエコシステムを形成している。そこで生まれた技術やノウハウが、より広く社会課題解決にも活用されています。

しかし日本にはそうした市場や資金循環の仕組みがなく、防衛分野が非常に限定的な領域に留まっているのが現状です。

3つ目として、様々な企業とパートナーシップを組んで防衛課題を解決し、そこで蓄積したノウハウや技術を民間分野にも展開。日本全体の安全と社会の強靭化に貢献したいと考えています。

弊社はこうした取り組みの旗振り役、リーダーカンパニーを目指しており、これが従来の大手防衛産業とは異なるポジションです。

スタートアップスカウト

自衛官、freee、そして防衛テック起業家へ

――元自衛官からスタートアップへと転じた珍しいご経歴をお持ちですね。

実は防衛省・自衛隊がファーストキャリアではありません。大学時代に小さな会社を起業して事業をやっていた経験があります。その頃から「大きな組織をどう作るべきか」「多くの人が集まって大きな課題を解決するとはどういうことか」に興味を持っていて、そこでたまたま出会ったのが防衛省・自衛隊でした。

国家公務員試験を受けて入省し、制服を着て一自衛官として勤務しました。当時から日米共同訓練などの任務に就くことが多く、その際にカウンターパートであった米軍の方、国防総省の方がよく「これから安全保障はテクノロジーで大きく変わっていく。特にスタートアップがここで大きく進出してきて、ミリタリーとディフェンスの形が急激に変化していく」と話していたことが印象に残っています。

加えて印象的だったのは、政府という巨大な仕組みが適切な予算を使うことで、社会に大きなインパクトを与えられるということを実感したことです。これが現在の事業の原点になっています。

いずれは事業会社に戻るか起業しようと考えていた時、freee株式会社から声をかけていただきました。ちょうど会計ソフトと銀行を接続するための法整備とソフトウェア開発を進めている時期で、「まさにこれだ」と思ったんです。

スタートアップの力で社会が変わる可能性があるけれど、法制度や政府の対応が追いついていない。その仕組みをアップデートすることで、誰もが金融機関の明細を会計データに取り込んで効率化できる社会を実現できる。そんな社会的インパクトに魅力を感じて参画しました。

――どのような経緯でスカイゲートテクノロジズを創業されたのですか。

2019年12月のfreee上場を機に、次の事業の準備を始めました。防衛分野で大きな変革をもたらしたい、かつ、社会全体が納得できる形で大きなインパクトを生み出したいと考えていました。

ただ、当時は投資家から防衛事業に対して非常にネガティブな反応をいただいていました。ESG投資の流れで兵器製造への投資が禁止されている中、「防衛は理解を得るのが難しい」とよく言われました。

そこで最初は宇宙分野に市場機会を見出し、宇宙事業会社として創業したんです。

しかし、2020年2月からのコロナ禍で状況が激変しました。創業当初からオンラインでの資金調達を余儀なくされ、アセット・ものづくり型のビジネスモデルだった弊社は、製造やオペレーションが当初計画から大幅に遅れることになりました。

大きな転機は2022年です。ロシアのウクライナ侵攻と岸田政権による安全保障文書改訂を受けて、既存のお客様から防衛・安全保障領域での相談を受けるようになりました。また、防衛省時代の同僚や先輩後輩からも具体的な相談が増えました。

まさにこれがリアルな課題だと実感し、この分野の問題を解決する会社へとピボットしようと決断したのが2022年頃です。

100億円企業を目指し、日本の安全保障基盤を強化

――今回の資金調達の背景と用途について教えてください。

資金用途は主に開発投資と人材確保です。2025年に航空自衛隊から「宇宙システムにおけるセキュリティ標準ガイドラインの作成」事業を受注するなど、事業進捗が好調なことが調達の背景にあります。

一方で、この事業は企業として相当な体力を要するため、財務基盤と人材面での強化が喫緊の課題でした。プロダクト開発も非常に高い要求水準があるので、より強力なエンジニアを揃える必要があります。そうした原資として今回の調達を実施しました。

――今後連携していきたい業界や企業について教えてください。

基本的にはグローバルな視点で事業を考えていますが、日本が抱える構造的課題も意識しています。例えば、デジタル分野での貿易赤字や、ソフトウェアのサプライチェーンで海外企業に依存することで生じるコスト負担という脆弱性です。

そこで今後は、デジタル赤字の解消を目指す企業や、国産ソフトウェア技術を海外展開していける企業との連携を重視したいと考えています。防衛イノベーション分野で実績を積み重ねながら、様々な企業と相互パートナーシップを築いていく方針で、幅広い業界・企業との連携に門戸を開いています。

――中長期的な目線での目標はありますか。

政府部門では落札総額、民間部門では年間経常収益(ARR)をそれぞれ重要なKPIとして設定しています。現在はまだ小規模ですが、両部門ともに10億円単位の事業規模への成長、さらにその先の100億円単位のための基盤づくりが重要なポイントです。

単なる売上拡大ではなく、防衛テックエコシステム構築という大きな使命があります。我々が旗振り役となって様々な企業の知恵を結集し、防衛で培った技術を民間分野にも展開していく。そうすることで、日本全体の安全性と社会の強靭化に貢献したいと考えています。

海外展開では北欧諸国と東南アジアを重点地域として、類似する安全保障課題を抱える国々や、経済成長著しいアジア市場での事業拡大を目指します。

防衛とセキュリティという2つの事業を通じて、お客様そして社会全体の「存続可能性」に貢献する──これが私たちの使命です。

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