AI時代のエンジニア育成で変化適応を支援する株式会社amoibe、シードラウンドで1億円を調達

AI時代のエンジニア育成で変化適応を支援する株式会社amoibe、シードラウンドで1億円を調達

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株式会社amoibe(読み:アモイブ)は、ジェネシア・ベンチャーズ、ANOBAKAより総額1億円の資金調達を第三者割当増資により実施したことを発表した。同社が運営するエンジニア育成サービス「amoibeOJT」は、仮想環境でのOJTとAIメンターの組み合わせによって、従来よりも大幅に短期間でのスキル習得を実現している。

ChatGPTやCursorなどの開発支援AIの台頭により、エンジニアの業務が再定義される過渡期を迎える中、同社は「AI時代のエンジニア育成構想」を掲げ、AIと協働できるエンジニアの育成に注力している。2024年のサービスリリース以降、大手SIerやSES、エンジニア派遣会社を中心に急速に導入が進み、受講後の単価向上や待機解消などの成果を上げている。

なお、同社は2025年6月24日に社名を株式会社ドットライフから株式会社amoibeに変更。サービス名も「デジタルOJT」から「amoibeOJT」にリブランディングすることを発表した。これは「AI時代のエンジニア育成」という新たなビジョンに合わせた戦略的な刷新の一環だ。

事業概要や今後の展望について、代表取締役CEOの新條隼人氏にお話を伺った。

見えない不安を"仮想環境での実務体験"で払拭するしくみ

──御社の取り組む事業について教えてください。

新條氏: 端的に申し上げると、エンジニアの育成サービスを法人向けに提供しています。エンジニアを取り巻く環境が、いま過去最大のゲームチェンジを迎えているんです。開発支援AIの台頭によって、創業3年で企業価値1.4兆円を超えたCursorのような企業も登場しています。

一方で、マイクロソフトやSalesforceなどグローバルリーダー企業でエンジニアのレイオフや採用停止が始まっている。ついこの間まで「エンジニアが足りない」と言われていたのに、エンジニアの仕事の再定義が起こっています。

日本特有のSIer中心の外注・多重下請け構造も、AIの台頭によって商流に大きな変化が起こると予想されます。AIは設計以下のプログラミングやテストといった中下流工程を得意とするため、これまで多重下請けの下層で担ってきた業務がAIに代替される可能性があるんです。その結果、従来の商流構造そのものが維持できるのかという課題に直面しています。

そのような状況に対して、我々は「OJTのDX化」のサービス提供を開始しました。仮想空間上での実践型トレーニングに、AIメンターと人間のメンターが伴走することで、従来よりも圧倒的に早くエンジニアを育成できる仕組みを構築できています。

市場環境図
日本の特徴であるSIerを中心とした外注・多重下請け構造も、AIの台頭によって商流に大きな変化が起こることが予想される

具体例としては、医師のトレーニングがわかりやすいかもしれません。実際の執刀に入る前に、ARやVRを活用して血管バイパスの手技を何度もシミュレーションするプロセスが導入されています。高い技能が求められ、ミスが許されない分野では、このようにデジタル環境でのOJTが一般的になってきているんです。

私たちのプログラムでも、受講者は実務に近い形で「案件」に取り組むことができます。たとえば「ドローン製造会社の在庫管理システムを開発するプロジェクト」といったテーマをもとに、60〜120時間にわたって実践を積めるんです。

プロジェクト内では、現場で実際に使われているツールや手法を導入しています。Backlogでタスク(チケット)を受け取り、WBS(作業分解構成図)を作成し、Asanaで進捗を管理。そのうえで、画面設計や機能開発といった成果物を自身で作成し、メンターからのレビューを受けながら実装を進めていく形式です。

単なるeラーニングのように正解を選ぶだけの学習ではありません。まるでリモート開発の現場に加わっているかのような環境の中で、日報の提出や不明点の相談、納期調整、質問の仕方など、実務で求められるソフトスキルも自然に身につけていくことができます。

──主な顧客層と導入実績は。

基本的にはSIer、SES、エンジニア派遣会社がメインの顧客です。現在の導入企業の47%が1000名以上の企業で、エンタープライズでの受注が非常に増えています。

例えば、パーソルエクセルHRパートナーズ(パーソルとパナソニックの合弁会社、以下パーソルエクセル)では、未経験エンジニアの方が採用後になかなか案件にアサインできない「待機」の課題がありました。amoibeOJTを15営業日受講していただいた結果、それまで案件が決まらなかった方が実際に案件参画を実現し、しかも設計工程から現場に入ることで相応の単価も取れるようになったという成果が出ています。

料金体系は、基本的には一人当たりの課金モデルです。初期費用に加えて、OJTの利用料として一人いくらという形で、ボリューム割引も適用されます。例えば30万円(60時間コース)、50万円(120時間コース)といった設定で、受講者のスタートラインによって時間数が変わります。

完全なSaaSで毎月課金というよりは、まとまった期間での契約ですが、年次や期間単位でリピートしていただくことが多いです。例えば、パーソルエクセルでは、エンジニア未経験採用の求人票に「amoibeOJTをやります」と具体的に記載していただいたり、大手SIerでは新卒の基礎研修後の現場配属時に必ず弊社のOJTを行うといった活用をされています。

従来の「案件ガチャ」「上司ガチャ」を解消

──従来のOJT、他の学習サービスとの違いは。

従来型のOJTと比較した際の最大の特徴は、「再現性」と「品質の一貫性」にあります。現場でよく行われているOJTには、「案件ガチャ」や「上司ガチャ」と呼ばれる偶発的な要素が存在します。「案件ガチャ」は、配属されたタイミングやプロジェクト内容によって習得できるスキルが大きく左右されてしまい、思うように成長できないケースがあるという意味です。一方、「上司ガチャ」は、担当する上司の指導力や関与度の差により、育成の質にバラつきが出てしまう状況を指します。

私たちのプログラムでは、そうした属人的な変動要因を極力排除しました。たとえば、自動車教習所のように、受講者全員が「駐車」「坂道発進」などの基本操作を確実に経験してから次のフェーズに進めるよう、事前に学習カリキュラムを設計しています。これにより、学習の進捗や質に大きな差が出にくくなり、成長の速度にも一定の安定性が生まれるんです。

プロダクト イメージ
初めての業務工程や技術を仮想環境で再現し、AIメンター・ヒューマンメンターの伴走により実務経験に近い形でスキル習得を支援

また、メンターからのフィードバックにも共通の評価指標を設けています。30項目から構成される評価軸をもとに、各工程で点数とコメントを記録し、受講者に共有します。通知表のような形式で振り返りを行えるため、評価の内容に主観的な差が生じにくく、公平性の高い育成環境が実現できる仕組みです。

他の学習サービスと比較した場合、当社の強みは「実務に直結するスキル」と「成果物の活用性」にあります。たとえば、ある大手の人材派遣会社では、エンジニア1人あたりに2万円の予算を配分し、オンライン学習サービスを自由に使える環境を整えていました。しかし、それだけでは実務力の証明が難しく、派遣単価の上昇にはつながりにくいという課題がありました。

その点、当社のデジタルOJTでは、約60時間にわたる実践コースを4ヶ月間かけて完了した受講者において、実際に単価が上がるケースが報告されています。中には、保守・運用フェーズから設計などの上流工程へステップアップできた事例も見られました。この成果の背景には、「現場でしかエンジニアは育たない」という前提があります。仮想空間で現場に近い環境を再現することで、技術面だけでなく、報連相や納期管理といったソフトスキルの習得も可能となっています。

さらに、受講者が作成したソースコードや、メンターからの評価コメントは、そのまま営業資料として転用できます。自己申告ベースのスキルシートに比べて信頼性が高く、実務での説得力もあるため、営業現場でも重宝されているのが実情です。

スタートアップスカウト

創業の原点は「人の変化適応を支援したい」という想い

──創業の背景について教えてください。

新條氏: 起業したのは2014年、私が社会人2年目・24歳のときです。当時は明確なビジネスプランがあったというより、周囲の友人を見て「人が自分の人生を主体的に選び取る」ことに対して価値を提供したいという想いに突き動かされ、ビジョンドリブンで独立しました。

進学校ではない環境から国立大学に進学した経験のためか、進路講演で話す機会をいただくことがありました。そのとき「どうやって大学に合格するか」だけでなく、「専門学校、留学などいろいろな道もある」とお話したことが、ある生徒の進路に大きな影響を与えたと聞いたんです。

この経験を通じて、特定の進路を勧めるよりも「判断軸を示すこと」が人の人生を動かす力になり得ると実感しました。それが私の原体験であり、「人の人生を大きく変えるような仕事がしたい」と思うようになったきっかけです。

──最初のキャリア支援メディアから、なぜ現在の事業に転換したのでしょうか。

初期に立ち上げたキャリア支援メディアは、熱量の高いユーザーからの反響を得て、一定の収益化には成功しました。ただ、社会に大きな変化をもたらすようなスケーラビリティには課題があり、スタートアップとしての意義を問い直すことになりました。

その結果、2022年末に事業内容を転換。取締役の退任、ベンチャーキャピタルからの株式買い戻しも含め、実質的にゼロからの再スタートを切りました。私たちはこのフェーズを「再創業」と位置づけ、自身の経営スタイルも含めて見直すことに取り組んできました。

ちょうどその頃、岸田政権による「5年で1兆円」のリスキリング支援方針が打ち出され、市場が大きく動き始めたんですね。個人のキャリア選択を支えるという原点とも接点の深い領域であり、社会的な意義と市場性を兼ね備えた分野だと確信しました。

まずはBtoB向けのリスキリングメディアを立ち上げ、国内外の事例を徹底的に調査。蓄積した知見を活かして、自社プロダクトの開発にも着手しました。現在はメディア事業を売却し、育成プロダクトにリソースを集中しています。

──なぜエンジニア領域を選んだのでしょうか。

正直に言うと、日本で「リスキリング」と聞くと、まだどこか学び直しくらいのライトな響きで受け取られがちです。でもアメリカでは、ジョブディスクリプション(JD)に沿ったスキルを持たないと給与が上がらない「ジョブ型」雇用が主流です。「この仕事がしたい」と思ったら、死に物狂いで勉強します。

日本企業では「人材投資がどれだけ成果に結びつくか」が見えづらいため、リスキリングへの踏み出しにくさが根強くあります。ただ、ITベンダーのエンジニア領域においては、研修に100万円かけたとしても、そこで120万円分の利益が出るというROIの計算が可能です。この明確さが、企業側にとっても納得感を持ちやすいポイントでした。

しかも今、エンジニア不足が続く中で未経験者の採用も増えています。ただ、その裏では経歴詐称などの問題も起きていて、業界全体が大きな変化にさらされています。だからこそ、今まさに介入すべき領域だと感じたんです。

市場課題 イメージ
日本のエンジニアの多数を占める従来型IT人材は、一部のレガシー案件を除き、業務をAIに代替される危機があり、リスキリングが急務

AI時代に残るエンジニアを育成する新構想

──今回の資金調達の目的と今後の計画は。

今回の調達資金は、大きく2つの目的に投資する計画です。ひとつは、AIメンターの開発強化。もう一つは、そのプロダクトをより多くの企業に届けるためのマーケティング施策となります。

すでに複数のクライアント企業で導入が進んでおり、月次売上の成長率、受注率、NRR(売上継続率)など、主要な指標は非常に良好な状況にあります。特にチャーン(解約率)が極めて低く、多くの企業が継続利用に加え、利用人数の拡大も進んでいます。この状況から、プロダクトの提供価値が現場でしっかりと実感されていることが分かります。

これまでは主にITベンダーを中心に展開してきましたが、今後はユーザー企業側、特にDXやAX(AIトランスフォーメーション)に取り組む企業にも提供を広げる方針です。エンジニア育成やAI活用に課題感を抱く企業が、IT業界以外にも広がり始めているのを実感しています。

次のシリーズAラウンドは年末から来年3月頃と、早く感じるかもしれませんが予定しています。AIメンターやオートメーション化の検証が見えてきて、むしろ我々としては踏み込んでいけるという状況になってきています。

ジェネシア・ベンチャーズとは「AIによってSIerはどう変わるのか」という視点で議論を重ねてきました。ANOBAKAも生成AI領域への注力ファンドとして、社会変革を見据えた投資方針が我々の方向性と一致しており、パートナーシップとして非常に強固な基盤が築けていると感じています。

──今後の事業展開について教えてください。

今後の事業展開には、大きく分けて4つの方向性を考えています。

1つ目は、現在注力しているエンジニア育成市場でのシェア拡大です。既存の導入実績を基盤に、より多くの企業・個人に価値を届けるフェーズへ進んでいきます。

2つ目は、医療・福祉といった他業種への展開です。慢性的な人手不足とリスキリングの必要性が高まる中、未経験人材の即戦力化や省人化に関する課題は各業界に共通しています。エンジニア領域で蓄積してきたノウハウを応用し、業種横断的な価値提供を目指します。

3つ目は、ITベンダー領域におけるバーティカルな深化です。将来的に、AIをマネジメントする少数精鋭の人材が複数案件を横断的に見る構造へと移行していくと予測しています。その未来を見据え、先回りして人材育成の仕組みを提供していきたいと考えています。

4つ目はグローバル展開です。近年は、海外エンジニアの日本企業へのオンボーディング支援に関する相談が増えており、たとえばミャンマーの方がビザ取得中にOJTを実施できないかといった具体的なニーズも出てきています。実際に私たちのサービスは、そうした状況下での実務トレーニングや、日本のチームで働くためのソフトスキル習得にも活用されています。

グローバル市場では、人材投資に対する本気度が日本とは段違いです。興味深いのは、オンライン学習サービスの創業者たちが「eラーニングで人は育たない」との問題意識を持ち、実践型の育成サービスを次々に立ち上げていること。私たちもこの流れの中で、仮想環境OJTという手法が世界的に見ても重要なテーマであると確信しています。グローバル市場の本丸ともいえるテーマであり、今後さらに注力していきたい領域です。

弊社は一度モメンタムを失った経験があるからこそ、今回の再挑戦では「小さく着地する」という選択肢はありません。スタートアップとして、社会に明確なインパクトを与えられる規模感を目指していきます。私たち自身の歩みを通じて「スタートアップは何度でも挑戦できる」「やり直しはきく」というメッセージを示していきたいです。

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