株式会社Cellest

ライブコマース専門事務所「セレスト」やライブコマース専用ECモールアプリ「WABE」を運営する株式会社Cellestは、今年5月、複数の金融機関からデットファイナンスによる累計9.4億円の資金調達を実施したと発表した。調達資金は「WABE」の開発・運営、マーケティング費用、事業成長に伴う人員・設備投資に充当する。

Cellestは2019年7月に設立された大阪発のスタートアップ企業で、「ライブコマースのインフラ化」を目標に掲げている。代表取締役CEOの佐々木宏志氏は、高校卒業後に2年間勤めた会社を退職し、同志社大学へ進学。在学中の2017年にライブコマースを始め、卒業後の2019年に同社を設立した。
佐々木氏は事業について「事業を二つやっておりまして、一つ目がライブコマースのプロデュースとマネジメントを行うライブコマース専門事務所というのを運営しております」と述べている。同社の主要チャンネルである「ゾウネコチャンネル」「アヒルのライブマーケット」について「二つ合わせてライブコマースだけで2億円以上、月間2億円以上の販売をしております」と業績を明かした。
創業背景について佐々木氏は「2017年からライブコマースを始めましたが、メルカリや楽天など複数のプラットフォームが相次いで撤退し、世の中からライブコマースのプラットフォームがなくなってしまいました」と振り返る。この状況を受けて「自分がこの業界のトップランナーで一番詳しいから、自分だったらいいアプリ作れるんじゃないかと思って作ろうと思った」と、自社でのプラットフォーム開発を決意した経緯を明かした。
ライブコマースは、ライブ配信とオンライン販売を組み合わせた新しい販売手法で、中国では2025年に市場規模が約42.7兆円(人民元)に達すると予測されている。日本では2017年にライブコマースが始まったが、大手プラットフォームが相次いで参入と撤退を繰り返す状況が続いていた。しかし、2025年は「ライブコマース元年」と呼ばれており、ユニクロの「UNIQLO LIVE STATION」の年間累計視聴者数が1000万人を突破するなど、大手企業の参入成功例が相次いでいる。
日本のライブコマース市場について佐々木氏は「2017年にこの業界に入ってからずっと『はやるはやる』と言われながら、実際にはなかなか普及してこなかった。しかし今年はむちゃくちゃ流行った」と2025年が転換点になったとの見方を示している。さらに市場規模について「ECとかもしかしたら超えれるんじゃないかってぐらい伸びそうだなと思ってます。今EC化率って多分10%とか13%ぐらいなんです日本って、なんかもしかしたらそれぐらいは超えるんじゃないかなとは感じています」と期待を込めた。
今回の資金調達の主要な用途となるライブコマース専用ECモールアプリ「WABE」は、2025年4月に正式ローンチされた。WABEの強みについて佐々木氏は「僕自身がプレイヤーなんで、とにかく使いやすいというところが一つ目、もう一つが出展者に対して伴走支援ができるというところ、この二つが強みになってます」と強調する。他のプラットフォームが撤退した理由として「プラットフォーマー自体がプレーヤーじゃないから、どういう機能があれば出店者にとってメリットがあるかみたいなの、恐らく分かってなくて」と分析している。

同社の事務所「セレスト」は2024年10月度に月間売上1.3億円を突破し、購入転換率16%、リピート率81%とEC業界でも最高水準の数値を達成している。佐々木氏は同社の強みについて「売るプレーヤーとチームがめちゃくちゃ強い」と話し、「ライブコマースって面白さ50%、エンターテインメントみたいなのが50%で、商品を販売するECとしてのあり方みたいなのが50%ぐらいあって、商品をきれいに販売するだけじゃ面白くないし、エンタメに振りすぎると商品の紹介とかが疎かになる」とエンターテインメント性とEC機能のバランスが重要だと指摘した。
リピート率の高さについて佐々木氏は「売ってる人が面白い、チームも面白い、でいい商品が売ってて、そのいい商品が安い」と要因を挙げ、「セラーがプロだから、あなたにお勧めの商品っていうのを聞かれた時に最適な答えを出せるから、届いた時に本当に良かった、こんなすごい自分にマッチするものって初めてだっていう体験をして、だからもう一回買いに来る」と顧客体験の重要性を力説。同社の顧客は30代から50代の女性が70%以上を占め、会社員・主婦層の隙間時間を狙った「朝配信」導入により成長が加速している。

今回の資金調達では、北國銀行、紀陽銀行、京都銀行、徳島大正銀行、日本政策金融公庫(国民生活事業および中小企業事業)、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行の8金融機関から支援を受けた。
5年以内の目標について佐々木氏は「会社の時価総額と言いますか、企業価値みたいなのを1000億以上にしたいなとまず思ってます」と抱負を述べた。IPOについては「その時点でユニコーン規模であれば、IPOをしないという選択もあるんですが、いずれにせよ1000億以上の評価を狙っている」と方針を示した。
経営ビジョンについて佐々木氏は「僕は社会の労働環境みたいなのに対してすごい課題というか不満を持ってるんです」と問題意識を示し、「自分の作る会社はすごい楽しい会社にして、通常人が働く上でここは嫌だなって思う場所を全て解消したいなって思ってて」と目標を語った。さらに「自分たちの会社がもしめちゃくちゃうまくいって、すごい規模でIPOするとかユニコーン企業になり得た場合に、他の企業にも派生するなと思ってて」と、自社の成功が他企業の働き方改革にも影響を与えることへの期待を込めた。
同社によると、2024年度の年間売上は前年比400%超を達成する見込みで、今後も高い成長率を維持する計画だという。また、UUUM株式会社とソーシャルコマースおよびライブコマース事業の市場拡大を目的とした包括業務提携を締結するなど、事業領域の拡大を図っている。同社は業界課題の解決にも積極的で、アパレル商品で返品サービスを開始し、北陸先端科学技術大学院大学との産学連携により、国内外ライブコマースの業界研究を進めている。
今回の資金調達を契機に、同社は「ライブコマースのインフラ化」という目標に向けて事業展開を加速させていく構えだ。日本のライブコマース市場の拡大に向けた取り組みが注目される。