株式会社さとゆめ

地方創生事業を展開する株式会社さとゆめが、エイチ・アイ・エスを引受先とした第三者割当増資を実施し、5.6億円の資金調達を行った。これにより、同社の累計調達額は関連会社分も含めて約20億円となる。今回の調達と並行し、全国10地域での現地人材派遣体制の拡充にも踏み切る。
さとゆめは2012年に創業。全国50エリア以上で地域活性化プロジェクトの企画・実行支援や、地域資源を活用した事業プロデュースを中心に事業を展開してきた。これまでに、山梨県小菅村での「NIPPONIA 小菅 源流の村」の運営支援や、東京都奥多摩町・青梅市での「沿線まるごとホテル」事業など、複数自治体・地域と連携した多様な再生モデルを手がけている。直近では、宿泊、飲食、コワーキングなど8つの施設を自社および関連会社で運営している。
代表取締役CEOの嶋田俊平氏は1978年生まれ。タイやインドで過ごした幼少期の経験を持ち、環境系シンクタンク勤務を経て、2012年にさとゆめを創業した。嶋田氏は地域課題の現場把握を重視し、計画立案から実行・事業化まで伴走するスタイルを特徴とする。
地方創生分野では、2010年代以降、個人消費の減少や若年層の都市集中により、自治体や地元企業が外部コンサルティングや連携先を求める傾向が強まってきた。専門コンサルや調査会社が乱立する一方で、計画策定から実行・事業化まで一貫して支援できる事業者は限られている。総務省などの推計によると、全国自治体の約半数は消滅可能性都市とされ、持続可能な地方ビジネス構築へのニーズが高まっている。
今回の資金調達により、さとゆめは既存の地域活性化事業の強化に加え、「ふるさと納税運営代行」「越境型人材育成」「不動産投資」など新規分野の事業開発にも本格的に乗り出す。さらに、保有施設の資産効率化を目的としたオフバランス化(所有と運営の分離)に取り組む方針も明らかにしている。
HISとは2024年の資本業務提携以降、現地への社員出向や共同プロジェクト「Destination Create Project(DCP)」を通じて、観光地以外の新たな滞在型地域の開発を推進している。2025年までに10地域で包括連携協定を締結し、既に7地域でHIS出向社員の受け入れを開始している。
調達資金の主な使途は、全国1700自治体での地域事業プロデュースや伴走型コンサルティング、指定管理施設の運営受託拡大、越境型人材育成および地域資金調達ノウハウ強化などが挙げられる。
同分野では、不動産大手や総合コンサル、観光開発会社などが公民連携型の地方プロジェクトに参入している。そうした中、HISの旅行・人材ネットワークとさとゆめの現場支援力を活かした協業体制は、他社との差別化要素となっている。今後は、地域への人材循環や財源循環モデルの確立が、地方創生ビジネスの持続可能性を左右する要素となる。
さとゆめは今後、グループ体制やパートナー企業との連携を強化し、全国規模での事業モデルの拡大に取り組む計画だ。今回の資金調達と連携強化は、地方創生分野における新たな事業展開と現地体制の構築に向けた動きとなっている。