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NEWLOCALがシリーズAで4億円を調達ーー地域自立型まちづくりを10地域へ展開

まちづくり事業を手がける株式会社NEWLOCALが、シリーズAラウンドで総額4億円の資金調達(第三者割当増資)を実施した。引受先はサムライインキュベートがリードし、JR西日本イノベーションズ、JR東日本スタートアップ、KDDI、アグリビジネス投資育成など。これにより、創業からの累計調達額は10億円を突破した。
地方創生を掲げるスタートアップが増えるなかでも、NEWLOCALの取り組みはひときわユニークだ。日本各地のキーパーソンと共に合弁会社(ジョイントベンチャー、以下JV)を設立し、不動産開発を軸にした持続可能なまちづくりを展開している。
創業からわずか3年で、長野県野沢温泉村・御代田町、秋田県男鹿市、京都府丹後、石川県小松市の5地域でプロジェクトを推進。宿泊施設や飲食店など12施設を立ち上げ、50名以上の雇用を創出してきた(うち約半数は移住者)。地域経済にリアルなインパクトを生み出すその手法に、いま注目が集まっている。
代表取締役の石田 遼氏に、地方創生事業に懸ける思いや、今後のビジョンについて話を聞いた。
―― 事業モデルとその特徴について教えてください。
石田氏:NEWLOCALでは、地域に根ざしたまちづくりを進めるため、地元の民間リーダーとJVを設立し、宿泊施設や飲食店、観光施設の開業・運営を行っています。各JVには当社が過半(51%以上)を出資し、社員を現地に派遣。資本と実行の両面からプロジェクトに深く関与する体制を整えてきました。
このモデルにこだわる背景には、「地域に本当に残るのは施設そのものではなく、それを動かす人と意思である」という考えがあります。地域の人々が主体となって未来を描く。そのプロセスに私たちが伴走することこそが、持続可能な経済の土台になると信じています。
この構造を支えているのが、「人・金・知恵」の3つの循環です。
まず“人の循環”。外から多様なスキルを持つ人材が移住し、地元住民と協働することで、新たな価値が地域に流れ込んでいます。これまでに50名以上の雇用を創出し、その半数以上が都市圏等からの移住者。マネジメントや運営の中核を担う人材も少なくありません。
続く“金の循環”では、出資・融資・助成金といった多様な資金を組み合わせることで、プロジェクト単位で地域に経済的な還元がなされる仕組みを構築。金融機関や自治体、地域の出資者との連携が要となっています。
そして“知恵の循環”。各地のプロジェクトで得た知見を形式知化し、物件選定、行政対応、金融交渉、人材採用、運営まで、50項目を超えるプロセスをテンプレートとして整備。どの地域でも、スピードと精度を両立した事業立ち上げが可能な体制を備えています。
―― 具体的な事例を教えてください。
秋田県男鹿市では、港湾労働者の寄宿舎をリノベーションし、観光拠点へと再生させました。施設のコンセプトや運営方針は地域のキーパーソンと共に設計し、私たちは補助金の活用設計や金融機関との調整、業務オペレーションの構築などを担いました。役割を明確に分担し、補完し合う関係性がプロジェクト成功の鍵になったと感じています。
また石川県小松市では、出会いからわずか4カ月でJV設立から施設開業までを実現。これはナレッジテンプレートの活用により、プロセスが効率化されていたからこそ可能だったスピード感です。
現在は5地域で12施設を展開中。冬季には90%超の稼働率を記録する施設もあり、損益分岐点を稼働率50%前後に設計することで、すべての施設で黒字化を前提とした事業モデルを築いています。
―― 宿泊・飲食以外の分野への展開も考えていますか。
観光を出発点に事業を広げてきましたが、私たちの視野は「まちづくり」全体にあります。地域の暮らしや経済を持続可能にするには、教育や福祉、交通、建設、一次産業など、幅広い分野に関わっていく必要があると考えています。
たとえば、地元で唯一のタクシー会社が後継者不足で存続の危機にあるといった場合には、事業承継のかたちで支援することも検討対象です。ほかにも、地域の建設業者と協力した取り組みなども検討しています。
その土地に根ざした実需から出発し、柔軟なポートフォリオを組んでいく。そんな現実に即したアプローチを通じて、持続可能な地域経済の礎を築いていければと考えています。
―― そもそも、なぜこの事業を始めようと思ったのですか。
私は東京で生まれ育ち、地元に特別な思い入れがあったわけではありません。けれども旅を重ねる中で、地方の奥深い魅力や、そこで奮闘する人々の存在に心を打たれました。とりわけ、地域の課題に本気で向き合っている方々と出会ったとき、「この人たちと一緒に事業をつくってみたい」と、直感的に思ったことが原点です。
一方で、これまで戦略コンサルティングファームやスタートアップに身を置きながら、「人類にとって意味ある仕事とは何か」と自問してきました。日本社会が抱える人口減少や高齢化といった構造的な課題に対し、ビジネスという手段で貢献できるのではないか──そう確信したことが、NEWLOCAL立ち上げの大きな原動力になりました。
―― 地域の課題とどう向き合い、事業として展開してきたのですか。
地域によって直面する課題のかたちは様々ですが、多くに共通しているのは「実行リソースの不足」と「変化への対応力の脆さ」です。担い手が限られ、意思決定には多くの調整が必要であり、スピード感を持って行動するのが難しい。こうした環境のなかでも、「この地域をよくしたい」という強い意志を持つキーパーソンの存在が、変革の起点になると私たちは考えています。
そうした方々と出会い、その熱意や構想に深く共鳴しながら、具体的な事業へと落とし込んでいく──このプロセスに全力で向き合ってきました。
たとえば京都・丹後のプロジェクトでは、地元の若手経営者から「遊休地を観光資源に活用できないか」という相談を受けたのが始まりでした。その思いに応えるかたちで、私たちはスキームの設計やファイナンス面の支援を担い、短期間で事業化までを実現しています。
―― 資金調達の背景と中長期の成長戦略を教えてください。
今回の資金調達は、まちづくりを本格的な産業として確立するための一手です。新たな地域とのジョイントベンチャー立ち上げや、既存地域での事業拡張に加え、人材採用や社内体制の強化にも活用していきます。とりわけ、地域のキーパーソンと真正面から向き合えるプロジェクトマネージャーや、蓄積した知見を再現・展開するための仕組みづくりを担うスタッフの存在が、これからの事業拡大には欠かせません。
中長期的なビジョンとしては、まず2027年までに年商10億円規模の地域拠点を10カ所つくり上げ、それをモデルケースとして形式知化。さらに2032年には100地域へと広げていく構想を描いています。手法も多様化させ、ジョイントベンチャーにとどまらず、マイノリティ出資や経営支援といった柔軟な関わり方も取り入れる予定です。
アジアを中心とした海外展開もその一環です。台湾・韓国ではすでに対話を始めており、タイを含む東南アジアも視野に入れています。こうした取り組みを通じて、日本発の地域モデルを世界に展開していきたいと考えています。
―― 次なる挑戦への意気込みは。
いま、感度の高いビジネスパーソンの間で、地方というフィールドへの関心が高まっています。これは単なるライフスタイルの転換ではなく、事業を通じて社会を変えたいという思いの現れでもあると感じます。
人の流れが都市から地方へと向かう今だからこそ、「地域で働く」がキャリアの選択肢として当たり前になる社会を目指したい──地方には、やるべき仕事も、挑戦の余地も、まだまだ山ほどあります。
「地域からハッピーシナリオを共に」。私たちは、日本の地域を起点に、世界の未来をつくっていきます。
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