AIボイスエージェントのRecho、3億円調達でコールセンター業務改革を加速

AIボイスエージェントのRecho、3億円調達でコールセンター業務改革を加速

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株式会社Rechoは、自律して受電・架電等の業務を行うことができるAIエージェント「Recho AI Voice Agent」をコールセンター向けに開発している。メンバーの9割がエンジニアで構成され、そのうち7割が東京大学出身という特異な組織体制を持つ。

2025年12月10日、同社はSBIインベストメントをリード投資家として、シリーズAラウンドファーストクローズにて3億円の資金調達を実施したと発表した。今回の調達により、エンジニアの採用強化とさらなるプロダクト開発を進める。

共同創業者の白 寧杰(はく ねいけつ)氏と邱 実(きゅう じつ)氏に、創業背景や技術的な強み、今後の展望について聞いた。

人間レベルの自然な会話を実現するボイスエージェント

──事業について教えてください。

白氏:私たちが開発しているのは、コールセンター向けのAIボイスエージェント「Recho AI Voice Agent」です。人間と同等クオリティの自然な会話を行い、受電・架電・間接業務を自律して行うことができるAIで、24時間365日稼働可能です。

私たちのサービスはLLM(大規模言語モデル)をベースに構築しています。日本語としての自然さ、発話の正確性が高く、AI単体でお客様の状況や要望に合わせた自然な会話をすることが可能です。

現在は主に、金融、小売り、インフラ、プラットフォーム、行政機関といった分野の方々に採用いただいており、導入企業ではコールセンターの業務にかかるコストの40%から50%削減を見込んでいます。金融領域では銀行や損害保険会社の顧客を持ち、特に債権回収対応の支援においては、従来の人による対応と比較しても高い回収率を実現しています。

──どのように通話品質を担保されていますか。

白氏:会話の品質を自動で評価し、高速でPDCAを回しながら音声モデルの改良を繰り返す仕組み「Recho AI Voice Platform」を提供しています。会話の品質を向上させながら、各産業やユースケースに合わせた実用レベルのボイスエージェントを素早く簡単に構築することが可能です。

Recho AI Voice AgentとRecho AI Voice Platform
「Recho AI Voice Platform」は、ボイスエージェントの音声認識・音声合成・LLMモデルを制御してスムーズな会話を実現する「音声OS」や、自社開発の音声モデル、音声モデルの自動開発・評価基盤を含む

また、音声合成には、「自然さが向上するほどハルシネーションが発生しやすくなる」という構造的なトレードオフがあります。グローバルテックが提供する音声モデルにおいても、電話番号の読み上げで桁が抜ける、漢字を誤読するなどのケースが見られます。コールセンターでは情報の厳密な正確性が不可欠であるため、自然さと正確さの最適なバランスをどう実現するかが技術的な難題であり、そこに多くの工夫を重ねてきました。

その結果、現在世界的にもトップレベルの音声認識・合成のエラー率の低さや自然さを実現しています。ちなみに、こちらは雑音なども入るコールセンターの本番に近い環境でテストした結果です。

──音声OSは具体的にどういったものでしょうか。

白氏:音声OSは会話のスムーズさを実現する根幹技術です。

音声認識、LLM、音声合成など、タスクごとに多数のモジュールがありますが、それだけでは自然な会話は実現できません。そこで重要な役割を果たすのが音声OSで、各モジュールの挙動を監視しながら、音声認識、LLM、音声合成を同時並行で動作させます。いかに応対速度を短縮できるか、いかに人間と遜色ないレベルで自然な会話が実現できるか、この2点を軸に、我々は日々改善を重ねています。

加えて、雑音と話者の音声の識別や、話者が話し終えたかの判断も音声OSが行います。つまり、多岐にわたる処理を行い、会話全体を統括するのが音声OSの役目です。

──サービス導入時にはどのような苦労がありましたか。

白氏:AIエージェントは一種の流行語となっていますが、世間の期待ほど実際の普及は進んでいないと感じています。その理由は、AIエージェントが「100点満点中70点」では実務で活用できず、「99点」に近い品質が求められる点にあります。そして、この99点のクオリティは技術だけで到達できるものではなく、デリバリーの質が極めて重要です。

高精度なAIエージェントを実現するには、コンサルティング的なアプローチで顧客と協働し、現行のコールセンター運用やオペレーションを丁寧に整理したうえで、AI導入に適したワークフローへと変革していく必要があります。エンタープライズ顧客の場合、セキュリティやコンプライアンスなど多くの懸念が存在するため、それらを一つひとつ解消しながら、精度の高いデリバリーと継続的な改善サイクルを構築しなければなりません。

これは、時間をかけた並走と密なコミュニケーションが不可欠なプロセスです。プロダクト単体では高品質なAIエージェントを作ることはできず、プロダクトとデリバリーが両輪として機能してはじめて価値が生まれます。 そして、この両立こそが最も難易度の高い取り組みだと考えています。

──国内の競争環境と御社の強みをどう捉えていますか。

白氏:電話自動化の領域には、さまざまなソリューションが存在します。

まず、IVR(自動音声応答システム)は、コールセンターに電話をかけた顧客が番号をプッシュして用件を選択し、適切なオペレーターへ接続する仕組みです。

その後に登場した一部AIを活用するシステム(下図「AI 1.0」)は、AIが顧客の発話をキーワード単位で認識し、あらかじめ定義されたシナリオを実行するものです。これら二つの仕組みはともに、最終的にはオペレーターへの依存度が高い点が共通しています。

現在は、LLM の技術革新により、人間のオペレーターと同等レベルの個別対応や自然な会話が理論上可能になっています。しかし、実際に本番運用に耐えうる自然な会話ができるかの検証、PoCを通過できるソリューションは極めて限定的です。

AI音声技術のフェーズ
LLMを活用したソリューションは増えているものの、AI2.0が大規模に商用化されているケースは殆どないという

その理由は、LLM の特性にあります。高い柔軟性を備える一方で、判断や動作を誤るリスクがあり、センシティブな領域であるコールセンター業務において LLM を正確に制御することが大きな技術的ハードルとなっているのです。

さらに、正確性とスムーズな会話体験を両立させるには、複数の音声モデルのリアルタイム並列処理、LLM の正確な制御、CRM システムや電話回線との連携、オペレーターへのシームレスな引き継ぎなど、極めて複雑なシステム構築が不可欠となります。

これらを一気通貫で実現できる企業はごく少数であり、Recho はこの領域で顧客から信頼される独自のポジションを確立していると考えています。

日本企業の中で、フルスタックの LLM ネイティブサービスを商用レベルで提供できている例はほとんどなく、Recho はその数少ない例外として位置付けられると思います。

邱氏:当社はエンジニア比率90%超のAIネイティブ組織として、音声基盤技術の研究開発から本番運用まで一気通貫で提供しています。通常は複数企業に分散する基盤モデル開発、評価、統合、運用を内製化することで、顧客フィードバックを即座に技術改善へ反映し、高速な改善サイクルとエンタープライズ品質を実現しています。

コールセンターはAIエージェントの一丁目一番地

──創業のきっかけは。

白氏:きっかけは、私自身の体験です。急ぎの用事で、サービスを利用した企業のコールセンターに電話したところ6時間待たされました。2時間待っても繋がらず、予定の都合で電話を切ってはまたかけてを繰り返し、4回目でようやく繋がったのです。

この体験から、生成AIを活用すれば、従来の10倍優れたソリューションを作れるのではと考えました。

もう一つの理由は、AIエージェントの将来性です。AIエージェントとは、人間に代わって自律的に業務を遂行するAIのことで、今後10年、50年にわたり幅広い領域で活用が拡大すると見ています。

現在はAIエージェントの黎明期で、まだ人間の方が高パフォーマンスを見込める領域が多い中で、現状最もAIエージェントの活用に適している領域がコーディングとコールセンターだと考えています。

その背景には「コンテキストの受け渡しのしやすさ」があります。人間も、マニュアルがあれば再現性高く業務を遂行できますよね。コールセンター業務には明確なマニュアルが存在するため、AIエージェントに必要な情報を構造化して渡しやすい。

例えば、AmazonがEC黎明期に書籍のみを扱っていたように、AIエージェントにおける「一丁目一番地」はコーディングとコールセンターだと捉えています。今、AIエージェント事業を立ち上げるなら、コールセンターが最適な起点だと判断しました。

邱氏:白とは同じ高校出身で、7学年違いの先輩後輩の関係です。指導教員が同じだったので、面識はないものの名前は知っていました。彼が日本に来たことをきっかけに交流が始まり、共同で事業を立ち上げることになりました。

当初は現在のボイスエージェント事業ではなく、日本の生鮮EC浸透率の低さに着目し、同領域でオンライン注文・オフライン受取の仕組みを構想していましたが、約2年間の試行錯誤の結果、ユニコーンに成長できる事業モデルではないという判断に至りました。

この2年間の経験を通じて認識したのは、プロダクトマーケットフィットに加えて、プロダクトチームフィットの重要性です。白は東京大学理学部情報科学科の出身ですが、定員わずか30名のこの学科は、Preferred NetworksやTreasure Dataなど、最先端企業の創業メンバーを多数輩出してきました。

AI領域に強い優秀な人材が集まりやすい環境が整っていること、そして私自身が新卒でSAPに入社し、上場企業向けERPシステム導入を経験してきたこと。この二つを踏まえ、「AI × IT × 大企業向け」という領域で勝負するべきだと確信し、ピボットを決断しました。

ちょうど同時期に、シリコンバレーではAIボイスエージェント企業が次々と登場し始めていました。「海外で成立し始めている市場であれば、日本でも必ず実現できる」という判断から、AIボイスエージェント事業に着手することを決めました。

SBIインベストメントをリードに3億円を調達、エンジニア組織を強化

──今回の資金調達の背景と調達資金の使途を教えてください。

白氏:今回、SBIインベストメントをリード投資家として迎え、シリーズAラウンドファーストクローズで3億円を調達しました。現在セカンドクローズも進行中で、同規模の追加調達を見込んでいます。

私たちは、2024年4月のサービス提供開始以来、汎用化を急ぐのではなく、業界トップレベルの企業へのデリバリーを積み重ね、エンタープライズ向けの品質基準を満たすプロダクトづくりに注力してきました。特に金融機関や行政機関といった、高度なセキュリティと信頼性が求められる領域での導入を通じて、精度向上とデリバリーの型化を進め、スケーラブルな体制を構築しつつあります。

今回の資金調達により、研究開発、基盤技術・プラットフォーム開発、そして顧客実装を担うエンジニアの採用を強化し、技術開発から導入までのスピードを加速させます。これにより、市場におけるリーダーポジションを確固たるものにしていきます。

また、これまでは各社のニーズに深く入り込むコンサルティング型アプローチを中心に事業を展開してきましたが、今後は各業界での実証を通じて蓄積した知見をもとに、プロダクトの汎用化および型化を推進します。将来的には、企業がセルフサービスでAI Voice Agentを構築できるプラットフォームの提供も視野に入れています。

2、3年でコールセンター業界の人手不足解消を目指す

──今後のビジネス展開について伺えますか。

白氏:コールセンター市場は、国内のBPOだけで年間1.5兆円の大規模市場です。まずはコールセンターに注力して市場を突破することを目指します。

今後2、3年間で、コールセンターBPO市場での認知と信頼の拡大に努めていきます。海外展開も視野に入れており、グローバルなコールセンター、カスタマーサポート領域の獲得を目指します。

これから音声領域において、さまざまなAI Agentが生まれてくると思います。Voice User Interface(VUI)と我々は定義していますが、声でハードウェアやソフトウェアを制御する時代が来ると見ています。その時にRechoのAgent構築技術を活用できると考えています。

──今後の意気込みをお願いします。

白氏:人類の生産性を10倍向上させたいと考えています。

邱氏:AIボイスエージェントで日本一の企業を目指します。「AIボイスエージェントといえばRecho」となる状態を実現したいと考えています。

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