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拡大し続ける蓄電池市場
電気をためたり放出したりする「蓄電池」の需要が高まっている。再生可能エネルギーの不安定さを補う役割があり、家庭や工場、自動車などで広く使われる。経済産業省※によると蓄電池の世界の市場規模は2019年は約5兆円だった。2050年には約100兆円と20倍に膨らむと予測されている。脱炭素の実現という大きなトレンドを背景に、世界で製品やサービスの開発競争が激しくなっている。
この産業の発展は、単なる経済成長にとどまらず、地球環境の保全と持続可能なエネルギー社会の実現に向けた重要な一歩となるだろう。今後も、蓄電池技術の進化と市場の動向から目が離せない。
スタートアップ5選
エクセルギー・パワー・システムズ株式会社
高出力で充放電できる蓄電池を用いたエネルギーサービスを提供する。東京大学の研究成果を生かし、独自のパワー型蓄電池を開発した。欧州で実験を繰り返した後、英国の工場などで蓄電池システムを稼働させている。電力が足りないときに蓄電池の放電でカバーする「調整力」をサービスとして提供する。今後は、スカンジナビア半島、イタリア半島、イベリア半島、台湾、大洋州、東南アジアへの導入も予定している。
2023年8月には、八十二サステナビリティファンドを引受先とした資金調達を実施。翌年4月には、みずほ銀行を引受先とした資金調達を実施した。
NExT-e Solutions株式会社
蓄電池システムを開発・販売する。独自のバッテリー制御技術を核に、家庭や事業所を「小さな蓄電所」に変える蓄電ソリューションを提供する。この技術により、再生可能エネルギーの変動に対応し、電力を効率的に貯蔵・管理することが可能になる。また、資源の有効活用のためバッテリーリユースの商業化にも取り組んでいる。電気自動車や電動バス、フォークリフトなど多くのモビリティの分野で蓄電池は使われており、グローバルに事業を拡大させていく方針だ。
2024年2月には、新品蓄電池のサービス提供に加え、モビリティ由来の蓄電池を利活用したリユース蓄電池(定置用)のサービス提供に向けた事業開発をするため、みずほリースと業務提携契約を締結した。
株式会社LEシステム
LEシステムは「レドックスフロー電池」という電池の電解液を製造する。この電池は蓄電池として一般的なリチウムイオン電池よりも長寿命で安全性が高い。ただ、電解液に高単価なバナジウムを使うため、コストが課題だった。同社は火力発電所などの廃棄物に含まれるわずかなバナジウムを回収する技術を使い、低コストで電解液の製造を実現した。
2023年12月に、LEシステム株式会社(分割会社)は、株式会社LEシステム(分割承継会社)に対して全ての事業に関する権利義務を承継した。
CONNEXX SYSTEMS株式会社
企業HP:https://www.connexxsys.com/
産業用や家庭用の蓄電池システムを開発・製造する。種類の異なる複数の二次電池を一体化するハイブリッド蓄電技術を持つほか、薄型板状リチウムイオン電池「HYPER Battery※TM」の開発、鉄と空気で動く高いエネルギー密度がある電池など「SHUTTLE Battery※TM」を開発する。
2024年3月には、武力侵攻により壊滅的な被害を受けたウクライナ、ブチャ市のインフラ復興プロジェクトを協力して進めるため、ブチャ市、我が国経済産業省、ウクライナU-TEM Engineering社、ポーランドHYNFRA社、つばめBHBと合意書(MOU)を締結した。
株式会社パワーエックス
電気自動車向けの急速充電器を開発・製造する。日中に太陽光によって発電された電力を蓄電池に貯め、電力需要の高まる夕方以降の時間帯に「夜間太陽光」として供給する電力を組み合わせるなど、顧客のニーズに合わせ、最適なプランを提案する「X-PPA」を提供している。また、EV充電ステーションを予約することができるアプリ「PowerX app」の開発・提供も行っている。
2024年1月には、三菱UFJ銀行、JA三井リース、中国銀行などの複数の金融機関からの融資により95億円の資金調達を実施した。2024年7月には、岡山県玉野市の自社工場「Power Base」において、水冷式電池モジュール製造ラインの試験稼働を開始した。
持続可能な未来を目指す
今回紹介した企業は、独自の技術やサービスによって蓄電池の普及を後押しする。この分野では、脱炭素化やエネルギー安全保障の観点から、政府の支援策や民間からの投資が急増している。こうした追い風を受け、蓄電池関連のスタートアップ企業への期待は一層高まりつつあり、今後のイノベーションと市場拡大が注目されるだろう。
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※経済産業省 「蓄電池の重要性」