元OYO JapanのTabist、6億円を追加調達ーー宿泊業の再構築を目指す

元OYO JapanのTabist、6億円を追加調達ーー宿泊業の再構築を目指す

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観光・宿泊業界のデジタル化を推進するTabist株式会社は、既存株主および新規の事業会社などを引受先とした第三者割当増資により、総額6億円の追加調達を実施し、総額16.5億円でシリーズCラウンドを完了した。これにより、シリーズA以降の累計調達額は32.4億円となった。コロナ禍からの回復が進む宿泊・観光産業において、運営効率化や人手不足といった課題が依然として残る中、同社のデジタル変革への取り組みが注目を集めている。

Tabistは2019年に設立された。当初は「OYO Japan」としてホテルフランチャイズ事業を展開していたが、2022年に現社名へと変更し、独自路線への事業転換を進めてきた。現在は、中小規模の宿泊施設オーナーを主な対象とし、運営のデジタル化を支援するサービスを提供している。自社開発のクラウド型宿泊管理システムやダイナミック・プライシングツールを通じて、予約管理、価格設定、OTA(オンライン・トラベル・エージェント)との連携を効率化。これにより、予約流通の拡大、収益の最大化、人件費の抑制、顧客管理など、複数の領域で業務効率化を実現している。また、各施設のマーケティングやブランディング、直販チャネルの構築支援にも注力しており、地域特性を生かしたサービス開発にも取り組んでいる。

代表取締役社長 兼 CEOの田野崎亮太氏は、サントリーホールディングスでの営業経験やコンサルティング業界での実績を経て現職に就任した。田野崎氏は、全国の宿泊施設を訪れる中で、現場運営の非効率や人手不足といった課題を実感し、デジタル導入の必要性を強く認識したという。2020年1月にはOYO Japanの構造改革プロジェクトを主導し、その流れからTabistの経営に携わるようになった。

日本の観光・宿泊業界は、2019年までインバウンド旅行需要の高まりを背景に成長を遂げていたが、2020年に新型コロナウイルス感染症が拡大したことで旅行者数が急減した。JTB総合研究所の調査によると、2020年の日本国内旅行者数は前年比で約50%減少している。2023年以降は回復傾向にあるものの、依然としてコロナ前の水準には届いていない。一方で、都市部や大規模施設への需要集中に加え、中小規模施設の人材不足、最低賃金の上昇、デジタル化の遅れといった構造的な課題も顕在化している。全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の調査でも、経営人員の不足が主要な経営課題として指摘されており、観光庁や自治体においても業界全体の生産性向上やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が重要政策と位置付けられている。

市場には、楽天グループの「楽天ステイ」、tabiku(旧Loco Partners)、Airbnb国内事業、宿泊業向け管理システムのTL-リンカーン(シーナッツ)などが競合として存在し、予約管理や収益最大化、オンライン対応を巡る競争が活発化している。各社とも中小施設の運営支援や業務効率化を目指しており、市場の成長余地は大きいものの、差別化が求められる状況にある。

今回のシリーズCラウンドでは、SBIインベストメント、みずほキャピタル、ひろぎんキャピタルパートナーズなどのベンチャーキャピタルに加え、宿泊業や建設業などの事業会社も出資者に名を連ねている。Tabistによると、調達資金は主に三つの分野に投入される予定だ。一つ目はAIやDX関連プロダクトの開発強化で、生成AIを活用した売上分析や自動プライシング、生産性向上のための新機能開発を進める。二つ目はブランドとマーケティング分野への投資で、ブランドの地域浸透や直販チャネルの強化に取り組む。三つ目は、モデルケースとなる「フラッグシップ施設」の全国展開で、サービス品質の標準化を目指す。また、多様な宿泊施設とのパートナーシップ拡大や、現場データを活用したソリューションの高度化も計画している。

一方で、中小規模施設におけるデジタル投資のための人材確保や、現場での運用定着には依然として課題が残っている。業界全体の生産性向上や、地域経済の活性化を背景に、今後はAIやデータを活用した省人化運営モデルの普及、ブランド認知の拡大、顧客体験の多様化が競争の焦点となる見通しである。今後は、実効性ある支援策や業界横断的な技術連携の進展が、業界変革の成否を左右すると考えられる。

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