エクスペリサス株式会社

高付加価値な旅行体験の開発と販売を行うエクスペリサス株式会社が、第三者割当増資および金融機関からの借入により、総額5.6億円のシリーズA最終ラウンドを実施した。これにより、シリーズAでの累計調達額は12.4億円に達した。今回のラウンドにはJR九州や大和ハウスベンチャーズ、複数の個人投資家が参加した。
エクスペリサスは2017年1月の設立以来、国内外の富裕層に向けて高付加価値な旅行・体験商品を開発・提供している。主な事業は、会員制のBtoB型クローズドECサイト「XPERISUS.com」を軸とした体験開発事業、自治体や企業に対する観光ソリューションの提供、顧客向けの企画・販売オペレーション支援の三本柱で構成される。これらの事業を通じて、日本各地の独自体験コンテンツを開発し、流通させている。
同社の特徴は、一般公開しないクローズド流通を活用した製販一体型のビジネスモデルにある。富裕層旅行会社やプライベートバンク会員組織と提携し、顧客一人あたり数万円から数百万円規模のオーダーメイド型体験を展開している。2023年時点で、世界8000社を超える富裕層旅行会社ネットワークに高単価プログラムを供給しているほか、近年は大手旅行会社やJR西日本グループと連携し、自治体や観光事業者向けの高付加価値コンテンツ開発支援にも力を入れている。
代表取締役社長の丸山智義氏は、大学卒業後、シンガポール国立大学へ留学。米国投資銀行やVCでの長期インターンを経て、2011年にレオモバイル社の立ち上げに参画。その後、heathrowを設立し、2016年にMBOを経て退任。2017年1月にエクスペリサスを設立し、代表取締役CEOに就任した。
インバウンド市場が再び拡大する中、海外富裕層の誘客は日本の観光業界にとって依然として大きな課題である。観光庁のデータによれば、訪日旅行者全体のうち高付加価値旅行者(富裕層)の割合は約1%だが、この層の消費額は全体の14%を占めている。富裕層の旅行は長期滞在やリピート率の高さ、行動範囲の広さが特徴であり、地方経済への波及効果や観光公害の回避にも一定の役割を果たすとされている。
グローバルなラグジュアリートラベル市場は拡大しており、2033年には3兆米ドル規模に達する見通しだ。富裕層顧客はモノの消費よりも体験型の贅沢を重視する傾向があり、高級旅行や体験ツアーへの支出が増加している。このような市場動向の中で、富裕層向け体験事業に特化した企業への注目が高まっている。
今回の調達資金は、次の三つに充当する計画だ。
1. 欧米やアジアの富裕層市場向けの海外マーケティング体制の強化。
- 全国自治体や観光事業者との提携による地方観光資源の高付加価値化支援。
- 多言語化や予約・顧客管理機能を含むプラットフォーム事業およびオペレーション体制の拡充。AI技術を活用した富裕層体験データの蓄積やガイドネットワークの整備。
今回のラウンドにはJR九州や大和ハウスベンチャーズのほか、みずほ銀行、三井住友銀行などが出資・融資で参画している。鉄道会社や金融機関からの出資が集まったことは、同社の成長基盤の強化につながると考えられる。
今後、エクスペリサスは自治体や企業との連携による高付加価値体験の創出や、地方誘客インフラの高度化、グローバル顧客基盤の拡大など、複数の課題に取り組む必要がある。
日本の観光産業における富裕層市場の成長余地は大きいが、体験商品の開発力や提供体制の強化、グローバル市場でのプロモーション戦略、価格設定の見直しなど、供給側の取り組みが問われている。