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J-CAT、シリーズBで11.3億円調達ーー富裕層旅行市場の拡大に向け、OTMA化と地方共創を推進

近年、訪日外国人観光客の数は急速に回復・増加しており、日本を訪れる人々の関心は、単なるモノの購入から、より深く文化に触れる「コト消費」へと移りつつある。とくに富裕層を中心に、定番の観光地を訪れるだけにとどまらず、日本文化を体験することへの需要が高まっている。
こうした市場環境の中、国内外の富裕層に向けて高付加価値の観光体験を提供しているのがJ-CAT株式会社だ。国内向けには「Otonami」、インバウンド向けには「Wabunka」という2つの予約プラットフォームを展開し、日本各地の文化や伝統を体験型コンテンツとして提供している。
これまで国内向けサービスを中心に事業を拡大してきた同社は、2025年5月にシリーズBラウンドで総額11.3億円の資金調達を実施。今回のラウンドでは三井住友海上キャピタルをはじめ、DBJキャピタル、グローバル・ブレイン、DMX VENTURES ASIA PTE. LTD.など新たな投資家が成長性を評価して参画した。既存株主であるJ.フロントリテイリングや三菱UFJキャピタルなども追加出資を実施。今後はインバウンド事業の強化や地方展開の加速に注力していく方針だ。
地方創生や文化継承と密接に関わりながら、同社が描く成長戦略とは。代表取締役の飯倉竜氏に話を聞いた。
ーー事業概要について教えてください。
飯倉氏:私たちは「人生を豊かにする体験」をテーマに、国内外の富裕層のお客様に向けて文化体験の予約プラットフォームを展開しています。国内向けの「Otonami」では、日本各地の伝統文化や職人技を体験できるコンテンツを揃えてきました。一方、インバウンド向けの「Wabunka」では、多言語対応のプログラムを通じて、訪日外国人の方々に日本文化をじっくりと体験していただける機会を提供しています。
こうした取り組みを続けてきた結果、ありがたいことに直近3年で売上は約40倍にまで伸びました。観光業界には多くの大手プレイヤーが参入していますが、私たちは比較的早い段階から「コト消費」に特化して事業を進めてきたことが、今の成長につながっていると感じています。
――現在の主な顧客層は。
国内向けサービスでは、30代から50代の女性のお客様に多くご利用いただいています。関東や関西など都市部にお住まいの方が中心で、文化や体験への関心が高い方が多い印象です。
一方、海外向けの「Wabunka」では、欧米圏のお客様が全体のおよそ5割を占めます。現地の旅行代理店やコンシェルジュと連携しながら集客しており、そうした信頼できるパートナー経由の提案が、満足度やリピートにもつながっているように感じています。
アメリカやオーストラリア、ヨーロッパ各国では展開をさらに広げ、多様な文化や価値観に合わせたサービスづくりも進めてきました。中華圏は今のところ「モノ消費」の志向が強めですが、ライフスタイルや価値観の変化とともに、体験型のニーズもこれから確実に伸びてくると見ています。
――今後、競合他社が増加しそうな市場です。
確かに今後、類似サービスの参入は増えていくかもしれません。ただ、当社が高品質なコンテンツを提供し続ける限り、参入障壁は高いと考えています。
重要なのは、「どのような体験を提供できるか」というコンテンツの中身と、それを「どうやって届けるか」という販売・流通の仕組みの両方です。この二つがしっかり機能していれば、事業者の方々が他社に切り替える理由はほとんど生まれません。
とくに、私たちはコンテンツづくりの部分に強いこだわりを持っています。ユーザーが没入でき、ワクワクしながらサイトを見ていただけるよう設計する。「まずコンテンツに惹かれ、そこから予約に進んでいただく」という流れが何より重要だと考えています。
今のクリエイティブ業界では、レビューや価格だけで価値が判断されてしまい、本来の作り手の想いまで十分に届かないケースも少なくありません。だからこそ、現地取材や撮影を重ね、作り手の背景やストーリーまで丁寧に伝えられるよう心がけてきました。単なる予約サイトではなく、事業者の自己実現にも寄り添えるようなプラットフォームにしたい、そう考えています。
観光業界におけるネットワークの厚みも当社の強みの一つです。観光庁の有識者や一休.com出身のメンバーなど、観光・ホスピタリティ分野に専門性を持つメンバーが多く在籍しており、他社ではなかなか実現しづらいニッチで魅力的な体験型コンテンツの開発にもつながっています。
さらに、海外展開の面でも、旅行代理店やコンシェルジュなど200社を超える海外パートナーとのネットワークを築いてきました。こうした信頼性の高いチャネルが、安定的な集客力につながり、当社ならではの競争優位性を支えていると感じています。
――創業から今に至るまでの経緯を教えてください。
事業の軸である「モノではなく体験を提供する」という考え方は、創業当初からずっと大事にしてきました。ただ、その中で自分自身のスタンスは少しずつ変わってきたように思います。
もともと私はベンチャーキャピタルの出身で、スタートアップの厳しさもある程度理解していました。だからこそ最初は、無理に規模を追わず、まずは小さく始めようと考えていたんです。「伝統文化を守る」というテーマも、当時のVCにとっては少しニッチすぎるのではないかと思っていました。
けれど事業を進める中で、体験価値を重視する「コト消費」へのニーズが想像以上に大きいことに気づきました。ありがたいことに「一緒に取り組みたい」と声をかけてくださる方も少しずつ増え、次第に事業の広がりを実感するようになったんです。
ちょうど創業準備の時期がコロナ禍と重なったこともあり、多くの観光業界の方々とお話しする機会にも恵まれました。そこで改めて感じたのは、地域や業界が抱える課題の多さと、文化事業に関わる方々が持つ大きな可能性でした。「もっと多くの人に体験価値を届けたい」という気持ちが強まり、本格的に事業をスケールさせていく決断に至りました。
観光業界は今もなお、テクノロジー化があまり進んでいない分野だと感じています。人の手が必要な部分が多く残っているからこそ、外から入った自分たちが貢献できる余地があるのではないか。そんな思いでこれまで取り組んできました。
――文化継承についてはどのような取り組みをされていますか。
たとえば京都の芸者文化では、接待の減少などを背景に、以前ほど多くのお座敷が開かれる状況ではなくなってきています。加えて、老舗の料亭では今も「一見さんお断り」という文化が残っているため、新しいお客様を迎えるのが難しい面もあります。
そんな中で、当社のインバウンドサービスを通じて、富裕層を中心とした質の高い外国人旅行者との新たな接点をつくることができました。インバウンドのお客様は信頼感も高いため、「一見さん」であっても芸者の方々が柔軟に受け入れてくださるケースが増えてきています。
また、歴史ある寺社との連携も広がってきました。もともと、寺社は冠婚葬祭が主な収入源だったのですが、当社が企画する少人数向けの特別参拝プランを提供することで、観光収入という新たな財源が生まれています。こうした取り組みを通じて、寺院の修繕費や文化財の保全にも少なからず貢献できているのではないかと感じています。
――今後の展望について教えてください。
これからは、体験と宿泊を組み合わせたパッケージ旅行のサービスをさらに広げていく予定です。インターネット上ではまだあまり紹介されていない、小規模で魅力的な宿が日本各地に数多くあります。こうした地域資源を掘り起こし、新しい旅の楽しみ方を提案していきたいと思います。
現在進めている「体験をギフトとして贈るサービス」も、今夏のアップデートに向けて準備中です。カタログ形式の導入によって、贈る側も受け取る側も、より多彩な体験を自由に選べる仕組みへと進化させようと考えています。
体験コンテンツの幅も、今後さらに拡大していく方針です。現状は関東や関西が中心ですが、東北や九州、瀬戸内、北陸といった、まだ世界に十分知られていない地域にも展開を広げていきます。日本各地の文化体験を、より多くの方に届けたいですね。
目指しているのは、体験の提供だけにとどまらない総合プラットフォームの構築。交通、宿泊、通訳、さまざまな体験まで、旅行に必要なサービスをすべてワンストップでカバーできる仕組みをつくる構想です。
引き続き、事業の成長とサービスの進化を重ねながら、日本の魅力を世界に届ける“入り口”になっていければと思っています。
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