エクスペリサス株式会社

エクスペリサス株式会社は、KCAPベンチャーファンド、ANAホールディングス(ANA未来創造ファンド)、エイチ・アイ・エス(H.I.S.)、ヘリテージ・グローバル・インベストメント・ホールディングスなどを引受先とする第三者割当増資により、シリーズAラウンドの累計調達額が6.8億円に達したと発表した。今回のラウンドでは3.5億円を調達しており、今後もエクステンションラウンドでの追加調達を予定している。調達資金は海外マーケティング体制の拡充、人材やIT分野への投資、経営基盤の強化に充てられる。
エクスペリサスは、2017年に設立されたスタートアップで、日本各地の地域特性を生かした「高付加価値な旅・体験」の開発と販売を手掛けている。主に国内外の富裕層を対象とし、観光地の文化・建築・食・イベントなどを組み合わせたオーダーメイド型の体験コンテンツを提供していることが特徴だ。自治体や大手企業、旅行会社と連携し、一般的な旅行商品とは異なる限定的な販売チャネルを通じてサービスを展開している。
同社のビジネスモデルは、体験の開発と商品販売の両輪で構成される。体験開発では官公庁や地方自治体、大手企業と協力し、観光資源を活用した企画や受託案件(BtoG/BtoB)を推進。販売面では、富裕層向け旅行代理店や会員組織を中心に、公開されていないオーダーメイド型の高価格帯体験を提供している。近年は、自治体向けの観光資源開発支援や、デジタル化・多言語化によるサービスの高度化にも注力している。
代表取締役社長の丸山智義氏は、投資銀行やベンチャーキャピタルでの勤務経験を経て、2011年に別企業の設立に参画。2016年に独立し、翌2017年1月にエクスペリサスを創業した。丸山氏は富裕層向け体験プロダクトの設計や販路開発の実績を持ち、大手メディアやグローバルブランドとの提携案件にも関与してきた。創業以来、官公庁や企業向け案件を中心に事業を拡大している。富裕層消費の多くが「体験型消費(エクスペリエンス・ラグジュアリー)」にシフトしており、特に旅行や特別な体験への支出が伸びている。日本政府観光局(JNTO)のデータでは、日本が欧米豪の富裕層旅行市場で占めるシェアは1~2 .3%程度にとどまる。国内においても体験型コンテンツの拡充や高価格帯旅行者の誘致が課題となっており、欧米の先進国と比較して提供できる体験やサービスの質、価格帯に差があるのが現状だ。
このような状況の中、エクスペリサスは今回の資金調達を通じて、海外マーケティングの強化や高度なデジタルサービス基盤の開発、ITやAIを活用した顧客接点の強化を目指す。また、JR西日本グループや日本旅行と連携し、西日本エリアの鉄道や宿泊施設を活用した高付加価値体験の共同開発にも取り組む。全国の自治体と連携したプロモーションや体験設計支援、地域創生プロジェクトへの参画も継続する方針だ。
旅行業界の大手であるH.I.S.やANAホールディングスが出資したことで、グローバルネットワークとエクスペリサスの体験開発力を掛け合わせた新商品の展開や、海外富裕層の誘客拡大が見込まれている。競合には、既存の高級旅行専門会社や体験型コンシェルジュ事業者が存在するが、自治体や大企業、空運会社、インバウンド事業者と幅広く連携するスタートアップは限られる。
世界の富裕層市場は拡大傾向にあり、今後も成長が見込まれている。観光業界では今後、国内外の富裕層市場に向けたシェア拡大や高付加価値体験の供給力向上、デジタル化・多言語対応の進展が求められる。エクスペリサスによる今回の資金調達と大手企業との連携が、体験型消費を軸とした観光ビジネスの変化にどのような影響を与えるか、引き続き動向が注視される。