StoryHub株式会社

人間とAIの共創で良質なコンテンツを生みだす──StoryHub、シリーズAで2.2億円調達


StoryHub株式会社は、2025年7月23日、Genesia Ventures、Spiral Capitalをリード投資家、noteをフォロー投資家として、シリーズAラウンドにて2.2億円の資金調達を発表。プレシリーズAでの調達額と合わせると累計2.5億円に達した。
同社は、「価値あるストーリーを共創するハブになる」をミッションに掲げ、AI編集アシスタント「StoryHub」を提供している。現在は出版社、テレビ局、新聞、Webメディアをはじめとする80以上の媒体に活用されており、ARR(年間経常収益)は1億円を突破した。
代表取締役CEO田島将太氏に、事業の特徴、今回の資金調達の背景、そして今後の展望について聞いた。
記事作成の前後工程にも対応、編集ワークフロー全体を支援
──御社の取り組む事業について教えてください。
田島氏:コンテンツ制作の各工程を一気通貫で支援し、編集フローをシームレスにサポートするAI編集アシスタント「StoryHub」を開発・提供しています。
ChatGPTなどの生成AIでも記事作成は可能ですが、私たちの強みは「前後の工程」を含むワークフロー全体への対応ですね。記事執筆前には企画やリサーチ、取材、文字起こし、情報整理といった段階がありますし、執筆後もタイトル作成、SNS投稿文作成、校正・校閲などの工程が待っています。
これらのプロセスをどれだけ丁寧に設計できるかが、最終的なコンテンツの品質を左右すると考えています。そのため、利用者のスキルレベルに関わらず、誰もがプロフェッショナルな記事を作れる環境を、プロダクトとして整えているわけです。
記事生成にAIを使う際には、捏造や著作権の問題、プロンプト設計の難しさといった課題もつきまといます。StoryHubでは、ユーザーが用意したPDFや音声ファイルなどの一次情報をアップロードし、それに基づいて生成する仕組みを採用。この設計により、リスクの多くを根本から抑えることが可能になりました。

加えて、私たちは「レシピ」と呼ばれる独自技術も展開しています。これは、参考記事から構成や文体を自動で分析し、テンプレートとして活用できるようにする特許技術です。ユーザーはプロンプトを記述する必要がなく、該当する「レシピ」と素材を選ぶだけで、記事が完成します。公式が提供するレシピに加え、企業ごとに独自のレシピを内製することも可能です。
──現在、サービスはどのような企業に利用されているのでしょうか。
現在の導入企業は8〜9割がテレビ局や新聞社、出版社、Webメディアといったメディア関連企業ですね。一方で最近は一般企業の広報部門やオウンドメディア担当者からの引き合いも増えており、非メディア企業での活用が広がりつつあります。
テレビ局の具体例として印象深いのが、日本テレビグループの日テレ アックスオンさんの事例です。「様々なカメラマンへの取材を通じたドキュメンタリー制作」というプロジェクトで、総勢19人への取材、インタビュー時間は20時間超という大規模なものでした。通常なら10人以上のチーム体制が必要な作業を、StoryHub活用によりメインディレクターとカメラマンのわずか2人で完遂できました。しかもドキュメンタリーに入りきらなかった素材から、ウェブ記事を数本制作することもできたんです。
その他、長野放送さんに活用いただいた事例では、業務時間が大幅に短縮されたことで残業が減り「労働組合で話題になった」というお声をいただいています。さらに、TSKさんいん中央テレビさんでは、地上波で放送したローカルなお店の情報を、StoryHubを使って文章にし、電子書籍を作成・販売するという事業を行っていただきました。このようなフォーマット変換としての活用も、今後増えていくと期待しています。
非メディア企業の事例では、とあるプロサッカークラブの事例がわかりやすいですね。広報担当者が試合後の選手に10分程度の短時間インタビューを実施し、その音声と選手プロフィールをStoryHubに投入するだけで、選手紹介記事が完成するという仕組みです。これにより、メディア取材を待つことなく、ファンエンゲージメント向上やスポンサー関係強化といった効果を自発的に生み出せるようになったそうです。
事業の軸は情報ネットワークの健全化
──創業から現在までの事業の変遷について教えてください。
もともと、情報ネットワーク・エコシステムの健全化というテーマは私のライフワークでした。ファーストキャリアとして入社したスマートニュースでは、この問題意識を起点に様々な取り組みを行っていました。
その後、合同会社としてメディアコンサルティング事業をスタート。1年後には自社プロダクト開発を目指し株式会社化しました。社名変更前は地域情報の収集・発信プラットフォームや、スタンプラリー機能を通じたローカル魅力の可視化サービスを展開し、全国10都市ほどで実証実験を行った経緯があります。
しかし取り組む中で気づいたのは、ローカル情報の量・質がまだ十分ではないということ。単に情報を届けるだけでは根本的な課題解決に至らない、そう感じるようになったんです。ちょうどそのタイミングで生成AIの性能が飛躍的に向上。これを見て「情報を届ける工程だけでなく、作る部分にも変革を起こせるのではないか」という確信を持つに至りました。

この方針転換により、サービス対象をローカル領域からあらゆるコンテンツへと拡張。2024年秋に現在のStoryHubを事業中核に据え、2025年3月には製品名・社名ともに「StoryHub」へ統一して現在に至ります。
事業転換を進める中で立ち返ったのが、そもそもの課題意識である「情報ネットワークの健全化」でした。情報ネットワークは放置すれば歪みが拡大しやすい性質を持っています。フェイクニュースや陰謀論が人々の相互理解基盤を脅かす危険性もある。情報はまさに社会の血流であり、健全な循環が不可欠だと考えています。
特に日本ではコンテンツの「量」が圧倒的に不足している状況です。一見情報過多に見えても、実際に飽和しているのは一部の偏ったトピックのみ。身近な出来事や海外ニュースといったロングテール領域の情報は極端に少ないのが実態ですね。
AIの活用により、従来は費用対効果が見合わなかった領域へのコンテンツ供給も可能になる。一方でGPT-4の登場は粗悪コンテンツの大量流通というリスクも生んでいます。だからこそ私たちの手で、この流れをより良い方向へ導きたい。その想いが現在のプロダクト開発を支える原動力となっています。
非メディア領域への展開で事業基盤を強化
──今回の資金調達の背景と目的について教えてください。
これまで創業メンバーのメディア業界ネットワークを活かした事業展開を行ってきました。しかし今後はより幅広い業界のコンテンツ課題にアプローチしていきたい。そのためには既存の人脈だけでは限界があり、事業基盤の強化と開発スピード向上が不可欠だと判断し、資金調達を決断しました。
調達資金の主な用途は顧客基盤の拡大ですね。現在は契約数増加を最重要指標とし、様々な業種のお客様との接点拡大に注力中です。各業界の課題やニーズを把握することで、将来的にはSaaSにコンサルティング要素を組み合わせた、より高付加価値なサービス提供も視野に入れています。
投資家の皆様に最も期待するのは、共同プロジェクトや事業連携です。日本全体のコンテンツを対象にするには、私たちだけでは到底手が回らない。StoryHubという社名やミッションが示すように、私たちがハブ機能を果たし、外部企業や個人とのネットワークを拡張することで、良質なコンテンツ創出の基盤づくりを目指したいですね。
特に出資いただいたnoteさんとの協業には大きな可能性を感じています。私たちが「作る」ソリューション、noteさんが「届ける」プラットフォーム。この組み合わせで、特にIRや広報領域での新たな価値創造ができるのではないかと考えています。
──今後の展望について教えてください。
中長期的な目標として、まず2026年末に現在のARR1億円を5倍から6倍に成長させたいと考えています。それを支えるため、メディア×テクノロジーのバックグラウンドを持つ人材の採用にも力を入れる予定です。
プロダクト開発については、コンテンツ制作のバリューチェーン拡大が戦略の柱となります。現在のStoryHubは取材情報を起点としたサービスですが、非メディア企業にとってはコンテンツ制作の最初のハードルが高いという課題がありました。
そこで今年秋にリリース予定なのが「インタビューアプリ」です。AIが企画の壁打ちから質問リスト生成、リアルタイム文字起こし、深掘り質問の提案まで一貫サポート。インタビュー終了と同時に録画データがStoryHub本体にアップロードされ、ドラフト記事が自動作成される仕組みです。

作成後のファクトチェック機能も重要な強化ポイントですね。アップロード素材と本文を照合し、「本文では2050年とあるが、音声では2045年と発言されている」といった具体的な指摘を根拠付きで提示できるようにしていく計画です。
海外展開も視野に入れており、多言語でのコンテンツ変換や、私たち自身の海外進出も検討中です。最終的にはIPOを目指したいと思っています。
私たちのミッションは「価値あるストーリーを共創するハブになる」ことです。ITやメディア業界だけでなく、ストーリーやコンテンツの力で社会課題を解決し、情報ネットワークの健全化を図ることが本質的なテーマですね。
SaaS事業やBPO事業の展開はもちろん、将来的にはメディアブランドの立ち上げや継承も視野に入れています。メディア運営が困難になる時代だからこそ、価値ある情報を持つ編集者や組織が継続できる仕组みを構築していきたい。
最終的に目指すのは、良質なコンテンツが自然に生まれ、それが適切に人々に届く社会です。StoryHubがその実現に向けた重要な一歩になると信じております。
掲載企業
Startup Spotlight

Supported by
スタートアップスカウト
「スタートアップスカウト」は、ストックオプション付与を想定したハイクラス人材特化の転職支援サービスです。スタートアップ業界に精通した当社エージェントのほか、ストックオプションに詳しい公認会計士やアナリストが伴走します。