京大発・次世代発電のライノフラックス、莫大バイオマス資源を世界のエネルギーに

京大発・次世代発電のライノフラックス、莫大バイオマス資源を世界のエネルギーに

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世界のエネルギー供給への貢献が期待されているバイオマス資源は、脱炭素社会に向けた有力な選択肢の一つだ。一方で、従来のバイオマス発電は発電コストや効率の面で課題が多く、原子力や石炭火力と比べて普及が進んでこなかった。

京都大学発スタートアップのライノフラックスは、バイオマスを燃焼させずに、従来の半分以下のコストで発電する技術を開発した。発電過程で高純度のCO2を回収できる点も特徴で、現在は様々な事業会社と連携しながら、小規模プラントでの実証を進めている。

同社はデータセンターの電力需要増加などを前提にグローバル展開を見据えており、2025年には「KPMG Private Enterprise Global Tech Innovator Competition 2025」や「WE AT CHALLENGE 2025」をはじめ国内外のピッチコンテストで優勝するなど注目を集めている。

同社を率いる代表取締役CEOの間澤敦氏に、創業の背景や技術の強み、商用化に向けた戦略を聞いた。

「燃やさないから高効率」バイオマス発電の常識を覆す湿式ケミカルルーピング

──御社の取り組む事業について教えてください。

間澤氏:私たちが開発しているのは、新しいバイオマス発電技術です。

バイオマスとは、木材や農作物、家畜の糞尿、下水汚泥など、動植物由来の有機性資源の総称で、世界のエネルギー需要の70%以上を満たす資源が毎年生産されています。安定供給可能でクリーンな資源です。

ただ、この豊富な資源量に対して、現状ではその大部分が活用されていません。資源ポテンシャルとしては66兆円と非常に大きいにもかかわらず、なかなか活用が進まない理由は、発電コストにあります。

日本の発電コストを種類別に比較すると、バイオマスは原子力や石炭火力といった主要電源に比べて2倍以上となっています。これが半分以下にならないと経済的に競争力のある電源にはなり得ません。

※下水を処理する過程で発生する微生物や有機物のかたまり

ライノフラックスが取り組むバイオマス発電の課題
従来のバイオマス発電にかかるコストは1kWhあたり約30円と、原子力の3倍近くとなっており、普及のネックとなっている

従来のバイオマス発電は、バイオマス自体や、バイオマスから発生させたガスを燃焼させる、いわば火力発電です。燃焼させる過程で、バイオマスが持つエネルギーの一部が熱として逃げてしまうため、電気として回収できるエネルギーが10~30%程度で頭打ちになってしまうという課題があります。

また、燃焼させるバイオマスについても、木材を海外から輸入して使用しているケースもあります。バイオマスをガス化したり、発酵させたりする場合には、大型プラントを設置してそこに大量のバイオマスを集約する必要があり、原料の運搬コストもかかります。

こういった背景から発電コストがかさみ、補助金がなければ自立したプラント運用が難しいというのが今のバイオマス発電の実態です。

そこで私たちは、バイオマスを燃やすのではなく、特殊な水溶液と化学反応を起こして、非常に低い温度で高効率にエネルギーを電気に変換させることができる技術を開発しています。具体的には、従来の800~1000℃という高温ではなく、100~200℃という低温で反応させることで、従来比約3倍の発電効率を実現することができます。

燃やさないことによる副次的なメリットは、バイオマス由来のCO2を、大気に放出することなく、純度99.9%以上の極めて純粋な状態で回収することができる点です。回収したCO2は、身近な例を挙げるとドライアイスの原料などとして販売可能な副産物となります。

──どのような仕組みで発電する技術なのでしょうか。

京都大学の反応工学研究室で生まれた「湿式ケミカルルーピング技術」を活用しています。

これは、水溶液に含まれる金属イオンの酸化還元反応を適切に利用して、バイオマスを高効率にエネルギーに変換していくという技術です。

プロセスは化学エネルギー変換と電気化学的変換の2つに分かれます。

使用する水溶液には金属イオン、具体的にはバナジウムイオンが含まれます。

ここにバイオマスを加えると、時間とともにバイオマスが分解・溶解します。その後バイオマスに含まれる炭素がバナジウムを還元し、CO2が発生するのです。このCO2は回収します。

およそ30分〜1時間でバイオマスは液体中に溶け込み、その後2時間程度でバイオマスが持っていた化学エネルギーがバナジウムイオンの還元体として蓄えられます。より身近な言い方をすると、バイオマスを使って水溶液を「充電」している状態です。

この一連の流れが、プロセス前半にあたる化学エネルギー変換の工程です。

後半の電気化学的変換の工程では、この水溶液に蓄えられたエネルギーを、効率よく電気として回収します。仕組みとしては燃料電池を応用した方式です。

発電後、エネルギーを使い切った水溶液は廃棄されることなく、再び前段の工程に戻り、新たに投入されたバイオマスと反応することで再充電され、発電工程へと送られます。理論上は、バナジウムが酸化還元反応を半永久的に繰り返すため、適切に不純物を除去していればこの水溶液を長期間使用し続けることが可能です。

──競争環境はどのように捉えられていますか。

競合技術としては、直接燃焼式、熱分解ガス化式、生物化学的ガス化式などが挙げられますが、分散型電源で高効率、高純度CO2を実現できるのは私たちのみです。

高い発電効率、高純度CO2を回収可能な点に加えて重要なのは、小型化対応と湿潤原料対応の両方ができる点です。従来技術は設備を大型化しなければ効率が落ちるため、プラントの分散設置が困難で、かつ水分を多く含むバイオマスの処理には適していませんでした。私たちの技術はプラントを小型化しても効率が落ちにくく、最も小さなモデルでは9平方メートルほどのスペースに設置可能で、水分を多く含むバイオマスにも対応できます。

廃棄コストを利益に変える。飲料・食品メーカーと進める実証

──現在どのような企業と実証を進めていますか。

現在、飲料・食品メーカーなど、各業界のリーディングカンパニーと実証や共同研究開発を複数推進しています。コカ・コーラ ボトラーズジャパン、ミツカン、住友林業をはじめとした企業と連携し、工場で発生する食品残渣をバイオマスとして活用し、小型プラントで発電を行う取り組みの実証を行っています。また、水・エネルギーインフラ企業とはフィージビリティ・スタディを実施しています。

そのほか、KPMG、JETRO、環境省、京都府、NEDO、三菱商事等が提供する支援プログラムへの採択実績があり、表彰やメディア掲載も多数いただいています。

ライノフラックスは、2025年開発の小型実証機「Katsura-1J」に、飲料工場などで発生した残渣を投入し、実証を行っている。サイズは1畳ほど。
2025年開発の小型実証機「Katsura-1J」に、飲料工場などで発生した残渣を投入し、実証を行っている。サイズは1畳ほど。

──飲料・食品メーカーが小型プラントを導入した場合、費用対効果は。

規模やバイオマスの種類によって異なるので一概には言えませんが、例えばある事例では、1工場あたり年間約1億円弱の利益が出る試算です。

さらに、現状はバイオマスの廃棄にコストがかかっています。

これらの廃棄にかかるコストを考慮すると、実際に得られる経済的なメリットはさらに大きくなります。

従来はコストをかけて廃棄していた残渣を価値に変えることができる点が、連携企業に評価されているポイントですね。ちなみに、発生したCO2は販売することもできますが、自社で炭酸飲料の製造などに活用し、製造コスト削減に繋げることもできます。

現時点では試算段階ではあるものの、顧客からは「バッファを考慮しても、十分な導入効果が見込めるのではないか」とのフィードバックを得ています。

「欧米に負けないディープテックを日本から」3人で創業した理由

──創業の背景は。

京都大学で本研究を続けてきた蘆田先生と、三菱重工等で多数のプラント開発を手がけてきた萩本、ビジネスバックグラウンドを持つ私の3名で、それぞれの知見を持ち合わせて創業しました。

私自身はもともと三菱商事に10年弱勤め、一貫して金属資源のビジネスに取り組み、最後の3年間は資源・エネルギー系のスタートアップへの投資に携わりました。10社ほど投資した中で、9社が欧米のスタートアップで、日本のスタートアップは1社のみというような状況で、「日本にもレベルの高い研究が沢山あるはずなのにもったいない」と感じていました。同時に、「自分のようなビジネスサイドの人間が大学の先生と研究を事業化したら面白いのではないか」「グローバル展開を目指せるのではないか」というチャンスも見出しました。

そこで、京大をはじめ10校の大学のホームページのお問い合わせフォームから、「資源・エネルギー系の研究を紹介してください」と、自分の履歴書を添えて連絡したのが始まりです。各大学が様々な先生方を紹介してくださった中で、京都大学の蘆田先生の研究に一番魅力を感じ、グローバルに打ち出していけると確信したのです。蘆田先生と「会社を立ち上げましょう」という話をしました。

とはいえ、湿式ケミカルルーピングを活用した発電は、プラント開発を伴う重厚長大な領域で、サイエンティストとビジネスマンだけでは事業が成り立ちません。起業するには必ずエンジニアを迎え入れて3人で起業しようという話になり、蘆田先生の元教え子である萩本と3人で創業しました。

現在は20名まで体制を拡大し、三菱商事、三菱重工、日立製作所、パナソニック、アーサー・ディ・リトルといった大手企業出身者など、国内外トップクラスの科学者・技術者・ビジネスマンが集まっています。

グローバル66兆円市場へ──分散型から巨大電源までの成長シナリオ

──市場規模と今後のビジネスモデルは。

私たちが対象とする市場は巨大です。バイオマス全体の市場規模は2030年でグローバルベースで66.2兆円、そのうち廃棄系バイオマスが12.2兆円と推計されます。

ビジネスモデルは2段階で構成されます。

短中期的には、発電規模100~2000kW程の小規模分散型プラントを販売します。ターゲットは食品、飲料、下水汚泥といった、廃棄系バイオマスが発生する領域の企業です。

ターゲット企業にとっては、バイオマスの廃棄コストをゼロにできるだけでも十分な価値があり、さらに利益まで創出できるのであれば、なお魅力的です。このため、本領域はユニットエコノミクスが成り立ちやすく、まずはここから堅実に参入していきたいと考えています。

そして長期的には、10~100MWの大型発電プロジェクトのオーナーとして、売電とカーボンクレジット販売により収益を得ることを目指します。顧客は、データセンター、金属製錬、化学といった、24時間365日安定電力を必要とする企業を想定しています。

ここでは、トウモロコシ・サトウキビといったエネルギー作物や、木質バイオマスを対象として、大規模発電プロジェクトを自社で手掛けることで、さらにスケールしていこうと考えています。小規模〜大規模発電まで幅広く対応可能な点が私たちの強みでもあります。

──具体的なロードマップは。

2027年には実際に飲料工場などにプレ商用プラントを設置し、現地実証を進めます。

その後、2028年に小規模プラント商用化を想定していまして、発電規模としては100~2000kWです。

ここから小規模プラントの量産販売を進め、2032年にはそれと並行して大型プロジェクトへの参画を目指します。基本的には上場した後、マーケットから広く資金を調達できるようになってから参画するというのがベースシナリオです。その後も、さらに規模感のあるビジネスを目指していくというところが私たちの現段階でのロードマップになっています。

──今後どのような投資家の方と連携していきたいですか。

本気で世界に勝つ事業を目指し、伴走頂ける投資家との連携を深めていきたいです。事実、弊社の既存株主である京都大学イノベーションキャピタル、Beyond Next Ventures、島津製作所、Global Brainとは、目線を完全に合わせて日々議論を行っています。また、次のラウンドでは少なくとも1社以上は米国・欧州のVCに入っていただくべく、今会話を進めているところです。

エネルギービジネスは日本で小さく進めていても仕方がありません。世界を目指す上で、現地実証は日本で行った方が合理的なのですが、商用化してさらにそれを大型化していくという段階においては、グローバルに出ていく橋頭堡を築くという意味でも、次のシリーズAの段階から、本気で世界を目指すVC、欧米VC、あるいは世界中に工場や拠点を持っている事業会社と連携したいと考えています。

──最後に、今後の意気込みなどがあればお聞かせください。

日本には非常に多くの有望な技術があるものの、これまで「技術で勝ってもビジネスで負ける」というところで、欧米の大規模スタートアップに敗れてきたというのが日本のスタートアップの歴史だと認識しています。

一方で最近では、海外で大規模調達を行う日本のスタートアップが出てきて、私たちのみならず様々な日本企業が本気で世界を目指して道を切り拓いています。言語や文化の壁のないディープテックとしてはなおさら、今が世界展開の好機だと捉えています。

スタートアップだけではなく、投資家や顧客、その他の多様なステークホルダーが一丸となって世界を目指していくことが、ビジネスで勝つうえでは重要だと思っていまして、それを一緒に目指していけるより多くのパートナーの方々と出会っていければ嬉しいです。

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