バイオものづくりで進む脱石油への道、持続可能な化学品製造の革新

バイオものづくりで進む脱石油への道、持続可能な化学品製造の革新

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DeepTech Trend

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KEPPLE編集部


近年、「バイオものづくり」に注目が集まっている。バイオものづくりとは生物由来の素材を用いた製品作りや、微生物・植物・動物といった生物の働きを利用して化合物を製造することを意味する。たとえば、トウモロコシやサトウキビを糖化させて製造するバイオエタノールや、日本酒・醤油など発酵技術を用いた食品、哺乳類の細胞を培養して製造されたワクチンなどだ。

このバイオものづくりは、遺伝子組み換え技術やゲノム解析技術が基にされており、これらの技術の発展に伴って進歩している。また、生物由来であることから脱石油へ貢献し、CO2を排出しない新たな生産方法として関心が寄せられている。

そして、医薬品や食品、化学品、素材、燃料など多様な領域で活用が見込まれるバイオものづくりに対して、国も動き始めている。経済産業省は「バイオものづくり革命推進事業」として、そのバリューチェーン構築に必要となる技術開発・検証を支援しており、2023年から2032年にかけて事業期間総額約3000億円の予算が計上された。

世界的にも、バイオマスやバイオテクノロジーを活用した循環型経済の実現を目指す経済活動を意味するバイオエコノミーへの注目が高まっている。米国では、2032年にバイオ製造市場は30兆ドルにまで拡大すると予想し、バイオ製造に集中的な投資を行う方針を示している。

このような状況下で、スマートセル(改良型微生物)開発技術を用いたバイオ化学品の製造を行うのが、BioPhenolics株式会社だ。同社は、2024年2月にシードラウンドにて資金調達を実施したことを明らかにした。

今回の資金調達により、研究員・エンジニアの拡充、製造設備・運営体制の確立を目指す。

バイオものづくりで脱石油に貢献する

BioPhenolicsは、スマートセル開発技術を基に非可食バイオマスから芳香族バイオ化学品を製造する筑波大学発のスタートアップだ。同社は、微生物による芳香族代謝研究を20年以上行ってきた筑波大学の高谷 直樹教授と、大手化学メーカーやバイオスタートアップでの量産化の成功経験を持つ代表の貫井 憲之氏によって、2023年に設立された。

スマートセルとは、「細胞がもつ物質生産能力を人工的に最大限まで引き出し、最適化した細胞」を意味する。遺伝子組換えやゲノム編集技術を用いて細胞の遺伝情報を改変することで、医薬品やプラスチック、食料など多種多様なものを製造できる。

また、非可食バイオマスとは食用にはできない生物由来の資源、芳香族とはベンゼンを代表とする環状不飽和有機化合物のことだ。同社では、スマートセル開発技術を用いて、従来の石油由来製品に代わる、植物由来のバイオマスから化学品を生み出し、脱炭素社会の実現に貢献することを目指している。

石油化学からバイオものづくりへ

画像:BioPhenolics提供

同社は成長が期待される技術系スタートアップとして、「J-TECH STARTUP 2023」にも認定されている。また、すでに複数企業と共同研究開発を進めており、ベンチスケール発酵槽(90L)を2024年末頃までに運用開始予定としている。

今後の展望などについて、代表取締役社長 貫井 憲之氏に詳しく話を伺った。

ラボ研究と工場化技術で一貫した製造工程を構築

―― 石油資源の活用にはどのような課題があるのでしょうか。

貫井氏:以前は、石油資源の活用には問題がなかったものの、地球温暖化が加速したことで状況が変わりました。石油資源由来のエネルギーからはCO2が排出されるため、その使用を抑制しようという動きが高まっています。しかし、それでは石油を原料とする化学品が不足してしまい需要と供給のギャップが生まれてしまいます。そこで、植物由来のバイオマスを原料とし、製造過程でCO2を減少させられるバイオ化学品が求められています。

カーボンニュートラルで石油化学品が不足する

画像:BioPhenolics提供

―― 御社の独自性や強みはどのような点にあるのでしょうか。

当社の独自性は芳香族の化学品に特化している点にあります。また、強みはスマートセルを開発するラボの技術と量産化するための工業化技術の両方を有している点です。

ラボ技術としては、原料Aを化学品Bに変換するバイオ触媒である酵素を見つけ出す技術を有しています。また、微生物のゲノム編集を通して、代謝バランスを調整し、目的のバイオ化学品だけを製造するように、微生物の改良も行っています。

工業化技術としては、バイオマス原料の活用技術、培養(発酵)技術、培養した液体に含まれる化学品を純品として取り出し精製する化学工学の技術があります。また、工場で量産化を検討するため、ベンチスケールの発酵精製設備を導入しています。さらに量産させる上での課題をスマートセルの遺伝子設計にフィードバックして解決する技術にも取り組んでいます。

そのため、当社では培養から精製、量産化までを一貫して行うことができます。

生活を変えずに環境保護を実現

―― 事業化を進めるうえで、プラスに働いていることはありますか?

バイオエタノールなどバイオものづくりにはこれまでさまざまな流行りがありましたが、近年は特にバイオ化学品が注目されています。経産省でも、グリーンイノベーション基金事業、バイオものづくり革命推進事業といった数千億円規模の大型プロジェクトがここ2〜3年で設立されました。

バイオ化学品を基に脱石油を促しCO2削減を目標とする当社も、ゲノム解析や遺伝子組み換えなど、業界全体の基礎技術の発展や、政府からの資金援助など多くの恩恵を受けています。

さらに、バイオ化学品には多様な種類がありますが、当社は芳香族にフォーカスしているため、競合が少ないのです。加えて、ラボ技術だけではなく工業化技術を持ち、量産化まで実行すると宣言している企業は当社以外にほとんどありません。

高谷の0→1を生み出す研究開発と、私の1→100にするものづくり技術を掛け合わせることで、バイオ化学品を実際に提供できる企業になりました。依頼されたバイオ化学品のサンプルを粉としてお見せし、その後量産化までできるという強みから、多くのクライアントとの取り組みも進んでいます。

―― 御社の技術やプロダクトの普及には、どのようなメリットがあるのでしょうか?

当社のバイオ化学品が普及することで、これまで通りの生活で地球環境の保護につながるという点が最大のメリットだといえます

一般的に、CO2削減をするためには不便な生活を強いられるのではないかという懸念があります。たとえば、プラスチックや食品用ラップフィルムが使えなくなるといった具合です。循環型社会であった江戸時代の生活洋式に戻す必要があるという意見も存在します。

こうした不便な生活を避けるためのアプローチとして、石油由来原料ではなく、バイオマス原料を活用すれば、その原料調達の過程で多くのCO2が削減されます。

また技術により、これまでと同レベルの価格帯で石油をバイオマスに置き換え、最終的な製品の形を変えずに製造することができるようになります。

―― 世界的な合成バイオ市場はどのようなトレンドですか?また、その中での御社技術の優位性について教えてください。

現在、合成バイオは世界的に流行っており、米国では向こう10年で市場が30兆ドル規模になると予想しています。こうした中で、業界全体のナレッジも蓄積され、より参入コストが軽減するはずです。そうなれば、企業、研究機関など新しいプレーヤーが今まで以上に増加するでしょう。

しかし、当社はすでに芳香族研究における世界トップクラスのスマートセル技術を有しています。また、ラボと工場を上手く連携させている点も強みです。

さらに、私たちは芳香族の遺伝子を少し変えるだけで別の化合物を作ることもできます。類似の化合物群であれば、同一の発酵槽で低コストで開発できます。

代表取締役社長 貫井 憲之氏

代表取締役社長 貫井 憲之氏

バイオファウンダリ事業で市場の活性化へ

―― 調達資金の使途について教えてください。

当社は、2023年12月にANRI GREEN1号投資事業有限責任組合より、今年2月には国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の出資型新事業創出支援プログラム(SUCCESS)より、総額1.8億円の資金調達を実施しました。

主な使途は、設備導入・運営費用と人材採用費用です。芳香族バイオ化学品の量産技術立証のためベンチスケール発酵槽(90L)と、ダウンストリームの精製設備を導入します。これにより、キロ単位でのサンプル提供を実現します。

人材採用ではラボの研究員、工場技術のエンジニア、事業拡大のための事業開発メンバーの採用を強化していきます。

―― 今後の長期的な展望はありますか?

今後の展望としては、新たなパイプラインを増やしていくというのが一つ。それと並行して、製品量産化のために生産性の高いバイオ技術、スマートセルを開発していきます。

また、今年中には90L規模の発酵槽を導入予定のため、キロ単位でサンプルを提供可能になります。サンプルを活用して、クライアントの関係をより深めてまいります。

そして、現在は原料を工程ごとに反応・精製させ、容器に移し替えるバッチ生産という方式を採用していますが、将来的には、原料を連続的に移動させながら反応・精製可能な連続生産方式を開発し、生産コストを半減させる予定です。

―― 新たに手がける「バイオファウンダリ事業」についても教えてださい。

合成バイオ業界では大型の工場設備が少ないという課題があります。当社は2025年より本格的にバイオファウンダリ事業を開始し、受託による量産化支援を行います。同じ業界であっても、異なるプロダクトを提供する企業であればサポート可能です。

石油化学に置き換わるバイオものづくり産業を誕生させるためには、点ではなく面でのアプローチが必要です。当社だけでなく、多くの企業がバイオ化学品を製造できる環境を実現することが重要です。しかし、工場設備の投資には莫大なコストがかかるため、当社の設備で支援していきます。

このバイオファウンダリ事業を推進する中で、当社の生産量も1万トン、10万トンへと拡大していきます。多様な企業に活用してもらうことで工場の稼働率が上がり、全体的に生産コストが下がることを見込んでいます。

また、バイオ原料となりうるにもかかわらず、国内企業の製造工程において大量に廃棄されている資源についても、バイオファウンダリ事業の一環として、その活用について複数社と協議中です。

このように、業界全体の底上げも見据えて、今後も多くの挑戦を続けていきます。ぜひ、私たちの事業に興味を持ち、志に共感してくださる方、共に事業成長を目指していただける方に参画いただければ嬉しいです。


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