株式会社BiPSEE

精神疾患治療における新たなデジタル療法の開発を進める株式会社BiPSEEが、第三者割当増資によるシリーズAの1stクローズを完了し、累計資金調達額は6.4億円となった。 出資には京都大学イノベーションキャピタル、Beyond Next Ventures、Scrum Venturesなどが参加している。
BiPSEEは2017年設立のヘルステックスタートアップで、心療内科や精神科、小児科などの医療機関、ならびに法人や教育現場を主な顧客として、VRやAIを活用したデジタルソリューションを提供している。現在の主力開発プロダクトは、うつ病患者を対象としたVRデジタル療法(VRx)である。このVRxは、特に薬物療法で十分な効果が得られない治療抵抗性うつ病患者を想定し、デジタル技術を用いた新しい治療プロトコルを導入している点が特徴だ。認知行動療法(CBT)に基づくVRプログラムとスマートフォンアプリを組み合わせ、うつ病の症状の一つである「反すう思考」へのアプローチに重点を置いている。
提供予定のサービスは「アバターAIケア」「VRxソリューション」「ヘルスケアDXパートナーシップ」など複数あり、音声AIによる対話型ケアや医師処方型のVR治療プログラム、医療機関・教育機関向けのデジタル実装支援も計画されている。2025年には高知大学医学部と共同で実施した臨床研究の完了しており、探索的試験ではうつ病スコアの有意な軽減効果が確認されたと発表している。これに伴い、厚生労働省による「プログラム医療機器優先審査」の指定や、NEDO「ディープテック・スタートアップ」支援にも採択されている。
代表取締役CEOの松村雅代氏は心療内科医であり、企業での産業医や米国医療ベンチャーでのマネジメント経験を経て、2017年にBiPSEEを創業した。松村氏は現在も臨床現場に立ちつつ、大学や研究機関と連携し、理論的根拠に基づくデジタル療法の開発に取り組んでいる。
デジタルセラピューティクス(DTx)領域では、国内外でスタートアップ支援やプログラム医療機器(SaMD)の規制整備が進展している。世界的にうつ病患者は3億人以上、日本国内でも推計約500万人とされている。うつ病治療は主に薬物療法が中心だが、初回治療での寛解率の低さや再発率の高さが課題となっている。認知行動療法などの非薬物療法も導入が進んでいるが、精神科クリニックでの実施率は約6%と限定的である(科研研究成果報告書2018年)。このような状況下で、医療現場と患者双方からデジタル技術への期待が高まっている。
海外では、BehaVRやXRHealthといったAIやXR技術を活用した精神疾患治療のスタートアップが事業展開を進めている。これらの企業はオンライン診療やVRリハビリなど、従来の医療モデルにとらわれない新しいアプローチを展開している。日本国内でも、医療現場の業務負担軽減や健康格差の是正などの社会的要請を背景に、DTxスタートアップへの関心が高まっている。
今回の資金調達の主な用途は、治療抵抗性うつ病患者向けVRデジタル療法の治験実施と薬事承認申請準備である。また、プロダクト開発や事業開発体制の強化、他の精神疾患領域への事業展開、協業ネットワーク構築にも資金を充当する予定だ。投資家は、非薬物療法市場での新たな治療オプションとなる可能性や、国内外市場での事業拡大余地、医療DX領域での社会的なインパクトなどを評価ポイントとして挙げている。
BiPSEEは2025年中の治験開始を計画し、医療機器としての薬事承認取得および市場投入を目指している。さらに、シリーズAの2ndクローズを通じた追加資金調達も視野に入れている。医療現場の知見とデジタル技術の融合を進め、今後はより広範なメンタルヘルス支援ソリューションの展開をしていく計画だ。