movus technologies株式会社

東南アジアの移動インフラを支えるエコカーサブスクリプション、movus technologiesがシリーズBで総額42.6億円を調達
代表取締役CEOの酒井氏が着用しているのは、インドネシアの民族衣装/正装であるバティック。現地に深く入り込んだ同社のビジネスについて、話を聞いた。
インドネシアでライドシェアドライバー向けのエコカーサブスクリプションを展開するmovus technologies株式会社は、シリーズBラウンドで16.6億円のエクイティ調達を行うとともに、26億円の借入を行い、合計42.6億円の資金調達を完了したと発表した。リードインベスターはスパークス・アセット・マネジメント。三菱UFJキャピタル、ニッセイ・キャピタル、Suzuki Global Venturesなど既存・新規投資家が参加したほか、みずほ銀行、三井住友銀行を含む計5行が融資を行った。
movus technologiesは2021年2月に設立。同社が向き合うのは、インドネシアにおける移動インフラと金融アクセスのギャップである。東南アジアでは鉄道やバスなどの公共交通が未発達で、GrabやGojekといった配車アプリが事実上の公共交通機能を担っている。一方で、ライドシェア需要の拡大に対して、供給側であるドライバーの数は追いついていない。
ドライバー不足の背景にあるのは車両取得の壁だ。ドライバーとして稼働すれば平均所得の数倍を稼げる可能性があるにもかかわらず、現地金融機関ではライドシェアドライバーへの融資やリースの審査が通りにくく、金利も比較的高い。同社によると、現地金融機関によるローン審査通過は実質不可能となっている。

同社はこの構造に対し、IoTデバイスと独自の与信審査システムを組み合わせたエコカーのサブスクリプションサービスを提供する。銀行口座や十分な信用履歴を持たない層に向け、オルタナティブデータも活用しながら与信判断を行う。
代表取締役CEOの酒井丈虎氏は「金融機関がアクセスするような情報ではなく、ソーシャルメディアの情報や電話番号から取得できるオルタナティブデータを活用して与信判断を行っているため、通常の金融機関では審査が通らないような方々にも裾野を広げられている」と説明する。
車を持つ機会を得られなかった人がライドシェアドライバーとして働き始め、平均所得の数倍を稼げる可能性を手にし、生活を変えていく。その小さな変化を積み重ねることが、movus technologiesがインドネシアで取り組む事業の出発点にあるという。
利用者は月額5万〜6万円程度を支払いながら車両を利用し、一定期間の利用後に所有権を取得できる仕組みだ。提供車両は、インドネシア政府が認定するLCGC(ローコストグリーンカー)を中心に、現地で普及している燃費性能の高い低価格帯のガソリン車を採用している。
車両の盗難リスクを避けるため、車両にはIoTデバイスを搭載し、利用状況をモニタリングする。指定エリア外への移動を検知した場合にはアラートが飛び、必要に応じて遠隔で車両を停止させ、早期に回収するオペレーションも整備しているという。酒井氏は「オペレーションが未整備であることで、車が1台持ち去られてしまい、数百万円規模のロスにつながるリスクのある事業領域だ。与信から回収、不正検知まで、全プロセスをしっかり作り込むことが重要」と述べ、与信・アフターサービス・債権回収・不正検知までを一体で運用する体制を整えていることが、同社の競争優位性の中核にあるという。
同社はすでにインドネシア国内で7都市に展開し、月間の問い合わせ件数は1万件を超え、需要の高さが窺える。同分野では、ナイジェリア発のMooveやメキシコ発のOCNなど、新興国でドライバー向けに車両調達を支援する企業が台頭している。東南アジアでは競合はまだ限定的だが、世界的には市場が立ち上がりつつあるようだ。
同社は月間ユーザー5150万人(2026年第一四半期)を有する配車プラットフォーム Grabと正式にパートナーシップ契約を締結。東南アジア8カ国で展開する同プラットフォームと連携し、ドライバーへの車両供給を担うとしている。

インドネシアで奔走した事業立ち上げ期について、酒井氏はこう振り返る。
「事業開始後半年は、ゼロベースで事業を作り込みました。共同創業者2人で車の回収業務に出向いたり、ドライバーのコミュニティが開かれる駐車場にござを敷いただけの場所で、ローカルフードを一緒に食べながら信頼を構築したりと、いわゆるスタートアップらしい生活をやってきました」
今後、movus technologiesは2年で1万台の供給を目標に置く。現在はインドネシアを中心に展開しているが、将来的にはベトナムやフィリピンといった東南アジア各国、さらにはバングラデシュ、パキスタン、インドなどアジア全域への拡大も視野に入れる。酒井氏は「まずは東南アジアを中心に広げていきたい。ベトナムやフィリピンも人口規模が大きく、モビリティ需要がある。さらにアジア全体で見れば、バングラデシュ、パキスタン、インドのような数億人規模の市場もあり、今後はそうした国々にも展開していきたい」と話す。
スタートアップにとって、海外の成長市場はチャンスである。同時に、酒井氏は「人口減少や円安の時代において、外貨を獲得できるスタートアップの価値は高まっているはず」と見ている。「利率の低い日本から資金を融通し、現地の課題を解決しながら、経済的にもWIN-WINになる形をつくっていきたい」と同氏は語る。
今回の調達は、東南アジアの移動インフラの機能不全を解消するための一手と言える。日本の資金調達力と現地の運用をつなぎ、車両取得の壁を下げられるか。movus technologiesが示す次のスケールに注目したい。










